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025 追放聖女と赤髪の騎士

「カーディナルから出てきた方々は体調が悪くなることが多いので、回復魔法をクッキーに込めました」


「詳しいお話は私がお世話になっている協会でしませんか? 神父様にも手伝っていただいているんです」


モニカ聖女は強い意志が感じられる瞳を柔らかく細め、にっこりと微笑んだ。



他国貴族の馬車は目立つだろうということで、協会までは国境警備隊の馬車で送ってもらえることになった。

馬車を用意してくれているのを待っていると、後ろから袖を引っ張られた。


「レオン兄、知り合い?」


アリスが小声で話しかけてきたので振り向くと、トールとヴィーもアリスと身を寄せ合って気まずそうにしていた。

先ほどのリオニダス卿の殺気にびっくりして後方で静かにしていたようだ。


「すまない、紹介するのを忘れていた」


「アシュリー嬢は紹介したとおりで、桃色の髪の彼女は半年前までカーディナル王国の聖女だったんだ」

「おーっ!かっこいい!」

「それと、さっきの彼はリオニダス卿といって、アシュリー嬢の婚約者の……」

「元婚約者です、レオンハルト様」


アシュリー嬢がかぶせるように訂正してきた。

笑顔なのに圧を感じる。

婚約破棄された身としては思うところがあるのだろうか?


「あ、えっと。彼はアシュリー嬢の元婚約者であるカーディナル第一王子の護衛をしていたことがあって、俺は何度かお会いしたことがあるんだ」


「元々は王国騎士団の副団長を努めていたのですが、国外追放された聖女モニカ様の護衛でこちらの国まで来たようです」

「副団長って聖女様の護衛もするの?」

「《聖女》は特別な存在ですから、重要な任務のため王族に連なるリオニダス様が選ばれたのでしょう」

「あの人って王族なんだ」

「王弟である大公殿下のご三男なの。第一王子のトルナード殿下と歳が近いので、子供の頃は側近候補として一緒に教育を受けていたそうですよ」

「へぇ〜! アシュリー様も仲良しなの?」

「殿下の婚約者に決まってから顔を合わせることは多かったですね。子供の頃は一緒に遊ぶこともありましたが、彼が騎士団に入られてからは会話することは少なかったかも……」


「アリス、人にはそれぞれ事情があるんだから、あまり深く聞いちゃいけないよ」


これ以上はまずいと思ってアリスを止める。

トルナード殿下のことだから、アシュリー嬢が他の男と会話するのを嫌がったのだろう。

あ〜……なんか、目に浮かぶよ。


その光景を想像して苦笑いしていたところに馬車がやって来た。



「モニカ様、お待たせしました!」

「ありがとうございます。リオニダス様、すみませんが残りのクッキーの配布をお願いできますか?」

「お任せください。辺境伯の馬車もお預かりしておきます。中にあった荷物は今移動させておりますので」

「あと、領主様への連絡ですが……」


モニカ聖女とリオニダス卿がテキパキと指示を出す。

半年も一緒に行動していたからか、しっかりと連携が取れている。

でもこの男……俺の記憶が確かなら、このリオニダス様という男は……



「アシュリー嬢、せっかく再会できたというのに一緒に行けずに残念です」


リオニダス卿はアシュリー嬢の柔らかそうな髪を一束すくうと、毛先にそっと口づけた。

そうだ、こういう奴だ。剣の腕は立つが女性との噂が多いと聞く。


「リオニダス様、アシュリー様に失礼ですよ」


モニカ聖女がものすごい顔で睨んでいる。

先ほどの態度でも思ったが、彼女はアシュリー嬢のことが大好きなんだろうな。

リオニダス卿は何もしていません!とでも言うように勢いよく両手を上げた。


馬車を見送る騎士としての彼は、婚約破棄の話を聞いた時に殺気を出していたのが信じられないくらいで。

さすが王族と思えるような凛とした佇まいは鍛えて引き締まった体躯を引き立たせており、整った容姿はもちろんのこと、その甘く優しい眼差しは……そりゃ落ちない女性はいないだろうと思わせるものだった。




馬車の中ではモニカ聖女がこれまでの経緯を簡単に説明してくれた。


半年前に神殿で突然「偽聖女」と呼ばれ国外追放を告げられたそうだ。

護衛としてリオニダス卿を含め5名の騎士が同行してくれたのだが、カーディナルの結界を出た騎士たちが急に体調を崩して、洗脳にかかっていたことが判明したとのこと。


洗脳は地方から来た者は症状が軽いが、王都から来た者ほど重症らしい。

騎士のうち2人は国境を通っていなかったので、副団長からの手紙を託して宰相の元へ向かわせたそうだ。

結界内に入ると再び洗脳される恐れがあるため、3人の騎士は国境警備隊と共にカーディナルの国境の出入りを管理することにしたそうだ。



一方のモニカ嬢は「もう聖女じゃないのでモニカと呼んでください!」と元気に話していた。

パデボルン国に来てからはドバニー村の協会にお世話になっているんです!と嬉しそう。

ドバニー村は国境から北側への道を登った聖山の麓にある村で、薬草の産地らしい。

その薬草で解呪・回復効果のあるクッキーを作っているようだ。


「モニカ嬢も大変でしたね。カーディナルにいる家族や友人が心配だろう」


心配して声をかけたつもりなのだが、モニカ嬢のまわりが不穏な空気に変化した。


「……私にはそんなものはいません。あんな奴ら、家族なんかじゃないです。神殿に保護されていなかったら私は今頃死んでいたかもしれません。ふっざけんなクソヤロウども。神殿も貴族どもが偉そうにしていて居心地が良いとは言えませんでしたが、衣食住は保証されていたし神官長は平民の私も一応気にかけてくださっていましたので感謝しています。まぁそれでも?けっきょく神殿にも捨てられてしまったんですけどね。マジで滅びろ愚か者ども」


モニカ嬢が呪詛のような言葉をブツブツ吐き出したので馬車の中にいる皆は固まってしまった。


「……モニカ嬢⋯?」

「ハッ! すみません、私ったらつい! もう過去のことなんて忘れなくては。私、今はとっても幸せなんですよ」

「幸せなら……良かった⋯デス」

「今お世話になっている神父様がとーっても素敵な方で! 優しくって〜強くって〜頼りになって〜かっこよくって〜博識で〜⋯」


ーー実の両親が難ありだったらしく、反動で信頼できる神父様に傾倒しているようだ。

王国では嫌な思い出が多かったのであろうモニカ嬢は少し……いや、けっこう怖かった。

もう話題に出さないように気をつけよう。



「あっちょうど協会が見えてきましたよ!」


「神父さまぁ〜〜〜!!」


窓から手を振るモニカ嬢。

彼女の目線の先を見ると、神父の衣装を来た壮年の男性がいた。


ただし、耳が尖っていて角がある。

え? えっ?? もしかして魔族???

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