強欲な姫の話
「先生!」「お母さん」
「「ご本読んで」」
「…そうね、今日は本じゃなくてお話をしてあげる」
「「やったー」」
強欲な姫の話
ある国に、それはそれは強欲な姫がおりました。
姫は欲しいものはなんでも手に入れます。
例えば近隣諸国の作物。
値段を釣り上げられても、売り物はすべて買い占めます。
近隣諸国は「強欲で馬鹿な姫」だと影で笑っていました。
ある年、日照りが続いて飢饉が起きました。
姫は食糧庫を開放し、近隣諸国に分け与えます。
みな自分たちの行いを反省し、余分に受け取った代金を支払い謝罪しました。
「強欲なのに分け与えたの?」
「強欲だから分け与えたのよ。姫はみなの愛を受けて満足したの」
またある時は薬草を買い集めました。
それらを素にいろいろな病に効く薬が開発されていきました。
そして起きた恐ろしい流行り病にいち早く対応したのです。
近隣諸国は先が読める姫だともてはやしました。
「強欲と薬になんの関係があるの?」
「姫は自分の国の民を減らしたくなかったのよ。強欲だから」
姫の元に一人の男がやってきました。
男は美しいバラの花束と大きな宝石のついた指輪を差し出して姫に求婚します。
しかし姫はその申し出を断ったのでした。
「どうして?強欲なら指輪が欲しいんじゃないの?」
「そこに愛がなかったからよ」
飢饉から数年後。
姫は相変わらず近隣諸国の食料や薬草を買い占めていました。
みな飢饉があったことなど忘れ、姫への感謝も無くなり、関心は姫の財力へ移りました。
これだけのものを買うことができる姫の城にはさぞかしお宝があるのだろうと。
近隣諸国は協定を結び、姫の城に攻め入りました。
「なんてひどい!困ったときに助けてもらったのに…。姫は無事なの?」
兵士たちが城に入るとそこはもぬけの殻でした。
近隣諸国の庶民たちは姫への感謝を忘れていません。
兵士たちが攻めに来ることをこっそり姫に教えたのです。
「良かった〜」
城の中には何もありませんでした。
すべて姫が持っていったのかと思われましたが、家具の跡がありません。
最初から何もなかったのです。
姫は自分のものは必要最低限のものしか買いませんでした。
国民からの税金も、国民の商品を買うことで還元していたのです。
そして貯め込んだ食料は賞味期限が切れる前に商人に売り、そのお金で近隣諸国の貧しい村も救っていたのでした。
「へー。強欲だけど執着心は無いんだ。僕もこの姫みたいに」
「姫の真似をしてはだめよ」
「どうして?」
「姫は結局近隣諸国から追われた。大陸中を守ろうとした姫は強欲になりすぎたの。度がすぎた強欲は身を滅ぼすのよ。何事もほどほどがいいの」
「ふーん。姫はこの後どうなったの?」
「幸せに暮らしてるわよ」
姫は助けてくれた庶民たちと落ち延びて小さな村を興しました。
やがて恋をして結婚し、子供を授かりました。
強欲な姫は今では母親となり、村の子どもたちを集めて勉強を教えているのです。
村の人間は全員自分の家族だから。
「あなた達は私の宝物よ。だから大切に育てるの」
そう言って子どもたちを抱きしめます。
「だって私は強欲だもの」