016 覚醒
「レオンさん、精霊の力を使ってみたいですか?」
ふいに巫女様が聞いてきた。
「えっ 使い方をご存知なのですか!?」
「おばばから、鍵が外れたかもしれないと連絡を受けております。もし力を使いたいなら私がお手伝いしようかと思いまして」
「……ぜひ!! よろしくお願いしますっ!」
あまりにも勢いよく頭を下げたので、巫女様にクスクスと笑われてしまった。
ちょっと恥ずかしい。
でも今はそんなことよりも精霊力だ。
俺も使えるかもしれない。
その力があれば、きっと、ヴィックも父上も救い出せる。
自然と拳に力が入る。
これからの自分に期待が高まり、笑顔がこぼれる。
俺は目の前にあった拳を強く握りしめた。
きっと、きっと助け出すんだ。
「レオンさんは、祠の昔話をご存知ですか?」
「先ほどアヤメから教えてもらいました」
「そうなのですね。この泉には精霊がよく遊びに来るのです」
「ええ、たくさん集まっているのでビックリしましたよ」
「……精霊が見えているのなら話が早くて良かったわ」
「はぁ」
「精霊が集まるということは、上質の魔素がたくさんあるということです。精霊力の練習にはぴったりでしょう」
ニッコリと笑う巫女様。
でも何故だろう。
今はその笑顔が少し怖い気がします……
「私が補助しますので、少しずつ精霊力を高めていきましょう。上手く行けば〈泉の記憶〉が見えるかもしれません」
泉の記憶ーーもしかしたら、あの昔話は実話なのだろうか?
巫女様に言われるがままに、泉の水で手を清めた。
祠に向かって手を組み祈る。
集まっていた精霊たちに挨拶をして、力を貸してほしいとお願いをする。
両手を差し出すと精霊たちが集まってきた。
心地よい優しい光。
普通の人には見えないなんて嘘みたいだ。
ーー泉の記憶を見たいので力を貸してください。
精霊たちの気配を感じならが、集中して自分の中の力を探る。
しばらく経っても何も起こらないので、巫女様が俺の肩に触れて魔力をそっと流してくれた。
巫女様の魔力の中に、少しだけ大爺様の魔力を感じる。
過去に何かつながりがあったのだろうか。
過去が気になる、知りたいーーその気持ちが引き金となったのだろう。
先程よりも精霊たちの気配を近くに感じる。
魔力とは違う、何か強い力が流れ込んでくるのがわかる。
点と点が線で繋がるような、その線がどんどん増えていくような。
ーーリンクする。
初めての感覚。
目を閉じているのに、風が、光が、すごい勢いで走っていく。
ものすごいスピードで時間が巻き戻っているのが分かる。
これが……時渡り?
思わず目をあけると、ふわりと風が止み、静寂が訪れた。
自分ひとりだけ、別空間にでも放り出されたような気分だ。
今度は音も風も感じられない。
ただ、視界に映るのは淡く光る2人の姿。
一人は質素な衣をまとった若い男性。
もう一人は上質そうな衣をまとった、翼のある女性。
風に衣がやわらかく揺れている。
ふたりは少し見つめ合った後、手をとりあって何か言葉を交わしたところで霞になって消えてしまった。
そこで現実に戻されたことに気づく。
なんだか顔が熱い。
いや、顔じゃなく頭? 目かな?
へんな汗もかいている。
初めて力を使ったせいだろうか。
ゆっくりと呼吸を整え、頬をつたう汗をぬぐった。
「どうやら見えたようですね」
声をかけられて周りに人がいたことを思い出した。
ーー覚醒した、ということで良いのだろうか。
「……若い男性と、翼のある女性が見えました」
「瞳が青く光っているわ。おめでとう。」
「ありがとうございます」
「ふふ。私ったら、きっとルーヴィッヒ様に怒られてしまうわね」
「まさか」
自分の中の力が帯びていた熱とともに静まっていく。
泉を覗き込むと、そこに映っている瞳はいつものアイスブルーだった。
覚醒時の自分を見てみたかったけれど……残念。
「それにしても、初めてなのにすごいわ。あんな遠い過去が見えるなんて」
「昔話が実話だったなんて驚きましたよ」
「私もこの村に来たとき、ルーヴィッヒ様から聞いて驚きました」
「翼のある種族なんて聞いたことないです」
「天空族と言うらしいわ。ここの村人は、その血を受け継いでいると言われているの」
「すごい……!」
「もっとも、その後は見た人がいないらしいんですけどね」
「巫女様はあの頃からここにいるのですか?」
「いいえ。私がこの地に来たのは150年くらい前よ」
声は穏やかだけれど、瞳の奥が悲しそうだ。
触れてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。
「すみませ……」
「そのことについても、あなたに話さなくてはいけないのだけど」
「続きはシノン様のお墓参りをしてからにしましょうか」
どうやらこの村に大婆様のお墓があるらしい。
大爺様っ!! 聞いていませんけどー!?
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