094 海の案内人
大爺様はショウの行方を知っているかもしれない。
それが矛盾する行動の原因ではないだろうか。
そして、隠し部屋の鍵はきっと……
見えた過去に引きづられたまま考え事にふけっていたが、弟妹達の声で意識が浮上する。
いろいろとあったが精霊の森の散策は案外楽しいようだ。
充分休憩した後は、西側にある海に向かうことにした。
宮殿からみて南南東にある水源から海までは、思っていたほど遠くはなかった。
ただし、精霊の森は大陸の南東にある。面している海は崖の下。
「どうやって海に降りるんです?」
『浮遊魔法は使えますか』
「一応飛べますが、魔法はまずいのでは?」
『例の島から離れた所に小船を用意してもらいました』
そう言われて案内された崖の上から下を覗き込むと、三人乗りくらいの小さな船が二艘ある。
「わ〜高い……」
「怖い?」
「ううん、大丈夫」
アリスは大丈夫と言いながらも少し怯えたようにトールにくっついて、大型鳥に変化したヴィーに乗って降りた。
俺は魔力の翼を広げてもう一艘のほうへ。
シエルはどうするのかと思っていたら、彼は浮遊魔法でゆっくり俺の隣に降りてきた。
『森の外なので長居はできませんが、今日は心強い仲間がいますので』
心強い仲間?
頭を傾げると、船が少し揺れた。
慌てて船縁に捕まると、虹色の鱗が視界をかすめる。
「うわわっ」
「えっえっえっ!?」
弟妹達の驚く声。
揺れは収まったけれど目をまん丸にしたまま固まっている。
無理もない、現れたのは虹色の鱗の人魚なのだから。
『ごめんなさい、驚かせちゃったかしら』
『呼ぶまで待ってるように言ったでしょう』
『だって、ルーの子孫に早く会いたくて』
ーー「ルーの子孫」!? 大爺様のことだろうな、かなり仲良うさそうだ。
「うわ〜虹色だ!」
「オレも初めて見るぜ」
「キレイだね〜」
アリスとヴィーは大興奮。
トールはアリスが船から落ちないように服の端を掴んでいる。
『彼女はマーメイド・クイーン。ルーヴィッヒの友人だ』
「レオンハルトです。今日はよろしくお願いします」
『こちらこそ、よろしくね』
「アリスです!」
「オレはヴィー」
「……トール」
順番に握手をした。
水かきがあるし、しっとりしているけれど感触は人間の手とあまり変わらなかった。
『急に呼んで悪かったね。海の大精霊はすぐには無理だと言うものだから』
『かまわないわよ、ルーの家族のことだもの』
……海の大精霊を呼ぼうとしてたのか。恐れ多いよ。
いや、マーメイド・クイーンも十分に恐れ多いんだけども。
「クイーン、準備が良ければ出発しますか?」
クイーンと一緒に来ていた人魚がふたり、海面から顔を出した。
こちらは水色の鱗とヒレだ。
『そうね、急がないと夕方になってしまうわ。人数の振り分けはこのままで良いかしら?』
「はい、大丈夫です」
『準備はいい? それじゃあ、行くわよー!』
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