116 いにしえの強者達
「魔術師」それは遥か大昔に使われていた呼び名。
今では魔素が増えたことで誰もが魔法を使えるようになったが、それ以前は一部の者達が特別な術を使って魔法を行使していた。彼らは「魔術師」と呼ばれ、一目置かれるような存在だったと記録されている。
ーーそんな存在なら国に保護されていそうだし、仕事だって引く手あまただろうに。
なぜ魔術師が海賊団と行動を共にしているのか……不思議に思ったが、原因はすぐに分かった。
ーーあの魔術師が着けている首輪……奴隷の首輪だ。古い文献で見たことがある。
もちろん今は奴隷なんて大陸全体で禁止されている。
だが認められていた時代も確かにあったのだ。
奴隷の首輪は〈呪の首輪〉とも呼ばれており、術者に従うように術がかけられている。
たとえ魔術師であろうとも、アレを着けてしまえば抵抗することはできないのだろう。
彼らはずいぶん大昔からこの異空間へ迷い込んだんだな……
魔術師は先ほど溺れかけていたと聞いた。
髪は乱れ、服もグチャグチャ。目の下のくまは深く、頬もコケてやつれている。
心身共に疲弊しきっていて今にも倒れそうなのが見て分かった。
ーーなんてことを……
おそらく休む間もなく術を行使させられているのだろう。
あまりにもつらそうな姿に同情する。
魔術師は海賊達に急かせれ、ふらつきながらも呪文を唱えて水魔法を放ってきた。
この船の結界に穴を空けようとしているのだろう。
海水を巻き上げて攻撃を一点に集中してぶつけてくる。
大きな音を立てて結界に衝撃が走った。
ーーまだ持ちこたえているけれど、この勢いは心配だな。
とにかく相手の攻撃を止めようと、海賊達の上に氷魔法を展開。
拳くらいの大きさの氷塊がたくさん現れて彼らの上に次々と落下していく。
けれど彼らは大きな剣で薙ぎ払ったり、海に潜って回避していた。
海に潜ってしまえば落下の勢いは無くなってしまう。
氷塊がぶつかったとしてもダメージはたいしたことないだろう。
ーーこれじゃダメか。
「兄さん、ぼくもやる」
そう言ってトールが雷魔法を放とうとした。
「待てっ! それを撃ったらあいつらは死んでしまう」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
「だけどっ」
ーーおまえたちにそんな事はさせたくないんだ。
それも甘いと言われそうで俺は言葉を続けられなかった。
「……ここは、俺がやるから」
そう言って俺は、先ほど切った髪と逆側の髪もひとすくいして剣で切る。
それを海に撒いて大きな波を顕現させた。
大きく盛り上がる海面、うねる波。
これで海賊たちを押し流せれば……そう思ったのだが。
あいつらはひっくり返った船や、壊れた船の板に立って波乗りしている。
さすがは海で生きる海賊ども。
一筋縄ではいかないらしい。
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