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012 異世界創造伝記

「ルーヴィッヒ様から預かっていたものがあるんじゃ。お前さんに渡しておく」

おじじはそう言って、一冊の古い本を渡してくれた。


「異世界創造伝記」


この大陸に住んでいるほとんどの者が子供の頃に読んだことがあるだろうと思われる伝記。

遠いむかし召喚されたとされる3人の救世主のおはなしだ。


「なぜこれを?」

「ただの本じゃないぞ。原書だ」

「原書? えっ? 救世主様って、本物の!?」

トールと2人で驚いていると、おじじとおばばに笑われた。


「ガハハハハ! なんじゃ、ルーヴィッヒ様から何も聞かされておらんのか」

「はぁ。それで、この本をなぜ俺に?」

「ほっほっほ。さぁな。読めば分かるじゃろて」

「世間で売られている本は各国が自分達に都合良いように手を加えたものじゃ。こっちが原書。なにしろ救世主様御本人が書いていたらしいからのぉ」


「本人の直筆!?」


なん……だとー!!

そんな貴重なもの、なぜ俺に!?


「ルーヴィッヒ様が、自分に何かあったらレオンハルトに渡してくれと預けていたものじゃ。きっと何か意味があるんじゃろ」

「あのお方は過去も未来も見通す瞳をお持ちでしたからのぉ」


受け取った本の表紙をそっとなぞると、大爺様の魔力を少しだけ感じた。

保存魔法がかけてるようだ。

おじじの「きっと何か意味があるんじゃろ」という言葉に心がはやる。




「異世界創造伝記」


異世界から召喚された3人の救世主。

その中のひとり、「モノ作り職人」ショウの手記とされる。


■■■


当時の世界はまだそんなに発展していなかったため治安も悪かった。

国同士の争いも多く国も民も疲弊していたところに、次元の亀裂がいくつか生じた。


亀裂近くの村では溢れた瘴気に蝕まれた獣が魔獣化して暴れまわった。

次元の亀裂は他世界とつながり、異世界人が迷い込んでくることも稀にあった。

その亀裂のひとつが魔界と通じてしまったため、魔物や悪魔が侵入してきては悪さをしていた。

魔界で罪を犯した大悪魔を追ってきた魔族の一団は、南の島を拠点とするため魔族領とした。


それらを解決するために世界を救ってくれる存在を召喚しようということになり、王国の魔法師達が一ヶ月がかりで救世主様を召喚した。


「魔法剣士」の青年カイ、「白魔道士」の少女ヒナ。

そして「モノ作り職人」の少年ショウ。


「魔法剣士」の青年カイは魔族領に行き、世界の平和に貢献した。

「白魔道士」の少女ヒナは聖女となり、病で苦しむ人々を聖なる魔法で救った。

「モノ作り職人」の少年はいろいろな物を作り、世界を発展させた。


■■■


ここまでは一般的な「異世界創造伝記」の内容とほぼ同じだ。

細かいところが違うのは……たぶん、売り出すためにいろいろ脚色されたのだと思われる。


問題は後半部分だ。

こんなのは読んだことがないぞ。

世間に知られたら大変なことになるのは目に見えている。

あえて無かったことにしたのだろう。


最後に白魔道士とモノ作り職人は一緒に旅に出たというのは有名な話だけれども。

魔族領やエルフの里に行ったとか、転移門を設置したとか、海底都市を作ったとか。

なんなんだそれって叫びたい。俺も頭痛がしてきた……

護衛 兼 世話係だったという「テオドール」さんに同情するよ。

ちなみにこの人がこの本を売り出して広めたと言われている。


そして、この原書には「精霊の住む森」にも行ったと書いてある。

もしかしたら大爺様とそこで会っているのかもしれない。


「モノ作り職人」の少年ショウと、ルーヴィッヒという精霊の出会いに関しての記述は見当たらない。

だが、この本を託したということはきっとそういうことなのだろう。



本自体にしかけがないか調べたが特に何も見当たらなかった。

繰り返し本を読み、考察し、どこかに意味が隠れていないか考える。

この日はなかなか眠れなくて、大爺様や父上のことをグルグル考えていた。

夜明けが近づいた頃、頭にツキンと鈍い痛みが走ったため少しだけ寝ることにした。

流石に疲れたのだろう。




少しだけ寝るつもりが太陽はかなり高い位置にある。

すっかり寝坊してしまった。


「おはようございます」

「おはようさん」


申し訳なさそうに声をかけると、おばばが穏やかな笑顔で返してくれた。

そして、じっと俺の顔を見上げてつぶやいた。


「おまえさん、その()ー……」


()がどうかしただろうか?


「まずは外の井戸で顔を洗っておいで」


言われるがままに井戸で顔を洗う。

桶の水を覗き込むと、いつもの自分の顔。


さっき、()がどうとか行ってたけど……

普段と変わらない気がする。

そう思いながらも、水に映る自分の()をじっと見つめるとーー


アイスブルーの瞳が一瞬、深いブルーに光ったような気がした。


驚いてもう一度じっくりと桶の中を覗き込んだが、そこにはいつもの自分。

ただの気のせいだったかもしれない。



縁側でおばばが用意してくれた朝食をいただく。

焼おにぎりと川魚の塩焼き、山菜のおひたし、野菜スープ。

春といえば山菜だよねとほっこりしたものの。

一年前の今頃、ヴィックとアリスと3人で山菜採りをしたのを思い出して少し切なくなった。


「アリス達はおじじと一緒に村の外に遊びに行っておるよ」

「そうですか、ありがとうございます」

「ところでレオン、身体の調子はどうだね?」

「はい、元気ですよ?」

「あーその~⋯⋯何か変化を感じたりとかは?」

「? いつも通りです」


なんだろう??


「レオンは、その、ルーヴィッヒ様から何か聞いてたりするのかい?」

「何か?……とは、なんでしょう??」


「さっき、その……起きてきたときなぁ、瞳が濃い青に光ったように見えたんじゃ」


あれって気のせいじゃなかったのか。


「ルーヴィッヒ様も力を使うときは同じように光っておったからのぉ。もしかしてレオンも……と思ったんじゃよ」



大爺様が力を使う時……それは、つまり。

精霊力。

時の精霊の、時渡りの瞳。

いつも読んでいただきありがとうございます! ブックマーク登録や評価、リアクションなど頂けると執筆の励みになりますので、少しでも面白いと思ったらよろしくお願いします。


☆別連載「異世界創造伝記」ではモノ作り職人ショウが活躍しています。

完結してますが、番外編を時々書いておりますのでこちらもよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n7983jn/

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