第8話 迷宮化地下水路
[魔物の活発化]...マップの雑魚モンスターのステータスが1.2倍化するイベント。経験値とお金、アイテムドロップ率が1.5倍になる。
毎日一定数のステージにランダムで発生するので序盤ステージで発生すると中級者以降にとってはどうでもいいイベントなのだ。
それに雑魚モンスターが対象のイベントなのでボスモンスターは対象外。レベルが上がって経験値がいっぱい必要なプレイヤーにとっては経験値の低い雑魚モンスターでは物足りないのでお世話になるのは基本序盤。
ありがたいのはせいぜいアイテムドロップぐらい。
[ 迷宮 ]...いわゆる魔物の巣窟やお宝眠る遺跡的なのを指すイベントステージ。このエリア内は確定で魔物が活発化状態で通常ステージでは入手できない様なアイテムをドロップ出来るのだ。
そしてこれら2種のステージの魔物からは〈魔結晶〉というアイテムをドロップ出来る。この魔結晶は様々なアイテムや武器を作成するのに使用する材料で、活発化がアイテムドロップだけが目的と言われる最大の理由だ。
また、町の様な魔物が現れない安全地帯では絶対にこれらは発生しない...それがゲームでの基本だった。
ーーーーーーーーーー
商談を終え、休憩していた時だ。
受付の事務員が慌ててこちらに現れ次の事を伝えた。
「水路の...地下水路の魔物が活発化し始めた!!!」
信じられなかった。
表にはそこまで出していなかったけど、とにかく驚いたんだ。
え、どれくらいだって?ピラミッドから宇宙怪獣が出て来たってニュースぐらい。
でもそれぐらいあり得ないし信じられなかった。
ゲームの世界観設定で活発化は、
・人の発する魔力と魔物が放つ魔力は異なる。魔物の魔力は特殊で、それが一定の場所に留まり続けると稀に魔物が凶暴化する、この現象を活発化という。だが活発化前の留まる魔物の魔力は安定性が非常に悪く、少しの風や人間が放った魔力が通るだけでも発生確率が大きく減る。なので基本発生するのは長い間誰も立ち入っていなかったエリアで起きるのだ。
地下水路は数え切れない程の浄化装置が設置されている。いくらライラさんが日常的に水も含め魔物の血で汚しては浄化の繰り返しとはいえ、発生する条件は満たしていないのだ。
聞いた話だとあの浄化装置は空気中にも効果があり魔物の魔力も溜まることは無い。
つまりこれは活発化ではない。
なら迷宮か?
でも既存のステージが迷宮に変更なんて話は知らない。
どう考えてもゲームには無い展開だ。
そう考えている中オーロラさんの口から知らない単語が出る。
「...迷宮化ね!」
え、何それ?
リンさんと受付さんは「まさか...いやあり得なくもない...!」って顔だ。本当に何それ?
説明を聞こうと思ったけど相当な緊急自体である事に変わりは無い。時間が無いので説明は戦いながらという事になった。
そして今に至る。
「エイトちゃんは迷宮については知っているかしら?」
「はい。」
「迷宮は主となる大きな魔力を持った存在がいるからこそ機能を維持する。迷宮化は似た原理、どこかの洞窟や遺跡等の空間をその大きな魔力で都合のいい環境へ変化...書き換えられる現象を迷宮化と言うの。」
要は迷宮レベルのボスモンスターがこの地下水路のどこかにいるって事か...。
「なるほど...教えてくれてありがとうございます。でもどうしましょうか、ひとまずギルドと騎士団が本格的に動くまでの間に僕らで魔物達を足止めするのはわかるのですが...。」
いくら人手がいても、僕の補給があってもある不安要素がある。
「アーッハッハッハッハァ!!!おら来いよぉ...そんなんじゃ(ザクッ!)、アタシの(ドゴォッ!!)、動きは止められないッッ!!!(ズガガガァッッ!!!)!!!」
「ライラさんを止めるのはどうするんですか?」
「無理ね。」
「無理だわ。」
「諦めるどころじゃなかった。」
「あーエイトさん、ライラちゃんは血を落とせば止まるけど、この魔物の量だと基本狩ってすぐ浴びるっす。ライラさんは少しの血でも、魚を解体するだけでもあーなりますので...。」
「えぇ...。」
着いてきた自警団の人が恐ろしい事教えてくれました。なので結局死神は止まりません。
「他の水路の様子はどう?」
「うーん...どうやらここ程数はいないらしいっすよ姐さん。」
「ふむ...であればこの道、この先に何かがあるのは間違いないわね。ちょうど中央区域に繋がる道だわ。」
「ん?その中央区域って何かあるのですか?」
「中央区域にはこの地下水路の浄化装置や水の流れ管理に水の組み上げ等、水路全体のシステムを支える場所なの。当然システムを動かすには魔力がいる、だから高純度な魔結晶を主な動力源として稼働しているのよ。」
「...もしかしてここの魔物が落とす魔結晶って。」
「親玉から分けられた魔力じゃなく、その動力源から奪われた魔力の結晶...ってところかしら。」
「だと思うよオーロラちゃん。迷宮化現象って内部構造も変わるから、今水路内構造が変わっていないのはその親玉はまだ魔力を我が物にしていない証拠よ。この魔物の数は時間稼ぎで間違いないわ!」
「よぉーし...だったらやる事は、みんな!!ラーちゃんの足引っ張るんじゃないわよ!!!!」
「おーーーーっ!!!!」
でもそれだとボスはどこから迷い込んだ?
