102 幸あらんことを
「どうか、特異点となるあの子に幸あらんことをーー」
最後の一文に思考が止まる。
ーー特異点? 誰が?
「最初の男児」は、大爺様からすれば俺がそうだ。
でも、だったら何故ヴィックは連れ去られた?
「特異点」とはなんだろう。
詳しい説明がないから全く想像がつかない。
なのに嫌な予感しかしない。
魔王アモンは何を知っている?
本を閉じて、目を伏せて、深く息を吐く。
ーーよし、見なかったことにしよう。
再びヴィーの魔力を借りて、元の異空間へ本を収納した。
この魔法陣は俺とヴィーの魔力を合わせて行使した時に反応する。
きっと他者に開けられることなどないはず。
誰にも言わなければ知られることもない。
それに俺のことを指していると決まってるわけでもない。
俺は何も見なかった。
何も知らないぞ。
隠密ローブを被って外に出れば、もうすぐ夜明けを迎えようとしていた。
夜空の深い青がやがて金色の光に照らされた頃、宮殿に辿り着いた俺はギクリと足を止める。
森の精霊が、俺達の部屋の前で待っていたからだ。
仕方ないのでローブを脱いで挨拶をする。
「おはようございます」
「ああ。……どうだった?」
ーー流石に森の中のことはお見通しか。
「これを」
本棚にあった黄緑色の鉱石を差し出す。
シルヴァはそれを手に取ると目を大きく開いてまじまじと観察。
そして鉱石を両手で包み込み、静かに目を閉じて「感謝する」とつぶやいた。
この黄緑の鉱石は、大爺様が子供の頃に仲間の精霊達と一緒に森の奥で採掘したもの。
光の大精霊と同じで、森の精霊もまたルーヴィッヒの友だったのだ。
だから尚更、裏切られた気持ちになってしまったのだろう。
初めて自分で見つけた鉱石を持ち帰ったルーヴィッヒは、記念の魔法を付与した。
仲間のための幸福の魔法を。
ほんの些細な、おまじない程度のものだけれど。
それを見た先代の光の大精霊・リュシーは、森を守る魔法を重ねて付与した。
親子のような、兄弟のような、親しい間柄。
魔法が重ねがけされた鉱石を手にして嬉しそうに笑う少年ルーヴィッヒ。
その少年の肩にそっと手を置き、優しさに満ちた目で微笑む大精霊。
彼等はもういないけれど、きっとあの鉱石がこの森を守る手助けをしてくれるだろう。
時の精霊と光の大精霊が、森とともに仲間達の幸せが続くことを願って魔法を付与したのだから。
〈時渡りの瞳〉が覚醒してから苦しい記憶が多かったけれど、俺は、この時ばかりは自分の力に感謝した。
第六章はここまでとなりす。有難うございました!
☆5000PV感謝!!
読んでくださった皆様、本当に本当に有難うございます! 夏休みのおかげかPVも増えて、読んでくださっている方も少しづつ増えてる気がします。
ユニークアクセスは相変わらずゆっくりペースなので、ここまで辿り着いた方は「選ばれし者たち」ということでしょう。(元ネタが分かる人は友になれる素質有り!)今後も楽しんで読んでいただけるように精進してまいりますのでよろしくお願いいたします。
☆登場人物まとめと、閑話をはさんで第七章スタートとなります。
やっと魔族領に向けて出発! 忘れずに読みに来ていただけたら作者は泣いて喜びます。
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