103 船上のアリス
お待たせしました! 第七章スタートです。
青い海、青い空、眩しい太陽!
そして、爽やかな風と、可愛い服!!
「いや、爽やかではないぞ。どっちかというと潮でベタつく……」
「ヴィー! せっかく気分良くやってるんだから余計なことは言わないで」
「ええー?」
俺達は今、魔族領へ向かう船の上にいる。
見渡す限りの、青、青、青。
船にぶつかって水しぶきをあげる白い波。
ザザーザザザーン……
本来のルートでは砂丘の向こうにある港から魔族領に向かうのだが、有り難いことに精霊王様が船を用意してくれたので、精霊の森からの直行ルートである。直線ルートなら最短距離だしラッキー!……なんて、簡単にはいかないのだが。
どうやらこのルートは大型魚類が出没したり、渦潮があったりと航海には向かないらしい。過去に次元の亀裂が多かった場所だからその影響が残っているのだとか。
けれどその代わり、他の船が通ることはほぼないから誰にも見つかることはないだろう、とのことだ。
精霊王様はカーディナル王国での事もご存知で配慮してくださったのだ。
甲板の前方で周囲を警戒しながら楽しそうに仁王立ちしているのはアリス。
薔薇の精霊達と仲良くなったアリスは、別れ際に新しい服をいただいた。
見た目はリボンやレースも付いた可愛らしい膝上丈のワンピースだけど、中はショートパンツのようになっているらしい。見た目とは違いとても頑丈な生地で作られていて、もちろん精霊の加護付き。
この防具がアリスを守ってくれるというのだから有り難いことである。
「アリス、嬉しくて浮かれるのは分かるけど危ないから少し落ち着きなよ」
「なによー。トールだって本当は浮かれているくせに」
トールも知らないうちに光の大精霊と仲良くなっていた。
シエルからもらったという、精霊力のコントロールを補助してくれるイヤリングをつけている。
どうやら彼に精霊力の指導を受けていたようだ。
翠玉色の髪は精霊族の特徴。
大爺様と同じ空間魔法の素養を持つトールを心配してくれたのだろう。
そして、トールの頭の上で休憩しているヴィーはやけに丸っこい。
精霊の森で木の実を食べていたら、精霊力も同時に吸収したのとか。
「もうおなかいっぱい。満足ぅ」とのことなので、幸せの丸い鳥といったところか。
ちなみに俺は甲板の端っこにある簡易椅子で休憩している。
もう、この日陰からは動けない。
なぜなら船酔いしているから。
気持ち悪くて頭を動かすのが精一杯だ。
こんな沖に出る船に乗るなんて初めてだし、こんなに揺れると思わなかった。
寝不足なのも良くなかったのだろう。
ほんと、しんどい。
「兄さん、大丈夫?」
「ごめん……しばらく動けそうにない」
「回復魔法でもかけようか?」
「魔力は温存しておかないと。休んでいれば大丈夫だから周囲の索敵を頼むよ」
「ふっふっふ。周囲の見張りなら私がやるよ。このアリスにお任せあれ!」
「「「…………」」」
まぁ、この船は遊覧船くらいの大きさだけど精霊の保護魔法が付与されているし。
シエルも結界魔法を張ってくれたし。
行き先は魔道具がコントロールしてくれているし。
トールも淡々と索敵展開してるし。
何より、妹がやる気を出しているのに水を指すのは良くないだろう。
魔族領までは船で2〜3日かかるのだ、旅は楽しいほうが良い。
「じゃあ、アリス。よろしく頼むよ」
アリスは仁王立ちのまま振り向き「まかせて!」と気合の入った笑みを見せた。
いつも読んでいただきありがとうございます!
やっと魔族領に向かって出発しました。
距離的には「大航海」というほどではありませんが、「大航海」と呼べるような船旅になる予定です。旅している彼等は「そんなイベントいらない……」とか言いそうですが(苦笑)
第七章もよろしくお願いします!