まだわかりそうにないな...。
オーロラさんの掛け声が上がると皆の勢いが一気に増した。
僕は補給兼支援なのでエーデルやら魔法やらであれこれ支援。
ほーら何十針縫うかわからないような傷でもあら不思議、傷跡なく治しました!
え?暗くて自信がない?
これ灯りのエーデル、ついでにメンタルアップのエーデルもどうぞ。
冷える?まぁ日の光も当たらない地下水路だからね。
力を貸して、ルビー!魔法の暖房、これで暖かい。
ええ?お腹すいた?
はいカロリーブロック、ゲーム内携帯食料。
「ねぇぇっ!魔物!!もっといなぁい!!?」
「はい洗浄魔法。」
「へ...え...!?あ...。」
ね、完璧。
(ブシャッ!)
「アーッハッハッハッハ!!!」
「ああ...。」
このペースならライラさんやオーロラさんの様な強力な戦力を温存しつつ中央区域にまで行けそうだ。
でも待ち受けていたのは...。
ーーーーー
「...なんとか内部構造が変わる前にたどり着いたわね。」
中央区域へ繋がる扉。
この先にボスがいる。
「扉越しでも嫌な気配が肌に刺さる様に感じるわ。浄化装置の中心部とは思えない。」
「よし...インペリアルトパーズ、みんなを強化!」
「力が...!ありがとうエイトくん。じゃあ行くわよ!!」
「おー!!」
オーロラさんが勢いよく扉を開け、僕達は走る。
その廊下の先に広がっていたのは広い空間。
壁のあちこちにパイプというか水道管らしきものがあり、魔法がかけられているのか少し光っている。
周囲は綺麗な水が流れており、人工物でありながら美しさを感じる。
中央には大きな柱があり、僕たちから見て正面に青い宝石が組み込まれている。これが浄化装置の本体なのだろう。
「綺麗...この大きさでなんて純度だ、不純物が一切混じっていない。それにこの輝き見たことがある...もしかしてこれ、ディバイン・アクア?」
「ディバ...イン?」
「一部の宝石には2種類の最高位名が与えられます。プラス効果のディバイン、マイナス効果のサタン。そしてこれは浄化作用を持つクリア・アクアマリンの最高位エーデル。あまりに貴重で産出しても精々5カラットあるかないか。なのにこれは...何カラットだ?僕の身長くらいあるぞ...!?」
素晴らしい...もしこれがゲームで手に入ってたらどれだけ凄い事が出来るのか。
「...だからこそおかしい。神聖なる力を持つディバイン、それも浄化の宝石がある空間で魔物やダンジョンだなんて...、」
「危ない!!!」
「!?」
ライラさんが僕を抱いて飛び避ける。
何かが飛んできた、
「今のは...!?」
「...水よ、水が私達に向かって飛んできたわ!」
自分達が立っていた場所が削れている。
弾丸なんてものじゃない、今のに当たっていれば死んでいたかもしれない。
今の魔力はどこからだ?
「ね...ねぇ、宝石が!」
「!」
ディバイン・アクアが輝き始める。
すると周囲に流れる水が収束し始めたのだ!
収束した水は大きな球体となり、
「グルルル....!!!」
狼へと姿を変えたのだ。