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013 ヴィー、馬になる

「ルーヴィッヒ様も力を使うときは同じように光っておったからのぉ。もしかしてレオンも……と思ったんじゃよ」


大爺様が力を使う時……それは、つまり。

精霊力。

時の精霊の、時渡りの瞳。


胸が高鳴る。


もしかして、俺も精霊力を使えたりするのか?

試しに体内魔力を練って高めてみる。


……何も起きない。


周囲にある魔素を取り込み、自分の魔力と合わせて練る。


……やはり何も起きない。


そうだよな。

もし精霊力が使えるとすればトールやアリスのほうが確率が高いだろう。

俺の魔力量は家族の中で一番少ない。

いいんだ。最初から、期待なんてしてない。

ちょっと試してみただけだ。


「何も変化はないようですよ。光ったのは気のせいかもしれませんね」

「そうかのぉ。鍵が外れたのかと思ったんじゃが」

「鍵ですか?」

「ああ、おまえさんが生まれた時にルーヴィッヒ様がおっしゃってたんじゃよ。」


「『この子は特別な力を持っている。だがそのせいで災難に巻き込まれるかもしれない。だから今は鍵をかけておく』ーーとな。」



ーーじゃあ、俺の中にも精霊力が!?



ふと、頬を伝う暖かいものを感じた。

指で拭うと濡れていた。


あれ? なんで……


自覚したら、余計に涙が溢れてきた。

大粒の涙が広げた指をすり抜けてぼたぼたと地面を濡らす。


ずっと、自分の魔力が少ないのを気にしていた。

本当はアリスやヴィックが羨ましかった。

兄だから守ってあげなくてはーーそう自分に言い聞かせてたくせに、心の奥では嫉妬してたんだ。


母が亡くなって、大爺様も亡くなって、父上も帰ってこなくて。

長男だからしっかりしなくてはと自分を律して。

でも、こんな自分が誰かの代わりを務められるか不安でーー。


けれど違った。

俺の中には精霊力が隠されていた。

この力があれば、俺はもっと強くなれるし家族も守れる。


自分に力があることを知れて嬉しいのと、なぜもっと早く教えてくれなかったのかという気持ちがぶつかる。


もっと早く力に目覚めていればヴィックを守ることができたかもしれない。

大爺様の言う「災難」とはなんだろう。

鍵はどうやったら外れるのだろう。

今、その力が欲しいというのに……!



この旅に出るときに決めたんだ。

ヴィックのことも、父上の件も、大爺様の過去も、全部まとめて受け止めると。


ーーなのに、今の俺のままではとても無力だ。


背中をさすってくれるおばばの優しい手が心地良くて、余計に涙が……止まらない……


「誰もおらんから、気にせず泣けばええよ。よぉ頑張ったなぁ」





昼ごろにはおじじ達が帰ってきた。


「ただいまー! 川でお魚とミズ菜を採ってきたよ~!」

アリスが元気に魚の入った籠を掲げる。

そのアリスは……なぜか小さな馬にまたがっている。

その馬、どこから来た!?


「オレだよオレ! ヴィー様だ。馬にも変化できるようになったんだ。すごいだろ!」

「ヴィー!? すごいじゃないか!」

「大きいのに変化(へんげ)すればアリスが乗れていいってアニキも言ってたからな。練習がんばったぜ」


うん、こんなに早く馬になれるなんてすごい。

アリスも乗っていて楽しそうだ。良かったなぁ。

笑顔で褒めてはいるものの、すごーく気になることがある。


その馬……

少し小さいのは⋯⋯まあ、ヴィーだし分かるよ。

けどさ、足、短くないか?


少しずんぐりとした、足の短い馬。

なんでそうなった?


「おじじが教えてくれたんだ。聖山はまだ雪が残っている場所もあるから、この形の馬のほうが安定感あるし山歩きもしやすいだろうって」

「なるほど。でも隣国に行くには山を下るから雪はもうそんなに心配ないんじゃないかな」

「それなんじゃが、本家のほうと連絡が取れての。おまえさん達、カーディナルに行くつもりならまずは本家へ行け」

「本家ですか?」

「そうじゃ。あっちも結界の異常に気づいて調査しとるらしい。結界で精霊が弾かれているそうじゃ。巫女様が呼んどるから、とにかく行ってこい」

「そうなんですね。じゃあ急いで出立を……」

「まぁ待て。あの様子じゃ何があるかわからんからな、魔道具もいくつか持っていけ」

「いいんですか!?」

「最近は魔道具の修理の仕事ばかり多くてのぉ。若い頃に作ったものがいっぱい転がっておる。欲しいのがあればくれてやるぞ」



アリスたちが昼食を取っている間に出立の準備。

せっかくなので魔道具はありがたく頂いて行くことにする。

いくつか選んでマジックバッグにしまっていると、おじじが「懐かしい」と言った。

まだ若い頃、練習で上手く出来たマジックバッグを大爺様にいくつか贈ったのだそうだ。

俺が今使っているバッグもその中のひとつだという。

鍵の部屋にたくさんあったのはそういうことなのかと納得した。


ルートを変更することになったので、地図を広げて場所を確認。

本家がある山村へ行くには、ここからは「黒ノ森」と呼ばれる暗い森を抜けることになる。


ちなみに広げていた地図が古かったので、おじじが新しい地図を譲ってくれた。

古い地図と比べるといくつかの国が消えたり名前が変わっていたり、湖ができたりしていた。

いくら古いとはいえ……一体何年前の地図だったのだろう?





「また遊びにおいで」

「ありがとうございます」


深く礼をし、おじじとおばばに見送られて村を後にする。

この錬金村の場所はしっかりと覚えたから、伝書鳥も送れる。

今回は突然来てしまったから次回はちゃんと先触れをだそう。


一応、父上に伝書鳥を飛ばしておいた。

返事はなくても読んでいるかもしれないから。

王国内で何が起こっているか分からないため、余計なことは書かずに「みんな元気です、アリスたちが会いたがっています」とだけ送った。


エルフの隠れ里にも伝書鳥を飛ばして連絡を入れた。

カーディナルの異変を聞いた里のみんなは急いでエルフのい谷へ向かうとのことだ。

叔父からは、父上の救出に行くときは手を貸すと返事が来た。

フィンからも俺達を心配する内容の伝書鳥が届いたので、エルフの谷で落ち合おうと返信しておいた。


たぶん、ここから先は覚悟が必要になる。

カーディナルの情報を集めて、エルフと一緒に救出部隊を組むことになるだろう。

判断を謝れば被害が拡大してしまうかもしれない。



父上とヴィックを無事に取り戻したい。

自分にも精霊力が使えればーー……

いや、ないものを欲するのは止めよう。

最善を考えて行動する。


それだけだ。

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