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009 旅のはじまり

この回から一人称になります。

三人称で物語を進めたかったのですが私には難しかった……(涙

不甲斐なくて申し訳ありませんー!

俺達は今、山の中にいる。

エルフの隠れ家を出て聖山を下り二日目、まだまだ深い森の中。


約束通り、トールは索敵と異空間収納に加えて結界魔法も身に着けた。

ヴィーは犬くらいの大きさまでなら変化できるようになった。

そしてアリスは、身体強化と防御魔法の他に、小さなキズを治すくらいの回復魔法も使えるようになったようだ。

すごく頑張ったと思う。

教えてくれたフィンにも感謝だ。




今は日暮れが近いので野営の準備をしているところである。

一日中ずっと身体強化の魔法をかけて走っているので、みんな流石に疲れているだろう。

俺とトールは調理中。

アリスには休んでいて良いと言ったが、ヒマを持て余しているようでヴィーを指でつついている。


ツンツン、なでなで、もふもふ、むにむに。


最初は抵抗していたヴィーも、二日目ともなれば慣れてきたのかアリスにされるがままだ。

ときおり尻尾で反撃しているのは、たぶん鬱陶しいのだろう。


ああっまた喧嘩してる。まったくもー。


なにはともあれ弟妹達と一緒に旅に出られたのは嬉しい。

いろいろと心配事はあるし、今後を考えたら頭も痛い。

だが、せっかくだから楽しい旅にしてやりたい。

弟妹は里から出たことがなく、みんなで旅をするのは初めてなのだから。



アリスは身体強化+防御魔法を展開しながらも頑張ってついてきている。

覚えたばかりで時々危なっかしいが、この2日でだいぶ慣れてきたようだ。


トールは索敵と弓を担当。

剣と弓、どちらが良いか訪ねたら「索敵といえば弓でしょ」と即答だった。

隠れ里では弓での狩りもしたことがあるし、妥当だろう。

異空間収納も覚えたが、まだ少量しか入れられないらしい。

それでも覚えたての魔法とは思えないほどに使いこなしている。


2人とも流石の魔力量と魔法センスだと思う。



今向かっているのは、麓近くにある錬金術の小さな村。

カーディナル王国へ行くときは父上もいつもそこで一泊しているらしい。


この広大な聖山の西側中腹にあるエルフの隠れ里からみて南側。

「麓近く」ではあるが、それでも聖山の中だ。山は険しく、森は深い。

なんとなくしか覚えていないが、記憶を頼りに地図に書き込んである。

大爺様仕込みの知識で危険な山道も今のところ順調に進み、狩りも野営も問題なく最初の目的地へ近づいている。

近くまで行けば気配察知に引っかかるはずだ。

明日の夜までにはきっと着くだろう。



「兄さん、こっちのサラダは出来たよ」

「ああ、ありがとう。こっちのスープももう出来るよ。そこのテーブルに並べてくれるか」

「わかった。アリス! 食事が出来たからアリスも並べるの手伝って」

「は~い!」


今夜のメニューは、今朝狩った猪の香草焼きと、野菜と干し肉のスープ。

里でもらった野菜のサラダと、作り置きしてマジックバッグに保管していたバゲット。


子供の頃から身体の成長と健康維持のためには食事のバランスが大切だと言われて育った。

母上もお祖母様も生まれつき身体が弱かったから、大爺様はかなり気を使っていたようだ。


「いただきます」

「いただきまーす!」

「いただきます」(小声)

「いっただきま~す!」


ヴィーも魔力塊のくせに食事を摂るらしい。不思議だ。


「だって美味しそうだもん。オレも食べたい!」

とのことだ。それでいいのか?



食後はクリーン魔法で食器も調理器も綺麗にして、ついでに自分たちにも魔法をかける。

お風呂に入れないから、その代わりだ。

結界石を使っているからキャンプの周りに魔獣は入ってこれない。

魔獣だけではなく野党も心配だが……こんな魔素の濃い山奥に普通の人間がいるとは考えにくいだろう。

とはいえ、不測の事態に備えて気配察知を展開しつつ、武器も常に手の届くところに置いてある。



山歩きで疲れたアリスは早々に寝てしまった。

天幕は空間拡張魔法が施してあって中は広いし保温魔法もかけてある。

質素だが寝具もちゃんと付いているから、野営とはいえ寝心地は悪くないだろう。

アリスの護衛担当(自称)のヴィーも一緒に夢の中だ。


アリスはまだ9歳だし、移動している間は常に魔法を発動しているから心身への負担も大きい。

それでも俺達はみんなで旅に出ることを選んだ。

長兄である自分がもっとサポートしてあげなくては。



焚き火の熱に照らされながら、夜空を見上げる。

木々の隙間を埋め尽くすかのような星たち。

まだ少し冬の気配が残る山の空気は深呼吸で吐き出した息を白く染める。

旅に出てまだ2日だというのに、すでに里が恋しいなんて言ったら笑われそうだ。


「兄さん、明日の狩りはぼくが行くよ」

「大丈夫だよ。俺にまかせておけって」

「でも兄さんは一番遅くまで見張りをして、一番早く起きて狩りをしてるじゃないか」


ーーだって俺は長男だし


「狩りだって、動物を殺める所をアリスに見せないように遠くまで行って、ちゃんと処理したものを持ち帰ってるでしょ」

「それは、まあ。アリスはまだ子供だからああいうのは見せたくないし」

「兄さんばかり負担が大きいじゃないか」

「それは……」


「ひとりで全部やろうとしないで、ボクにも頼ってよ!」


ーーそんなことを考えていたのか。前のヴィックだったらそんなこと言わなかっただろうな。トールの気遣いが嬉しい。


「ボクだって弓を使えるよ。索敵もできるから効率良いし」

「うん、知ってる。心配してくれて有難うな」

「兄さん」


ーー弟に心配させてしまうなんて。もっとしっかりしなくては。


「明日の食事はマジックバッグにあるもので作るから大丈夫だよ。夜までには村に着くと思うんだ」

「そう。じゃあ兄さんも今夜はゆっくりしてね。……おやすみ」

「おやすみ」


貼り付いた笑顔の裏を見透かされたようでドキリとした。

トールの言うように、もっと頼りにして良いのかもしれない。

あいつらの方が魔力保有量が多いから俺よりも可能なことが多いかもしれない。

けれど兄として守ってやりたいし、頼られる存在でありたいと思う。


吐き出した白い息に鼻がツンとした。

氷を散りばめたような星空を見上げながら思う。

大爺様のようになりたいのに、俺はちゃんと成長できているだろうか。

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