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023 辺境伯令嬢を拾いました

〈これまでのあらすじ〉

隣国カーディナル王国内へ行ったまま連絡がとれなくなってしまった父を救出するため、レオンハルトたちは聖女の力を借りようと小国パデボルンに向かっていた。

パデボルンへ向かう途中で狼の群れに襲われていた馬車を助けると、そこにはカーディナル王国の第一王子から婚約破棄された辺境伯令嬢が乗っていた。

俺達は今、小国パデボルンヘ向かっている馬車に乗っている。


馬車を引いているのは馬に変化(へんげ)したヴィー。

山道で見つけた辺境伯の馬車には、車体はあれども御者も馬もいなかった。

なので車体を浮遊魔法で浮かせてヴィーに引っ張ってもらっている。

トールは御者席で索敵魔法を展開中だ。


車体の中には、俺とアリスと一人の令嬢。

なんということだろう。


ーー辺境伯令嬢を拾ってしまいました。



ローゼンドルフ辺境伯は古くから続く由緒正しい貴族だ。

まだ国境の防壁が無かった頃にこの地で戦っていた王族の一人がそのまま居を構えたのが始まりらしい。

その人の名前と当時の地名が混ざり合って「ローゼンドルフ」と呼ばれるようになったと聞いたことがある。

聖山との国境(くにさかい)にある領地を守っている、代々続く戦士の家系。



猛スピードで移動する馬車の中、俺はコホンと咳払いをして話しかけた。


「アシュリー嬢はなぜ一人でこんな所に?」と聞くと、彼女は静かに首を振った。


「昨夜、父が突然『すぐに国から出ていくように』と言ってわたくしを馬車に押し込めたのです」

「昨夜……? 閣下は他に何か言っていませんでしたか? 御者と馬はどこへ行ったのでしょうか」

「御者はこの山道に馬車ごとわたくしを置いて、すぐに戻ってしまいました。」

「馬車ごと……」

「婚約を破棄されてしまったし、呆れられて追放されてしまったのかもしれません」


いやいやいや、そんなワケない。

こんなに丁寧に防御魔法をかけてある車体だぞ、外に出ない限り安全は保証されているようなものだ。

それに、寒くないように保温の魔道具とひざ掛けが用意してあるし、ランチボックスと大きなバッグまで積んである。

辺境伯閣下が令嬢の身を案じていることは明白だ。


考えられるとすれば、カーディナル王国内で何か動きがあったのかもしれない。

もしくは誰かがこの山道を通ることを知っていて令嬢を託した?


昨夜……ということは、もしかして父上から俺達がパデボルン国へ向かうことを聞いたのだろうか。

ローゼンドルフ辺境伯の領地なら聖山と隣合わせだし、国境まで遠回りしなくても抜け道がある。

俺達が聖山から国境へ向かうならこの山道を必ず通ることも知っているだろう。



「カーディナルの様子を伺っても?」

「はい」

「父が王都へ向かったはずなのですが、見かけませんでしょうか?」

「……1ヶ月ほど前に王城でお会いしました。ですが、その……2週間ほど前からわたくし達は領地におりましたので」

「じゃあ今の状況は分からないですよね」

「すみません」

「いえ。王都では何か異変はありませんでしたか?」


「そうですね……半年前に新しい聖女が任命されてから、いろんなことが少しづつおかしくなっていった気がします」


「新しい聖女ですか?」


「ええ。ヴァイラス侯爵家の次女、スカーレット様ですわ。元々聖女見習いとして神殿にずっといらしたのですが、半年ほど前に神殿内で揉め事があったようで……」

「そういえば前の聖女様が追放されたと聞きました」

「そうなんです。理由は私もわからないのですが、モニカ聖女が追放されてスカーレット様が新聖女に任命されたのです。侯爵家の影響を気にする方も多かったのか、神殿内はスカーレット様が仕切っていたように見受けられました」


「でも神殿内は聖域のような扱いだから貴族の力は及ばないはずですよね」

「本来はそのはずなのですが、神殿内でスカーレット様に意見する者はいなかったようです。そのうち王宮にも口を出されるようになりまして……」

「神殿と王宮は完全に分離されている組織なのに」

「そう思って進言したのですが、逆にこちらが注意されてしまいまして」

「トルナード殿下は何か言わなかったのですか?」

「殿下もスカーレット様をかばっていらっしゃいました」

「そんなバカな!」

「でも私はこの通り婚約破棄されてここにおりますので」

「ーーっ! すみません」

「いえ……」


「つらいことを聞いてしまってすみませんでした」

「いえ、殿下のことは政略によるものですから。それより今は国の状況が心配です」



ーー殿下は政略だなんて思っていなかったはずだが……


1年ほど前にカーディナルを訪れた時はまだモニカ聖女は健在だった。

トルナード殿下は婚約者を溺愛していて、社交の場でさえアシュリー嬢の側を離れなかったくらいだ。

彼女に話しかけようとした男たちを威嚇したような目で睨んでいたのを覚えている。


殿下が子供の頃、こっそり城を抜け出したときに街で会ったアシュリー嬢に一目惚れして婚約を結んだと聞いた。

俺も殿下に威嚇されたから「自分にも大切な女性がいる」と話しているうちにやっと打ち解けられたくらいだ。



情報をまとめると、この半年で王国内が大きく動いたことになる。

半年前に国外追放された元聖女。

そして新聖女が任命されてから徐々に何かが狂っていった。

婚約者を大切にしていたはずの殿下が、婚約者ではなく新しい聖女の肩を持ったこともおかしい。


洗脳や魅了の類という可能性がある。

この謎の結界の正体だろうか?

まさか王宮や神殿にいる者達が操られているなんてことはないよな?

少なくとも辺境伯閣下は無事であると予想できるが。


ーー父上は……今、どこにいるのだろう。



結界に不安を募らせるレオンハルトと、緊張した面持ちのアシュリー嬢。

そしてアリスは空気を読んで静かに縮こまっている。

なんとなく居心地の悪いこの馬車は、もうすぐパデボルンの国境に到着しようとしていた。

評価やブックマークをありがとうございます!!

遅くなってすみません、第三章スタートです。


※人間→人族に表記を変更しました。

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