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プロローグ

 俺は29歳の趣味特技もなければ職もない彼女いない歴=年齢の童貞。


 もう何年も引きこもり生活をしているが、何不自由なく生きている。


 将来のこと、ましてや明日のことなんて考えるのも馬鹿馬鹿しい。


 ただ毎日適当な時間に起きて、部屋の照明ともいえる24時間稼働中のPCモニターを眺めるだけ。


 もうやるゲームもなくなってきたし、最近のゲームはパクりゲーばかりでどれも面白さに欠ける。


 強いて言えば今やっているこの無理ゲーくらいだろうか、時間を持て余している俺には暇つぶしにちょうどいい。


 もう何回繰り返しただろうか、挑戦した回数は100回を唐に超えているはずだ。


 別に負けたって何も思わない、やり直せばいいだけだから。


 そう、こうやって『コンテニュー』を選べばまた戦う前に戻ってやり直せる。


 ただそろそろ飽きた。


 家族は何年も顔を合わせていないが、物音がしないあたり、既に寝ているのだろう。


 コンビニでも行って2週間分の飯でも買い貯めしておくか。


 階段を降りて左に曲がった突き当たりの部屋、タンスの中の封筒から2万ほど取り出して残りを元に戻す。


 最初は罪悪感やバレた時のことが頭を過ったが、今やもう慣れたものだ。


 2週間に1回の徒歩往復10分ほどのコンビニまでの道のりは、引きこもりの俺にとってはハードな運動だった。


 外に出る時、俺は必ずマスクをつけているので、尚更呼吸がしにくくて辛い。


 そんなに辛いなら外せば良いのでは。と思うかも知らないが、俺には外せない理由がある。


 いつもならもう目的地のはずだが、今日は何となく遠回りをした。


 特別何かあったわけではない。ただ、人とすれ違いそうになっただけだ。


 俺は極度の人見知り、いやもはや恐怖症と言ってもいいだろう。


 小学生くらいの頃はそんなことはなかったが、中学で色々あってから、人が笑っているのを見るだけで自分のことなのではないかと思うようになってしまった。


「お前って飯食う時もマスク付けてるよな、ちょっとだけでいいから顔見せろよ」


「風邪ひいてるだけだから…おいやめろって!」


「んな年中風邪ひいてるやつなんてどこにいんだよw自分で外せないなら外してやるよ!」


「おいみんな、あいつの顔見ろよw鼻の下にでっけえホクロ!汚ねぇハナクソ男!」


 その日から俺のあだ名はハナクソ男になり、その名前は学校中に広がり、初対面の他校の生徒にも呼ばれるようになった。


 思い出すだけであの時のあいつらの笑い声が頭に響いて吐き気がする。


 今にも消し去りたい記憶だが、人はそう簡単に忘れられない。ましてや嫌な思い出となると尚更。


 いっそのこと死んでしまおう、なんて何度も思った。でも俺には死ぬ勇気させなかった。


 気づけば7分は歩いていたと思う。いつもなら絶対に通らない道に入ったのと、昔のフラッシュバックのせいで大通りにきてしまった。


 幸い夜中だったので歩行者は見当たらないが、何台か車が俺を追い抜いた。


 今日は何かとついていない、さっさと用事を済ませて帰ったら早めに寝よう。


 赤信号を眺めていると、ぽつんと雨が降ってきたのと、横断歩道の反対側に何やら揉めている男女がいるのに気づいた。


 今日は本当に最悪な日だ、人はいるわ雨は降ってくるわで散々だ。


 本降りになってきそうなので引き返してられないし、風呂に入らないといけなくなると、家族が起きてくるかも知らないので色々と面倒だ。


 仕方がないがあの2人は走ってやり過ごすしかない。


 そんな事を考えていると女の方がかなり大きい声で悲鳴をあげたので、見たくもないが反射的に女に目がいってしまった。


 その顔に見覚えがあった。


 名前も知らない、どこで見たのかも覚えていない。でも、確かに俺はあの女を知っている。


 俺とした事がらしくない、なんで助けようなんて思ってしまったのだろうか。


 信号が青に変わるのとほぼ同時に俺の右脚は前に出ていた。


 俺は男の腕を掴んで


「お、おい。嫌がってるじゃないか…」なんて言葉を言っていたと思う。というか、自分でも覚えていない。


 多分雨の音にかき消されて男にも聞こえてなかったと思う。


「なんだこいつ、きもちわりぃ!」


 振り払われたことで俺はガードレールに後頭部を打ち付け、酷い吐き気に襲われた。


 ただ、興奮状態だったのもあって、そのまま俺は男に飛び掛かり、馬乗りの状態で我を忘れたかのように男の顔面を殴り続けた。


 最初は男も抵抗していたが、だんだんそれもなくなっていった。


 体力が尽きるまで殴ぐり続けた。


 気づいた頃には雨は止んでいた。


 女は俺の下の静かになったものを見て、無言で近づく。


 トンッ


 俺は赤信号の横断歩道の中にいた。


 右からはクラクションと急ブレーキの音。


 そこでやっと自分が人を殺したことと、自分が死ぬことに気づいた。


 そんな逝く間際に女について思い出した。


 中学の頃に隣のクラスだっただけの関わりは一切ない人間。


 俺にとってどうでもいいやつだった。


 最後の最期まで俺の人生は薄っぺらくてくだらないものだったな。


 トラックの光に照らさた数秒後、俺は真っ赤な赤信号と同じ色になった。


 皮肉にも人生で一番輝いていて注目された瞬間だった。

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