093 森を愛した光の大精霊
確実にわかったのは、先代の光の大精霊はこの森を心から愛していたということ。
精霊力を水の流れに乗せて森の見回りをしていたのだろう。
蜃気楼を通せば見ることも会話することもできたようだ。
困っている精霊がいれば手を差し伸べ、悩んでいる精霊がいれば相談に乗っていた。
森に異変があれば仲間の精霊に声をかけて対応し、精霊王様に忠誠を誓っていた。
それだけじゃない。
周辺国の様子も見守っていたようで、人族や獣人族の姿も視えた。
彼が精霊達に慕われていたのも納得だ。
次代の王は彼が良かったんじゃないかと思えるほどに。
何かがおかしくなったのは、南の島に黒い影が現れてから。
小さな魔素溜まりが始まりだった。
昔、まだ魔素が濃かった時代には「魔素溜まり」というものが発生していたらしい。
魔素溜まりの闇に飲まれると魔物化して自我を失い凶悪になってしまうと聞いたことがある。
救世主が次元の亀裂を修復してからは魔素の異常発生は減っていったはずだけれど。
例の島の影を見つけた大精霊は、森の中から見下ろして様子を見ていただけだった。
影と接触していた気配はない。
ただ様子を見て、徐々に大きくなっていく影を警戒していた。
そのうち、影の中に悪魔のような気配も時々感じられた。
……彼が島に降りた様子はなかったけれど、実際のところはわからない。
やはり近くに行って確認してみないと判断が難しいな。
大爺様のことも、思う所はありつつ認めていたように見える。
元々面倒見の良い性格なのだろう。
まだ光の粒子だったルーヴィッヒを宮殿に案内して。
子供姿になった精霊にあれこれ世話を焼いて。
少年姿になったあたりから、少し厳しくなったように思う。
断片的にだけれど、声も聞こえた。
『こんな……ちがう……』
『お前が悪魔を呼び寄せたのだ!』
『私が精霊王子になるべきだった』
『なぜ頑なに拒む』
『それが精霊王様の願いだ』
『気づかぬうちに随分と大人になったものだ』
『魔族の立ち入りを禁止する』
『私に任せておけ』
『ショウの行方を知っているのか』
『困ったときはいつでもここへ来なさい』
『ここは私の家族が住む森だ』
1000年……2000年……?
どのくらいの年月を遡ったのだろう。
残滓の記憶の中で、悲痛な声と優しかった頃の声が交差した。
森を愛した光の大精霊。
最初は大爺様を認めていたはずの彼が『私が精霊王子になるべきだった』と言った。
優しかった彼がそこまで負の感情を募らせてしまったのだ。
ふたりの間にあった出来事を思案するけれど。
『ショウの行方を知っているのか』ーーこの言葉が頭から離れない。
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