022 巫女様の誓い
やっと……やっとスタート地点に辿り着いた気がします……!
☆まだまだ序盤ですが少しでも感想を聞かせていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
Side 巫女
レオンハルトさん達は日の出とともにパデボルンの国境へ向かったのだけれど、私はひとつ、大切なことを伝え忘れてしまいました。
……いえ、怖くて言えなかっただけだわ。
ーー私が、あの氷漬けになった日を経験しているのは一度だけではないということを。
あの日、ヴォルモール城が氷漬けになった恐ろしいあの日。
シノン様が倒れ、アモン様が魔力暴走を起こした。
このままでは皆凍ってしまう……!!!
身構えていた私は、気がつくと自分の部屋にいた。
わけがわからず周りを見渡して侍女に確認すると、首飾りを身につけた時間に巻き戻っていたのだ。
混乱していた私は、あの惨憺たる光景が現実だと思えなかった。
ずいぶんリアルで恐ろしい夢を見ていたのだろう、夢で良かった……
そう自分に言い聞かせて不安をかかえながらも舞踏会に出席した。
2回目の舞踏会。
前回と同じように2番目の兄にエスコートしてもらい、同じように魔道具を装着した人達が暴走し、城も人も再び氷漬けに。
そして私はまた自分の部屋に巻き戻っていた。
ーーこれは夢ではない。ループ。
理由はわからない。
けれど、この首飾りを付けたところに戻っているのだから、この首飾りはおそらく巻き戻りの魔道具。
もし本当にループしているのなら……また同じように事件が起こるかもしれない。
なんとかして止めなくては!!
父や兄に訴えたけれど、誰も本気で話を聞いてくれなかった。
出土品は鑑定士が全て確認しており安全だ、遺跡の出土品をお披露目するのは各国にとって重要な催しなのだと譲らない。
そして同じように開かれる舞踏会。
繰り返される惨劇。
3回目の私はシノン様をかばって倒れた。
何も出来ない自分が歯がゆくてとっさに飛び出していたのだ。
倒れながらも、どうせ自分はループするのだから大丈夫だと信じて目を閉じた。
気がついたら自分の部屋にいた。
同じドレスをまとい、同じように髪を飾り付け、首飾りを身につけた自分が鏡に映っている。
ーーこのままではダメ。同じことの繰り返しだわ。
父や兄に訴えても信じてもらえなかった。
誰に助けを求めれば……
急いで出席者リストを借り、名前を確認しながら頼れそうな人を探す。
そして、ある御方のところで手を止めた。
ーールーヴィッヒ様。
この精霊王子はたしか時の精霊。
過去を見ることができたはず。
私のループを見ることができれば……信じてもらえる可能性は高い。
急いでルーヴィッヒ様を探したけれど、なかなか見つからない。
来場者の控室にもいない、舞踏会が始まっても見当たらない。
……そういえば過去3回とも会場で彼を見かけた記憶がないわ。
会場にいないなら、庭園?
早く、早くしないと間に合わなくなってしまう……!
私は涙目になりながらも必死で走り回った。
はしたないとか、みっともないとか、そんなのはどうでもいいの。
これから起こる惨劇を知っているのは私だけなのだから!
庭園の奥、バラ園に隠れるように彼はいた。
「見つけた! ルーヴィッヒ様!!」
突然呼ばれて驚いている彼に、息切れしながらも急いで事情を説明する。
彼は過去視を発動してループを確認したようだ。
「会場には僕が行くから、キミはここから逃げなさい!」
そう言い残して行ってしまった。
逃げろと言われたけれど私はシノン様が心配で会場に戻ることにした。
そっと扉から覗き込むと、ルーヴィッヒ様はアモン様と何か話をしており、一番上のお兄様は魔道具の剣を持ち上げるところだった。
ーーお兄様、それはダメです……!
手を伸ばしたそのとき、ルーヴィッヒ様がシノン様をその場から引き離した。
シノン様の左角が欠けてしまったけれど、ルーヴィッヒ様がそこだけ時間が止まる魔法をかけている。
ああ……これなら過去回のようにシノン様が命を落とすことはないかもしれない。
けれど、嫌だ。
シノン様に怪我をしてほしくないし、お兄様たちにも暴走してほしくない。
もう一度巻き戻ってすぐにルーヴィッヒ様のところに向かえば……!
「ダメだよ、姫君」
いつの間にかシノン様を抱えたルーヴィッヒ様が後ろにいた。
そして、シノン様と私も一緒に先ほどのバラ園に転移した。
「その魔道具はおそらく効果を使い切ってしまっているから、もう巻き戻ることはできない。キミも早くここから逃げなさい」
そう言って彼はシノン様と姿を消し、城は氷漬けになってしまったのだ。
ーー私がもっと早く対応できていれば……上手く立ち回れていたら……!
後悔してもしきれない。
ループは止まったけれど今度は私の時間が止まってしまった。
次に命を落とす時は、私が生を終える時。
ルーヴィッヒ様に再会した時、私はこれも運命だと思いました。
お二人のために私ができることを精一杯しようと誓った。
シノン様が亡くなられたときに墓守の役目を申し出ると、精霊の加護をいただきました。
ルーヴィッヒ様は「これでも一応、大精霊だったからね」と力なく笑っていらっしゃいましたが、私は知っているのです。
本当は次代の精霊王になることを期待されていた存在だったということを。
彼が大精霊としての資格を失ってしまったのは、あの事件のせいかもしれません。
それならこの一連の出来事を最後まで見届けなければ。
私にはその責任があります。
私は名前を捨て、この土地で巫女として見守っていくことを決めました。
彼等と悪魔の闘いは、まだ続いているのですから。
いつも読んでいただきありがとうございます!
第二章はここまでになります。
キャラクター紹介と閑話を挟みまして、第三章は年明けの予定です。
いつになるかは……ストック次第です。すみません(涙
辺境伯令嬢と聖女様もそのうち活躍しますのでお楽しみに!
☆キャラクター紹介と閑話は読まなくても本編に影響はありませんが、よろしければお付き合いくださいませ。




