021 カーディナルの結界
「国境の近くまで行って鑑定してきましたが、あの濁った結界は呪いでした」
「「「呪い……!」」」
その場に居た皆が息を飲んだ。
呪いといえば、例の悪魔?
だが次元の亀裂があったのは1000年以上も前だ。
今もまだ生きているというのか……!?
本当に呪いならば、父上を早く救出しなくては!!
「あの結界がどんなものか詳細は不明ですが、精霊を弾いていました。中にいる連中はそのうち魔法が使えなくなると考えられます」
「カーディナルは魔道具で繁栄した国ですから、魔法が使えないと生活がままならなくなってしまいますね」
「魔素が減れば魔道具も動かなくなるしのぉ」
「狙いは魔法の無力化……?」
「もしかしたら他にも何か影響があるかもしれない。王国内に潜入した連中が何か掴んでくると良いのだが」
「戻ってくるのを待つしかないか」
「ああ、それと……追放されたという聖女は隣のパデボルン国にいるようです。毎日のように国境に通って結界を見ていると聞きました」
「聖女様も異変に気づいたのかもしれないな」
「もしかしたら聖女様なら呪いを消すことが出来るかもしれん。協力してもらってはどうじゃろ?」
「聖なる力が邪魔だったから追放した、とも考えられますものね」
あの結界は日に日に濁りが強くなっているという。
精霊を弾くと言っていたが、精霊族の血を引いている俺は入れるのだろうか?
「パデボルンの国境なら1日あれば着きますし……聖女様のところへは俺が行きますよ。エルフの谷へ行く通り道なので、まかせてください。」
「そうですね、ではレオンハルトさんお願いします。ただ、夜は獣も活発になりますので出発は明日にしてくださいね」
すぐに向かおうと思ったのに釘をさされてしまった。
仕方がない、今夜は我慢しよう。
寝る前にエルフの谷へ向かうことを伝書鳥で父上に伝えた。
ーー待っててください父上。必ず助けに行きます!!
□□□
翌朝はパデボルンへ向かうため、日の出とともに村を出た。
アリスたちを本家に預けて一人で行こうかとも思ったけれど、結局みんなで行くことにした。
みんな一緒が良いって約束したからね。
まだ朝靄が立ち込める中、身体強化でスピードを上げて森の中を駆け抜け山をくだる。
聖山の南東にある小国パデボルンは、カーディナル王国と聖山の堺にある山道を東へ行った先にある。
ヴィーが鳥の姿で先行してカーディナルの様子を見てきたが、結界の中には入れなかったようだ。
やはりかと肩を落としたものの、意外な収穫があった。
「結界が二重になってたぞ」
「二重?」
「そう。分かりづらいんだけど、呪いの結界の外側を聖属性の結界が薄く覆っている。たぶん呪いが外に影響しないように抑えてるんだろうな」
「なるほど、聖女様の結界か……」
「パデボルンへ急ごう」
俺達は顔を見合わせて頷いた。
半日ほど山を下ると、目的の山道が見えてきた。
あまり人が通らないために道は荒れ気味だが森の中よりはだいぶ走りやすいだろう。
目の前にはカーディナルの結界。
この道を東に向かえばパデボルンに着く。早く行かなくては。
分かっている、分かっているが、もしかしたら運良く結界の中に入れたりしないだろうか?
中の情報を知りたいし、もし入れたらそのまま父上を助けに行けるかも……
ここで優柔不断な性格が出てしまった。
結界に向かって左手を伸ばす。
ーーもしかしたら。
そんな期待は見事に弾き返された。
「ぐぅっっ」
まるで雷に打たれたような衝撃と激しい痛み。
パリパリと音を立てて精霊を拒絶する結界。
苦痛に顔を歪めて左手を押さえる。
ーーくそっやはりダメだった。
「レオン兄! 大丈夫!?」
「ごめん、余計なことした」
「すぐに回復魔法を……」
「大丈夫、俺も少しは使える。すぐに痛みは治まるから、ちょっとだけ待ってて」
火傷のようになった手を必死に回復させる。
こんな状態の手をアリスには見せたくない。
回復魔法をかけていると、とりあえず見た目だけは元通りになった。
まだ少し痛みが残っているが時間が経てば治るだろう。
「すまない、時間を無駄にした。パデボルンへ急ごうか」
「もう大丈夫なの? 痛くない?」
「平気だよ。心配してくれてありがとう」
手首を振って拳を握り、力が入ることを確認する。
大丈夫、剣は握れそうだ。
「兄さんって結構オールラウンダーだよね」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん。なんでもない」
トールが何か言ったようだが聞き取れなかった。
なんでもないと言ってるし、まぁいいか。
とりあえず今は聖女様だ。
パデボルンへ続く山道を身体強化して駆ける。
しばらく走り、国境まであと1時間くらいだろうか……そう思った時。
空から様子を見ていたヴィーが降りてきた。
「この先に停まってる馬車が獣に襲われているぞ」
大変だ、助けに行かなくては!
剣を抜いて急いで馬車に向かう。
遠目で見てもずいぶんと立派な馬車だ。
防御魔法がかかっているのか、狼の群れは馬車に傷をつけることすら出来ていないようだ。
これなら中にいる人は大丈夫だろう。
トールが弓で牽制し、俺は剣を振って狼達を追い払う。
蹴散らした後に深呼吸して馬車を見上げると、そこにはローゼンドルフ辺境伯家の家紋が描かれていた。
窓からそっとこちらを覗いている令嬢は少し涙目だけれど安堵の表情。
彼女に見覚えがある。
カーディナルの第1王子から婚約破棄されたという令嬢、アシュリー嬢その人だ。
いつも読んでいただきありがとうございます!
レオンたちの出番はここまでで、第三章に続きます。
第二章の締めは巫女姫様の過去に触れます。
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一応、完結しておりまして、時々番外編を書いております。こちらもどうぞよろしくお願いいたします。
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