112 救難信号
ーー宝物か。空飛ぶ怪魚のウロコと似ている展開だな……
何か、カギとなるものがあれば脱出できるのかもしれない。
「おのれ悪者め! この勇者が成敗してくれる!」
……なんか後ろでヴィーが騒がしい。子猿がマントを着けて勇者ごっこしているけど今はほっとこう。
「アリス、その宝物ってどんなもの?」
「えっとね……こんなやつなの」
本をめくって見せてくれた挿絵は、金色の装飾飾りが美しい小箱のようなものが描かれていた。
ページにある文章を読んでみると「探し物を見つけてくれる魔法の香炉」と書いてあった。
お香を炊くと探し物に向かって煙が伸びていくらしい。
あったら便利そうだな。
それにしてもこの箱……どこかで見たような……
「とう! たぁ! どうだっ参ったか!」
ーーなんか後ろが騒がしくて頭の整理が進まない。
「特別な魔力を持つこの仮面の勇者様にかなうと思ったか! わっはっはー!」
ーー特別な魔力……特別……そうだ!!
「うん、試してみる価値はありそうだ」
「アリス、ヴィー、ちょっと手伝ってくれるか?」
「兄さん、ぼくは?」
「トールは今は大丈夫だから本を読んでおいてくれ」
「わかった」
部屋の外へ出ると、争っている音が聞こえるほどの距離にまで船は近づいていた。
もう一刻も猶予がない。
船が難破したときなんかは救難信号を上げると聞くから、それを真似してみようと思う。
こんな異空間で誰に助けを求めるかと問われれば……先程の幽霊船だ。
幽霊船には魔族の女性が乗っていた。
「南の島の幽霊船」が実話に基づいたものだとしたら、きっと助けに来てくれるはず。
これは確信に近い。
シノン婆様によく似た女性、角の形は魔王アモンのそれに似ている。
ならば推測されるのは一人だけ。
シノンとアモンの母親、つまり俺達の高祖母・元魔王姫だ。
彼女はアモンが幼い頃に行方不明になったと聞いていた。
ーー頼むぞ、情に厚い幽霊船なんだろ。
ヴィーの異世界人由来の魔力と、アリスの魔族由来の魔力。
俺は風の魔法にふたりの魔力を乗せて幽霊船が消えて行った方角の空へ飛ばした。
ーーどうか……どうか気づいてくれ!
貴方が結婚した異世界人と、同族の魔力です。
どうか力を貸してください……!!
船の後方に意識を飛ばしていた俺だが、進路前方の騒がしさに振り返る。
どうやら海賊たちがこちらの存在に気づいてしまったようだ。
海賊船からこちらへ向かってくる3艘の小舟が見えた。
ーーこれはいよいよヤバイかもしれない。
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☆魔王姫は別連載「異世界創造伝記」の番外編に少し出てきます。
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