027 それぞれにできること
……この神父はなんとなく油断ならないと感じたものの、結界の魔道具があれば辺境伯の屋敷周辺だけでも守ることができるだろうと考え、今は神父に協力することにした。
まずはローゼンドルフ閣下に伝書鳥を飛ばして現状の把握だ。
閣下の無事が保証されれば王国内の拠点として頼ることができる。
そちらはアシュリー嬢と村長さんにお任せすることになった。
次は簡易結界の魔道具についてだが、こちらは難航しているらしい。
途中まで進んでいると言って見せてくれたが、俺は魔道具についてはあまりわからない。
説明を聞くと作り方は手探りのようだった。
魔界の魔術なんて、こちらの世界では未知のものだから仕方がない。
こちらは神父と町工房が担当しているとのこと。
そして、カーディナルの結界から出てくる人たちの洗脳を解呪するための、モニカ嬢特製手作りクッキー。
このクッキーは聖山の麓で採取した薬草と聖魔法を練り込んで作っているそうだ。
さすが聖女様……などというと、「私はもう聖女じゃありません!」と怒られてしまうのだけれど。
大量に作るため、焼きと包装は近所の奥様達も手伝ってくれているらしい。
国境での配布は警備兵のみなさんも協力しているとのこと。
となると、俺達にできることは……。
魔道具作りに難航しているなら錬金術村で助言をもらえないだろうか。
聖山の魔素にも精通している彼等なら、良い案を出してくれる気がする。
問題はどうやって村まで行くかだが……山を登ると時間がかかる。空を飛んだほうが早いよな?
ヴィーが飛ん行ってくれると助かる……けれど。
俺は外でアリスと一緒に遊んでいるヴィーに声をかけた。
「ヴィー、錬金術村に飛んでいって魔道具の助言をもらえたらと思うんだけど、おじじ達に説明できそうか?」
「説明? たぶん大丈夫なんじゃない?」
ーーその反応。絶対わかってないだろ。
ヴィーの雑な返事にどうしたものかと考えていたら、トールが手を上げて立候補してくれた。
「ぼくがヴィーに乗って行くよ。精霊魔法の適性があるから付与もできるかもしれない。完成できそうならそのまま作ってもらってこようか」
「完成できるなら助かるけど、元々はこの村で作り始めたものだから……」
横取りする形になってしまうのはどうなんだろうと心配したが。
「今は完成を急ぐのが最優先ですから、よろしくお願いします」
神父があっさり許可を出した。
成果を横取りするかんじで申し訳ないと思っていたのだが、本当に良いのだろうか。
せめてのおわびに町工房の皆様にはおばばが錬金した特別素材をお渡ししたい。
トールに買い付けをお願いしておこう。
……俺の小遣いで足りるかなぁ。
アリスはモニカ嬢のクッキー作りを手伝いたいと申し出たのでお願いすることにした。
薬草の採取ならアリスもできるし、女の子同士で話も合いそうだから良かった。
それに、この村は混血の民が多いからエルフの里よりも居心地が良いかもしれない。
神父様達の反応を見る限りはアリスを預けても大丈夫な気がする。
ならば俺は今のうちにエルフの谷に行ってこようか。
□□□
翌朝、大きな鳥に変化したヴィーとトールが飛び立ったのを見送り、俺もエルフの谷へ向けて出発準備をはじめた。
初めて行く、父と母が出会った場所。
エルフは閉鎖的で、ふたりは結婚に反対されて谷を出たと聞いている。
きっと血縁者の俺は歓迎されないだろう。
不安がないわけじゃないが、父上のためにも腹をくくるしかない。
「レオン兄、本当に一人で行くの?」
アリスが不安げに見上げてくる。
まだ幼さが少し残っている妹に心配をかけたくない。
大爺様にもしかられてしまう。
「大丈夫だ。アリスは周りの言うことをちゃんと聞いて良い子にしてるんだぞ」
頭を撫でると、ギュッとしがみついてきた。
「ちゃんとご飯を食べるんだぞ」
「うん」
「野菜も残さず食べること」
「うん」
「手洗いとハミガキ忘れるなよ」
「わかってる」
「寝る前はトイレに行くんだぞ」
「わかってるってば」
俺はアリスを少し強めに抱きしめて頬をすりつける。
幼かったアリスには亡くなった母上の分も愛情込めて接してきたつもりだ。
こんな風に離れるのは初めてかもしれない。
ーー大丈夫だ、きっと、大丈夫。
アリスの体温を感じながら、息を深く吸う。
いろいろな不安が薄れていく気がした。
ーーよし、元気の充填完了。気合い入れて行くか。
「じゃあ行ってくるよ。アシュリー嬢、モニカ嬢、アリスのことをよろしくお願いいします」
俺はそう言って身体強化とスピード上昇の魔法を展開し村を立った。
□□□
エルフの谷はドバニー村から更に北へ行き、山を少し回り込んだところにある。
今回は単独で移動するから多少の無理をしてもスピード重視だ。
例の魔道具が完成する頃には戻りたいから、なるべく早く到着したい。
そう思ってひたすら山裾を駆けた。
道もなく険しい山中。
岩と大樹が入り組む迷路のような大森林。
食事も休憩もそこそこに、ひたすら前に進む。
2日ほど山を駆けていくと、霧が立ち込めた谷に辿り着いた。
一面真っ白でよく見えないが力強い水音がする。
近くに滝があるのだろう。
風魔法で辺りの霧を払うと、現れたのは森に囲まれた断崖絶壁。
水しぶきを上げて音を響かせる滝。
滝壺から流れていく川には遊んでいるエルフの姿と、水車。
まわりには可愛らしい建物もいくつか見える。
崖下にはたくさんの木が生えており、青々とした草むらや畑も広がっていた。
吹き上げる風が新緑の匂いを運んできて鼻をくすぐる。
光る風が、美しい景色をより一層眩しく魅せる。
ーーこれが、エルフの谷……!
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