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031 エルフの子供たち

「よく来たな」


エルフ族長は、よく響く低音の声で迎えてくれた。

威厳のある風格。少し細身で高身長、キッチリ整えられた白いヒゲに几帳面さが感じられる。

たしか、父の長兄だと聞いたことがある。


「族長のアードルフだ」

「レオンハルトです」


挨拶にも表情が変わらないのは、気難しいのか、歓迎されていないのか。


「話は聞いている。こちらも精鋭部隊を送り込むつもりだ。皆が揃ったら会議をするから、そのつもりで」

「はい、ありがとうございます」

「ところで、ルーヴィッヒ様が天に還ったと聞いたが本当か?」

「はい、3ヶ月ほど前に」

「……そうか。墓はどうした?」

「精霊族なので魔素に還ってしまったため、墓は作っておりません」

「それもそうか。ならせめてシノン様の墓の隣に遺品でも埋めてあげてくれ」


ーーたしかに! 自分のことで精一杯で思いつかなかった。


「父の件が落ち着いたら、必ず」

「うむ。近いうちにあっちの連中も着くはずだ。それまでは隊の訓練に参加して連携できるようにしておくといい」

「ありがとうございます」

「ラウリ、案内してやれ」

「承知しました」


族長の執務室を後にした俺はホッとして息を深く吐いた。

見守るようにしていたラウリは、ふっと笑う。


「緊張したか?」

「少し」

「お前さんはこの谷に来たのは初めてだったか」

「はい」

「なら今日は谷の見学でもしておけ。着いたばかりだし、本格的に訓練に参加するのは明日からでいいだろう」


ーー正直、寝不足だし体力も限界に近かったから助かる。


「部屋はこっちの警邏隊の仮眠室を使ってくれ」

「ありがとうございます。お世話になります」

「めったに客が来ることがないから客室がなくてすまんな」

「いえ、充分ですよ」

「夕食の時間になったら迎えに来る」


お礼をして見送ってから、窓際にある机に荷物を置いて椅子に深く腰掛けた。

本当はベットに寝っ転がりたい気分だが、今の俺の服装は汚れているので気が引けた。クリーン魔法をかけて寝てしまえば良いと思いつつ、身体が動かない。

机にヒジをついて手のひらに重い頭を乗せ、窓の外をぼんやり眺めていた。


谷の間を流れている川の音、子供たちの楽しそうな声も聞こえる。


少し遠くからは何かがぶつかるような鈍い音や、金属がぶつかるような音が響いてくる。

訓練の音だろうか。あとで少し覗いてみよう。


声をかけてくれたのがラウリで良かった。

ちょっと強面だけど親切で面倒見が良い。

誰かに似ているような気もするけれど誰だったかな……


フィンはいつ来るのだろう。

早く会いたい。


声が聞きたい。





いつのまにか座ったままうたた寝をしていた。

ゆっくりと開いた目蓋がまだ眠いと訴えてきたが、何もしないで一日を終えるわけにはいかないと立ち上がり、自分にクリーン魔法をかけて部屋を出る。

訓練場に行ってみようと外に出たのだが、川で遊んでいる3人の少年に足を止めた。

というのも水をかけられてしまったからである。

それはもうビッショリと。


「うわわわっごめんなさい!」

「ばっか、おまえ何やってんだよ」

「だってぇ……」


困ったなぁと思いつつも、子供達は素直に謝ってくれたので「大丈夫だよ」と笑顔で返す。


「水遊び、楽しそうだね」

「うん、お兄さんも一緒にやる?」

「本当は水魔法の練習してたんだけどな〜」

「けっきょくいつも遊んじゃうんだよね」


楽しそうに笑う子供たちにつられて俺も笑顔になってしまう。


「お兄さんは魔法できる? 得意?」

「魔法は得意というより、器用だと言われるかな」

「へぇ。魔力量はどのくらい?」

「残念ながら多くはないんだ。そのぶん技術でカバーしてるよ」


少し怪訝そうな目を向けられてしまった。


「技術ってどんな?」

「水魔法だとこんなかんじかな」


川の水面に手のひらをつけて魔力を流すと、水面に一直線の水しぶきが走った。


ーー魔法はイメージされたものを形作る。想像しろ、とびっきりの魔法を……!


徐々に盛り上がった一直線の波はやがて水を巻き上げながら集まっていき、動物の形を作り始める。

渦を巻いていた水の中から姿を現したのは、雄々しい水馬。

魔法の馬は川を滑るように駆けていき、上流で静かに水に戻っていった。



「う〜おぉぉぉ! すっげぇ!!」

「かっこいい! どうやったの!?」

「ぼくにも教えてー!」


ーー良かった、上手くいった。

この魔法は弟妹たちも喜んでくれていたから、ちょっと自信があったんだよね。


こうして子供たちに懐かれた俺は、谷や周辺を案内してもらったり、果物を分けてもらったりした。

魔法を教えてもらったお礼だと言われたが、水馬の魔法が役立つかは疑問だ。



□□□


一方、魔王城では不機嫌そうに舌打ちをするアモンが北の空を睨んでいた。


「あの結界の中まではさすがに視えないか」

「エルフの里に着いたのですか?」

宰相のムスクはお茶を入れながら聞き返す。


「ああ、だがあそこは例の結界が残っているからな。こっちからは手が出せん」

「誰か送りますか?」

「いや、いい。あそこなら奴にも気づかれないだろう。谷から出てくるのを待つさ」

「かしこまりました」

いつも読んでいただきありがとうございます! ブックマーク登録や評価、リアクションなど頂けると執筆の励みになりますので、少しでも面白いと思ったらよろしくお願いします。


☆1000PV超えました!

なかなかアクセスが伸びず「異世界創造伝記」に比べれば亀のようなゆっくりペースですが、読み続けてくださっている皆様のおかげでここまでこれました。ありがとうございます。

これからも地道にアップしていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。


☆1000PV記念に、赤髪の騎士のエピソードを短編としてアップしました。

今までのリオニダスのエピソードを再編集して少し加筆したものです。興味がありましたらこちらもよろしくお願いします。


「赤髪の騎士は婚約破棄された令嬢の幸せを願う」

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