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003 エルフの隠れ里

ここはエルフの隠れ里。

大陸の北にある巨大な聖山の西側、迷いの森の中にある。

「迷いの森」とは、足を踏み入れても道に迷ってしまい元の場所に戻ってきてしまう不思議な森。


精霊王の系譜・ルーヴィッヒが森に魔法をかけて、許可のない者は里にたどり着けないように隠したのだ。森を覆う巨大な結界、それを一人で幾年も維持していたのだから彼への負担は計り知れない。


そんな彼も、一ヶ月前に亡くなってしまった。



故人を偲びながら残されたものを整理していたところに、魔王の強襲。

黒髪のヴィックが魔王に連れ去られてしまった。

残された者たちは呆然と立ち尽くすしかなかった。


連れ去られたのがヴィックなら、視界の先に倒れている者もまたヴィック。

レオンとアリスは困惑していた。



ーーこれは……一体、何が起こっている!?


大爺様はもういないし、父上も隣国カーディナル王国へ行っている。

留守を預かっていた長男のレオンは顔が真っ青だ。


俺は……どうすれば…………


思考がグルグルと彷徨い、足元がグラつく。

沼のようにずぶずぶと沈んでいくような感覚に襲われて、手で顔を覆い、崩れ落ちそうになる意識を必死に支えた。

そんなレオンを心配してアリスが声をかける。

弱々しく袖を引っ張る腕が、わずかに震えていた。


「……レオン兄、大丈夫?」

「アリス⋯⋯すまない、大丈夫だ。」


レオンは妹を安心させようと気丈に答えた。

だが内心は言葉にならないほどの不安と恐怖で埋め尽くされている。



倒れたままの翠玉の髪をしたヴィック。

その上を心配そうにフヨフヨと飛んでいる、うっすらと光る半透明の白い小鳥。


魔王は「闇の力と一部の記憶以外は邪魔だったから分離した」と言っていた。

「本体はそっちだ」とも。


つまり、翠玉のヴィックが本体で、連れて行った黒髪のほうは闇の魔力塊?

白い鳥は弾き出された魔力が形作られたものだ。




深く息を吸ったレオンは「ヴィックを助けなければ」と顔を上げる。


横たわるヴィックを抱えあげ、ベットに運ぼうと歩いていると 

自我を取り戻した叔父も手伝ってくれた。

魔王の強い魔力にあてられて動けなかったようだが、体調は大丈夫そうだ。


「ルーヴィッヒ様の結界が弱ってきていたとはいえ、これほど早く魔王が来るとは」

「ヴィックは大丈夫でしょうか? こちらが本体だと言っていましたが」


白い鳥をチラリと見て。

「こっちは……何だろうね?」

頭の上には???しか出てこない。



とりあえずヴィックを寝台に寝かせて今後のことを話し合う。


「父には今日中に伝書鳥を飛ばして連絡しておきます」

「瓦礫の片付けは任せておけ。あの部屋の遺品整理も合わせて進めておこう」

「ありがとうございます。叔父上にはご迷惑をおかけしてすみません」

「かまわんさ。家族のようなものだろう、遠慮するな」


叔父の優しさが沁みてくる。



「……あの、時期を見てヴィックを助けに魔王城に行こうと思うのですが」



「ぼくも一緒に行く。」


後ろから声がした。

振り向くと、翠玉のヴィックが目を覚まして身体を起こそうとしていた。


「ヴィック! 気がついたのか。大丈夫か!?」


急いで駆け寄って背中を支える。


「ありがと、大丈夫。それより魔王城だけど、ぼくも行くからね」

「でも……おまえ小さくなってるし、無理はするな」

「年齢が少し巻き戻ったけど、魔力の循環は良くなって力が湧いてくるかんじだよ?」

「そうなの? あー……でも、アリスひとりを留守番させるわけにはいかないし……」

「私も行く! 私もヴィックが心配だもん。一緒に行くよ!」

「アリスは9歳になったばかりだろ。旅をするにはまだ早いから」

「やだ! 行くったら行くの!!」


興奮するアリスをなだめようとしたとき、外がガヤガヤと騒がしくなった。

先ほどの騒ぎを聞きつけて里のみんなが集まってきたようだ。

叔父はこのまま瓦礫の片付けを手伝ってもらうと言って外に出ていった。


行く気満々のアリスをちらりと見て、レオンは静かにため息をついた。



大爺様からは「弟妹を魔族に絶対に会わせてはならない」と言われていた。

とくに魔王は姉であるシノン大婆様へ執着していると聞いている。


魔族だったシノン大祖母様に一番似ているのはアリスだ。

胸の位置で切り揃えられた黒髪と、少し大きめの八重歯。

魔族の特徴に近い。

魔王領に連れて行くのは不安しかない。


そして、それ以上に魔王の興味を引いてしまったヴィックの魔力。

一体何を考えているのか……



魔族だからといって悪とは限らない。

人間の悪いやつを「悪人」と呼ぶように、魔族の悪い奴らを「悪魔」と呼ぶ。

だったら。

今回の行動、こんな非道なことをするなんて魔王こそが悪魔じゃないのか!?


レオンの恐怖が怒りへと変わる。



あいつは「お前達ならいつでも歓迎してやる」と言っていた。

魔族の血を引く者なら、ということなら。


ならば魔王城に行ってやろうじゃないか。

俺の容姿はエルフ寄りだから執着されることはないだろう。

どうにかして連れて行かれたヴィックを取り戻さなくては。

ちゃんと元に戻る……


俺一人でも魔王城に乗り込んでやるーー!

いつも読んでいただきありがとうございます!

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