030 エルフの谷
お待たせしました。やっとレオンハルトの出番でございます。
「見ない顔だな。どこから来た?」
エルフの谷を見つけた俺は、崖沿いに歩いて降りる場所を探していたところに後ろから声をかけられた。振り向くと、狩りの帰りだと思われるエルフの青年が胡散臭いと言いたげな目でこちらを見ている。
「すまない、谷に降りられる場所を教えてもらえないだろうか。聖山の西側から来たレオンハルトといいます」
「……ああ、隠れ里のほうの。話は聞いている、こっちだ」
彼は両手が塞がっていたため顎で方向をさして付いて来いという。遠慮がちに後ろをついていくと、崖の少し出っ張ったところで立ち止まった。
「ここから飛び降りる」
「はいっ!?」
「着地は風魔法で衝撃を押さえれば問題ない」
「ええっいつもそんな降り方なのですか?」
「そうだ」
ーーたしかに理屈としては分かる……けど、かなりの高さだ。家を積み上げたら7軒くらいあるぞ!?
崖の下をチラリと見て喉を鳴らす。
なんか嫌な汗もかいてきた。
「ふんっ根性なしか。オレは先に行くぞ」
そう言って彼は崖から飛んだ。
慌てて崖下を覗くと、足元に風魔法を展開して余裕で着地しているのが見えた。
ーー俺にも出来るだろうか。たぶん出来るとは思う。
ただし、それと飛ぶ度胸があるかどうかは別の話だ。
この高さから飛び込むのはかなり怖い。
下を覗き込んだまま怖気づいていると、ふとヴィーが空を飛んでいる姿を思い出した。
ヴィーは自由に空を飛び回っているじゃないか。
そうだ、翼があれば空を飛べる。
魔力を練って翼を作れば……
想像しろーーイメージするんだーー大きな翼を……
自分の魔力だけじゃ不安だから周辺にある魔素も使おう。
周りに集めた魔素が渦を巻き、俺の魔力と混じり合って形を作っていく。
やがて大きな翼の存在を背中に感じた。
ゆっくり動かしてみる。
ーーうん、いけそうだ。
ーーあとは、ほんの少しの勇気だけ。
白い羽を動かすと浮遊を感じたので、崖の先端に寄ってみた。
吹き上げる風に乗って体が浮く。
体を傾けて翼を動かせば方向のコントロールも可能だった。
ーーこれなら飛べる!
一歩踏み出した俺は谷の間をスィーと旋回し、ゆっくりと下に向かう。
緊張するけど怖くはない。
無事に谷の下に降り立ち、周りを見回して安堵の息をついた。
ーー良かった! 無事に降りられた……!
顔を上げると先ほど案内してくれた青年と目があった。
「お前、けっこうやるじゃん」
青年は歯を見せて笑ったが、後ろに現れた大男にゴツンと頭を殴られていた。
「いっっってー! 何すんだよ!!」
狩ってきた獲物を放り投げ、頭を抱えてうずくまっている。
かなり痛そう。この大男のエルフは強そうだな。
「何すんだはこちらのセリフだ。客人の案内も満足にできんのか」
「ひとりで降りられてただろ」
「お前たちが度胸試しで飛び降りて遊ぶのは勝手だが、客人を巻き込むな」
「でもちゃんと降りてきたし」
「ああいうのは”ちゃんと”とは言わない」
青年は再び殴られていた。
呆気にとられていると、その大男はこちらに向かって頭を下げてきた。
「すまない客人。向こうに魔法の足場があるから、今後はそちらを使ってくれ」
「あ、はい、ありがとうございます」
「……もしかして、レオンハルトか?」
「あっはい! ご挨拶が遅くなって申し訳ありません!」
思わず背筋がピーンと伸びてしまう。
大男は不躾にじろじろと見てきた。
「たしかに、ルーヴィッヒ様の面影が少しあるな」
ーー大爺様に似ていると言われるのはちょっと嬉しい。
「ここではなんだから族長のところへ行こう。入口は向こうだ」
大男の後ろをついていくと、崖に入口の穴がいくつか作られていた。
崖の中は迷路のようになっていて、奥には部屋もたくさんあるらしい。
すれ違うエルフ達からは物珍しそうな目を向けれる。
「すまんな、客人を住居の中に入れることはめったにないから皆気になっているんだ」
「こちらこそ急に来てすみません」
「隠れ里のほうから連絡はもらっている。あいつらも2〜3日中には着くだろうさ」
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はラウリだ。この谷の警邏隊に所属している」
「レオンハルトです。よろしくお願いします」
「まぁ、あれだ。この谷の住民はほとんどここから出ることがないからお前さんは珍しがられるだろうが、何かあったら俺に言ってくれ」
「ラウリさんは他の種族に抵抗はないんですか?」
「俺は仕事柄、外の連中と接触することもあるからな。この谷も昔に比べれば外と交流をするようになってきたとは思うんだが」
「年寄り連中はエルフ至上主義が多いし、その影響を受けている若い奴らも多い。着いたぞ、気を引き締めろ」
ラウリは小声でそういうと、立ち止まった部屋のドアをノックした。
「族長、レオンハルトを連れてきました」
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