092 蜃気楼×時渡り
川の流れに精霊力を乗せて、水の流れにまかせればどこまでも流れていくだろう。
精霊力は自身の一部だ。
水と共に流れた先の景色を、出来事を、彼は蜃気楼を通して見ていた。
流石に限界もあるのか、海の先は途中で力が薄れてしまっていたけれど。
なんでそんなことが分かるのかって?
そんなの、彼が見たものが勝手に頭の中に流れ込んでくるからだよ。
なんだよこれ。
こんなの、聞いてない。
ふ……と目を開けると、心配そうに覗き込んでいる弟妹たちの顔が目の前にあった。
「あれ……?」
「アニキーー!!」
「良かった〜!」
涙目になってくっついてくるヴィーとアリス。
トールも心底ほっとしたようにこちらを見つめている。
『おかげんはいかがですか?』
シエルも心配そうな声。
周りを見渡すと、どうやら俺は敷物の上に寝かせられているようだ。
「すみません、俺……倒れたんですか?」
『ええ。ちゃんと精霊力を使えるようなので油断していました。すみません』
「いえ、何がどうなったのか……」
『レオンハルトは力に目覚めたばかりだったのですね。まだ身体に馴染んでいない者は強い精霊力の影響を受けることがあるのです』
「そうだったんですか……」
精霊力については大爺様から教わっていないからなぁ。
『まだ昼ですから、もう少し休んでいて大丈夫ですよ。』
「ありがとうございます。弁当があるので先にみんなで食べてください」
『そういえばあなた達は食事が必要なんでしたね。うっかりしていました』
あ、そうか。純粋な精霊は食べないのか。
自分達は違う存在なのだと感じて、少しだけ寂しくなる。
横になっている俺の隣で食事を始めた弟妹達。
一緒に食べられなくて申し訳い。
けれど、一気に流れ込んできた情報に頭が追い付いていないから、少しだけ休ませてほしい。
この場にあった残滓に自分の精霊力が同調してしまったのだろう。
蜃気楼×時渡り。
かなり遠い過去まで視えた。
いや、視えてしまった。
大爺様の過去も、先代の光の大精霊の思いも。
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