106 イカ焼きパーティー
手に入れた巨大イカの触手。
俺達は山育ちだから海の味覚が食卓に登場するのは稀で、ちょっと特別な気分になる。
そして今は、弟妹達の成長が嬉しくて胸いっぱい。
さて何を作ろうかと張り切っていると、トールが「調理に時間がかかるだろうから、こっちでもバーベキューもやっとく?」と提案してきた。
たしかに、出来上がるのを待っているだけというのも時間がもったいない。
それに調理しているうちに夜になってしまいそうだ。
「焼けたら先に食べてて良いよ」
俺はイカの触手を二切れほどトールに渡し、マジックバックにある野菜もいくつかテーブルに並べた。
それらを輪切りにしていくトール。
アリスとヴィーはバーベキューセットを並べている。
向こうはみんなに任せて、俺もイカの調理を開始。
まず一品目はすぐ出来るやつ。
イカを一口サイズに切って、風魔法で表面を少し乾かし、味付けした粉をまぶしてオリーブオイルで揚げる。
皿に盛って、クシ切りにしたレモンを添える。
二品目、イカのトマティ煮。
鍋に一口サイズに切ったイカと、先ほど下準備でゴロゴロに切っておいた野菜を入れる。
香辛料を入れてかるく炒めたら、かぶるくらいの水と調味料を入れて煮込む。
煮込んでいる間に三品目。
さっきの揚げ物で残ったオリーブオイルを使おう。
ニンニク、香辛料、一口サイズに切ったイカと野菜を入れて10分ほど加熱。
塩と胡椒で味を整えれば完成だ。
さて、二品目の煮物もそろそろ良いかな?
スプーンですくって味見をしてみる。
うん、トマティの甘さと酸味が絡まってて美味しい。
仕上げにバターを少し……これ、パスタにかけても美味しいかも?
チラリとみんなの様子を見ると、アリスが楽しそうに鉄板でイカを焼きまくっていた。熱せられると縮んでいくイカが面白かったらしい。
トールは網のほうで野菜を焼いている。几帳面に並べられている野菜が性格を表しているな。
ヴィーはつまみ食いをしようとして怒られていた。
よし、日が沈む前には完成させよう。
急いで大鍋に湯を沸かしてパスタを茹でる。
茹でたパスタを深めの皿に盛り、イカのトマティ煮をかけて香草を添える。
うん、見た目も華やかだし美味しそう!
けれどまだ少しイカ残っている。
これだけ残しておいても仕方ないしな……よし、使っちゃおう。
四品目はまぜこぜ焼。
細かく刻んだ野菜とイカ、卵、調味料と粉を深めの器に入れてサックリまぜる。
……これは直接、鉄板で焼こうかな。
「おーい、そっちはどう? バーベキューは美味しい?」
「いっぱい焼いたよ。一緒に食べよう!」
「兄さんと食べたいから待ってるんだって」
「えっ俺待ち!? 気づかなくてごめん」
「……ヴィーは先に食べちゃってるけどね」
テーブルの下を覗き込めば、こっそり隠れているらしいヴィーがいた。
慌てて口につっこんだのか両頬がふくらんでいる。
思わず吹き出してしまった。
「ヴィー、隠れなくていいから一緒に食べよう」
「お、おう」
鉄板に「まぜこぜ焼」の器をひっくり返して形を整える。
焼いている間に、作った料理を運んで並べてもらう。
空がオレンジ色になってきたので魔導ランプに明かりを灯す。
「わ〜!」
「美味しそう!!」
「うん」
「よし、それじゃあいただこうか」
「「「「いただきまーす!」」」」
パデボルンでもらった葡萄ジュースでカンパイ!
同じく、パデボルンで手に入れた干し魚の粉をまぜこぜ焼きにふりかけると、辺りに香ばしい香りが広がった。
ゆらゆら、ゆらゆら、揺れる船を照らす月の明かり。
お腹いっぱい食べて、みんなで一緒に片付け。
この船も渦潮地帯を抜ければ明日には目的地に着く予定。
なのだけど。
月明かりは眩しいのに、星が一つも見えないのは一体どういうことなのだろうか。
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