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017 亡国の姫君

泉の祠から15分ほど登ったところに、大婆様のお墓はあった。


ここにも大きな山桜が植えられていて満開を迎えている。

少し先は崖になっており、眼下には隣国カーディナル王国の街並みが広がっていた。


本家から程良い距離で、景色が良くて風も心地よい。

そして暖かい日差しが降り注いでいる。

大爺様がこの場所を選んだ理由が分かる気がした。



お墓の前に跪き、持ってきた花を供える。


ーー大婆様、ご挨拶が遅くなってすみません。曾孫のレオンハルトです。今頃はそちらで大爺様と会えているでしょうか。こちらはいろいろとありまして心配が絶えません。どうか大爺様と一緒に見守っていてください。



立ち上がって顔を上げると、巫女様は崖の上からカーディナルを眺めていた。


「何か見えますか?」


話しかけると困った顔で頷いた。


「レオンさんも視力強化の魔法でご確認ください」


目に魔力を集めて崖下を見ると、いつもは透明な結界がうっすらと曇っていた。


「少し濁っている……?」

「ええ。毎日少しずつ、本当に少しずつ曇っていたので気づくのが遅れました。お父君があの国に足止めされているとのこと、申し訳ありません」

「そんな、巫女様が謝るようなことではないですよ。頭を上げてください!」

「いいえ、私はあの国の縁者です。このたびのこと、誠に申し訳ありません」


頭を下げたままの巫女様に少し困惑しつつ、事情を聞いてみる。


「カーディナルのご出身なのですか?」

「……正しくは、旧カーディナル王家に嫁いできた者でございます」


今度はまっすぐに目を合わせて言われた。


「私は、今は亡きヴォルモール国の第二王女でした」



ヴォルモール国。

噂では聞いたことがある。

200年前、魔王の逆鱗に触れて氷漬けにされた王城。

この出来事については、箝口令が敷かれたのか、魔王に目をつけられるのを避けるためか、文章としては一切残されていない。


ーー王族に生き残りがいたのか!


「我一族のしたこと、誠に……誠に申し訳ございませんでした!!!」


巫女様は、今度は地面に座り込んで頭を下げた。


「え? えっ!?」


突然の行動に頭がついていかない。

でも、これ知ってる。たしかド・ゲ・ザとか言うんだ。初めて見た。

たしか異世界人が謝罪するときにしてたとかなんとか。


でも、我が一族のしたこととは?



「あの……?」

「そうでした、レオンさんは何も聞かされていないのですよね」

「はい。すみません」

「謝るのはこちらなんです! すみませんなんて言わないでください!」

「あ、はい」


巫女様の勢いに押されて「はい」しか言えない。


「ルーヴィッヒ様がお話されていなかったのに私が教えてしまうのは間違っているかもしれません。それでも、レオンさんにはお伝えしなくてはいけないと思うのです」


真剣な声に息を呑む。

そんなに重要なことなのか……


「巫女様。話ならちゃんと聞きますから、どうか頭を上げてください」


手を差し出して立たせると、涙目の巫女様は小さな声でお礼を言い、語り始めた。


〜〜〜〜〜


大陸の南南東に位置するヴォルモール国。

200年前のあの日、王城では舞踏会が催されていました。


北にある遺跡をいくつかの国が共同で調査し、貴金属や古い魔道具がたくさん見つかったそうです。

貴重な魔道具を手に入れたお祝いと、第一王子であるお兄様の婚約発表を兼ねた舞踏会でした。


お兄様の婚約者は、魔族領の姫・シノン様。

会場には当時の魔王陛下とアモン様、ルーヴィッヒ様もいらっしゃいました。


そこで事件は起こったのです。

魔道具を身に着けた一部の者達が暴走し、暴れ出しました。

意識を乗っ取られていたようにも見えましたが、実際のところはわかりません。


確実に言えるのは、暴れていたお兄様の剣が、シノン様の片角を叩き割ったのです。


前魔王が激怒して剣を抜き、あたりは騒然となりました。

その騒動の中、ルーヴィッヒ様がシノン様を救い出し城の外へ転移されました。


そして激昂したアモン様が魔力を爆発させて城を氷漬けにしたのです。

当然、会場にいた者は全員氷漬けです。


その後は城から脱出したお二人の行方が掴めずにいたためアモン様はずっと探しておられました。


契約結婚を決めた前魔王は自責の念に駆られてアモン様に王位を譲ったそうです。


〜〜〜〜〜



「お兄様がしたことは許されることではありません」

「…………」

「そもそも、あんな危険な魔道具など手を出さなければ良かったのです」


ーー大婆様の角が欠けていた理由はこれだったのか。


魔族の角は体内魔力をコントロールする重要な役割を持っている。

その角が欠けてしまえば、そこから魔力が漏れ出てしまう。

魔力が足りなくなれば身体が弱ってしまい、最悪の場合は死に至ることもある。


「国が滅んでしまったのも、今では仕方ないとしか言いようがありません」


ーーアモン魔王って一応、親戚?になるんだよな。


「本当に、申し訳ありませんでした!!」


ーーこちらこそ氷漬けにしてすみませんと謝るべきだろうか?……いや、その言葉は違うな。


「頭を上げてください。過ぎたことですから」


ーー誰にとってもつらい過去だったろう。だが今の俺には察することしかできない。


「それにしても、巫女様はよくご無事でしたね。周りはみんな氷漬けになったのでしょう?」


「……この魔道具のおかげなんです。」


巫女様は首元の髪をそっと除けて首飾りを見せてくれた。

首元の装飾は銀で縁取られた宝石が連なっている。

見た目は普通に上品で美しい首飾りだ。


「これが魔道具なんですか?」


「ええ、私はあの日から、当時の16歳で時間が止まってしまいました。しかもこれ、外れないんですよ」


巫女様は困ったように笑った。

危険から守る代わりに年齢が止まってしまった……と。

長い時を生きていると聞いてはいたが、まさか魔道具のせいだったとは。

いつも読んでいただきありがとうございます! ブックマーク登録や評価、リアクションなど頂けると執筆の励みになりますので、少しでも面白いと思ったらよろしくお願いします。


☆別連載「異世界創造伝記」ではモノ作り職人ショウが活躍しています。

一応完結してますが、番外編を時々書いておりますので、こちらもよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n7983jn/

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