020 本家はからくり屋敷
日が暮れてきたので本家に泊めていただくことにした。
本家はカラクリ屋敷だった。
ずいぶんと大きなお屋敷だとは思ったが、いろんな仕掛けがある。
回転扉の奥の隠し部屋、大きな絵の裏にある隠し通路。
床板をめくれば小さなスペースがあり、過去には武器などを隠していたそうだ。
秘密の縄梯子を登れば、昔の古道具が保管してある部屋があるらしい。
なるほど、大爺様達が身を隠すのには便利だったろう。
アリスとヴィーはアヤメと一緒にカラクリ探検に行ってしまった。
仲良くなれたようで良かった。
俺は村長とトールと3人で囲炉裏を囲んで座る。
「大きなお屋敷ですね」
「ご先祖様の話では、むかし、旅の錬金術師が滞在したときに作ってくれたそうじゃよ」
「親切な方だったんですね。仕掛けも面白いです」
「この村はもともと、異世界からの迷い人が身を寄せ合って隠れて暮らしていたらしいんじゃが、その旅人も同郷だったとか。元の世界の家もこんなかんじなのかもしれんのう」
「へぇ」
ーーん? 異世界人の旅の錬金術師?
まさかね……いや、救世主の彼は錬金術師ではなく「モノ作り職人」のはずだ。
「1000年以上たつが丈夫な家で助かっておるよ」
「すごいですね」
ーーあとでこっそり時渡りを使ってみようか。
でも今日は覚醒したばかりなのに2回も使ったし……けっこう負荷がかかるんだよなぁ。
「その旅人が錬金術も教えてくれたらしくての、今ではわしら一族の名産品じゃ。有り難いことじゃ」
「ははははは。本当ですね」
ーーなんとなく、目が泳いでしまう。
「そういえば、この村は本家と隣の神殿しか建物がないんですね」
「以前は他にも何軒かあったんじゃがなぁ、ある事件の後に村ごと引っ越すことになってのぉ」
ーー魔王が山を破壊した件だろうか。あんなことがあったら住み続けるのは不安だよね。
「錬金村を作ってほとんどの者があっちに移動したんじゃが、巫女様と本家だけ残ったんじゃよ」
「そうだったんですか」
「わしら本家は巫女様をお守りすると誓っておるからの。巫女様がここに居る限り離れることはなかろう。ふぉっふぉっふぉ」
村長さんの笑顔から、その誓に誇りを持っていることが伝わってくる。
外はすっかり真っ暗になり、ランプの灯が静かに揺れる。
アヤメの母君と巫女様が囲炉裏に鍋をかけて食事の用意を始めてくれた。
「レオンハルトさんはお風呂がまだでしたよね? 作っている間に入ってきてくださいな」
「ありがとうございます」
「奥の風呂場の湯は泉から水を引いているので疲労回復に効きますよ」
精霊が集まる泉の水を沸かした風呂。
なんて贅沢な。
ーーなどと呑気に考えていた自分をなぐってやりたい。
この風呂に毎日入ってるとか、正気か!?
水質、極。
ものすごい魔素を含んでいる。
そりゃぁ、毎日こんな風呂に入っていたら魔力も身体能力も上がるだろう。
ここの村も、錬金術の村も、村人たちの身体能力が異常なのはこの土地と泉の影響もあるかもしれない。
……ああ……あたたかい湯に浸かると身体の隅々まで魔力が充填されていく気がする。
ヴィーの魔力が膨れ上がるわけだ。
温泉で取り込んだ大量の魔素が魔力に変換されて蓄えたられたのだろう。
俺も今なら魔力も精霊力も満タンな気がする。
時渡りの瞳が使えるようになったし、練習すればきっと精霊力を使いこなせるはず。
ーーもう迷いはない。とは言い切れないが、それでも何か吹っ切れたような気がする。
ーー大丈夫、きっと、できる。
風呂場から戻る途中、回転扉の向こうにある隠し部屋に寄ってみた。
過去を見てみたい興味に負けてしまったのだ。
ちょっとだけ、ちょっとだけ。
こっそりと時渡りの瞳を発動する。
部屋の中にわずかに残っていた魔力の残滓を辿る。
いくつか感じられた魔力の中に、大爺様の気配を感じた。
残滓は弱っているはずなのに深い記憶。
ーー意識が引きずられる……!
ほんの数秒、寄り添うふたりの姿が見えた。
あの懐中時計の絵姿のふたり。
おだやかな笑顔で幼子を抱っこしている。
ーーあれは、お祖母様?
そう思うと同時に3人の姿は霧散して、ただ暖かい気持ちだけが俺の中に残った。
旅の錬金術師にも興味はあるけれど……そんな気分じゃなくなってしまった。またの機会にしよう。
火照った身体を夜風で冷ましながら居間に戻ると、見知らぬ男が一人増えていた。
「レオンハルトさん、カーディナルの結界の調査に行っていた者が戻ってきましたよ」
「はじめまして、アオイと申します」
にっこりと笑う短髪の小柄な男性。
だが、服の上からでも鍛え上げられた肉体が見て取れる。
アヤメの兄だそうだ。
「はじめまして、レオンハルトです」
手を差し出すと、ガッチリと握手をしてくれた。
良い人そうだな・・・と思ったのは、一瞬。
これでもかというほどに手に力を込めてくる。
とっさに防御していなかったら骨が折れてるぞ!
「お前、巫女様とふたりきりで散歩していたそうだな」
「ご……誤解ですよっ!」
「誤解も何も事実なのだろう!?」
「大婆様の墓参りに案内していただいただけです」
「おかしな気はおこしていないだろうな」
「そんなっ恐れ多いですよ」
「お前ごときが偉大なる巫女様と親しくなれると思うなよ」
ああ……アヤメのあの口調はこの人が原因か。
教育上良くないと思うぞ。
でも、巫女様の過去を知って心配したけれど、今は周りの人達に大切にされているようで安心した。
「アオイさん」
「はいぃぃっ」
巫女様の冷めた声にアオイは背筋を伸ばした。
自分でも態度が悪いとわかってはいるんだな。
「カーディナルの報告をお願いできますか」
「はいっ国境の近くまで行って鑑定してきましたが、あの濁った結界は呪いでした」
「「「呪い……!」」」
その場に居た皆が息を飲んだ。
呪いといえば、例の悪魔?
だが次元の亀裂があったのは1000年以上も前だ。
今もまだ生きているというのか……!?
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☆別連載「異世界創造伝記」ではモノ作り職人ショウが活躍しています。
一応完結してますが、番外編を時々書いておりますので、こちらもよろしくお願いします。
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※呪→呪いに表記を変更しました。




