閑話2/薔薇の紅茶は大人の味 sideアリス
大陸の南東には、うっそうと緑が茂る森があります。
その森には不思議な言い伝えがあり、いくら足を踏み入れても元の場所に戻って来てしまうのだとか。
大昔から「精霊が住んでいる」と言い伝えられていますが、見た人はまだいません。
……他種族にはそう伝えられていた森なのですが、時々精霊達のお茶会に招待されるお客様もいるようです。
「桃薔薇ちゃーん! 遊びに来たよ」
八重歯を見せて嬉しそうに手を振るのは、黒髪の少女アリス。
転移扉を通ってやってきた彼女は、他種族の血も引いているが曽祖父は精霊族のルーヴィッヒだ。
森の精霊達に受け入れられてる……とは言い難いが、親切にしてくれる精霊達もいます。
『アリスちゃん、いらっしゃい!』
『あれ? 今日はアリスちゃん一人だけなの?』
「うん。レオン兄がちょっと熱を出しちゃって。今、トールが看病してる」
『アリスちゃんは一緒にいなくていいの?』
「全員いるとうるさいから遊びに行ってこいって言われた」
『……ああ、トール様かぁ』
しょんぼりしているアリスの頭を、桃薔薇がヨシヨシとなでた。
少しだけ気分が浮上して笑顔になる。
そこへ給仕係がワゴンに綺麗なティーセットを並べて運んできた。
上位精霊の彼女は子供姿で、薔薇の頭をしている。
「あれっ昨日とは違う精霊さんだね。紅茶も昨日と違う」
『毎日違う精霊がオススメのお茶を用意してくれるんだよ。今日の給仕さんは私も始めましてだね』
笑顔の桃薔薇に向かって、給仕さんはすまし顔でペコリと頭を下げた。
「昨日のフルーツティも美味しかったけど、今日はなんだろう?」
アリスがワクワクしながら桃薔薇と一緒に席につくと、給仕は透き通る紅色の紅茶を用意してくれた。
『いい香りだね』
「うん、爽やかな薔薇の香り」
『「いただきまーす!」』
ひとくち、コクン。
「…………」
『…………』
少しだけ渋みと、苦みと、口にすると香りがきつく感じる。
「えっと、ミルクとかありますか?」
『この紅茶には合いませんよ』
『砂糖かハチミツはない?』
『そのまま飲んだほうが風味が感じられますので』
すまし顔を崩さない給仕さん。
『ローズティーも飲めないなんて、この茶会に参加するにはまだ早いんじゃないですか?』
二人は顔を見合わせて困ったように菓子に手を伸ばした。
甘いだろうと思った菓子類も素朴な味で甘くない。
仕方なくボソボソと焼き菓子を食べるしかなかった。
菓子を食べると喉が渇くので、紅茶の2口目を口にする。
顔が歪みそうになるのを我慢して飲んでいると、後ろから声をかけられる。
「こーら、何をしているの?」
赤薔薇さんである。
いつも茶会を仕切っている彼女はテーブルを見てだいたいを察した。
「ゲストが心地良くいられるように応えるのも給仕の役目でしょう?」
扇子で口元を隠しているけど目は笑っていない。
給仕の精霊は渋々といったかんじでジャムを出してきた。
『……どうぞ』
紅茶にジャムを溶かすと、爽やかな香りに甘さがプラスされた。
『「あっ美味しい……」』
ほっとしたように笑顔になったふたり。
赤薔薇は微笑んで頷いたけど、給仕の精霊は納得できないのが表情に思いっきり出ていた。
「あの、薔薇の精霊さん。ローズティーが飲めるようになったらまた遊びに来るので、その時にもう一度淹れてくれますか?」
申し訳なさそうに見上げるアリス。
精霊は悔しそうに「ふぐぐっ」と唸ったけれど「仕方ないですね」と息を吐き、
「だったら私は、超絶スペシャル美味しいウルトラプレミアムなローズティーを淹れてみせますよ」
そう言って胸をはった。
赤薔薇は笑顔のまま心の中で「子供か!」とツッコミ入れたが、「そういえば、この子達はまだ子供だったわ」と力なく笑うのでした。
いつも読んでいただきありがとうございます!
給仕の薔薇の精霊は「頭が薔薇」と書きましたけどね、想像したらあ◯ぱんマンのキャラみたいになってしまいました……精霊の森のテーマは「エレガンス」なのに!どうなるキャラデザ!
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