第7話 鬼に金棒、死神に狂気と鎌を
「アッハハハハ!!!お前でぇ...最後オッ!!!」
「ギャゥッ!!?」
「ギギッ...!!!」
「あらぁ...まだいたの?」
「ギッ!?」
「死に...晒せ!!!」
「ギャゥーーーーーーッ!!!?」
「「「うわぁ...。」」」
地下水路 流れる水が 紅に
浄化装置 過労死寸前
小中学生レベルの俳句が脳内に流れるエイトです。
事は自警団員のライラさんへ適性のあるクリスタルを提供した時だ。
彼女のステータスや戦闘スタイルに合うクリスタルに心当たりがあり、一つの指輪を出す。
「こ...これは?」
「タンザナイトでございます。」
「たんざ...ないと?」
タンザナイトは青、または青紫色の宝石。
青みが強いほど価値が高く、角度を変えると紫や緑の色も見える夜空の様な色彩を持つ。
「はわ...はあぁ....!」
「凄い...少し見る角度を変えるだけで色が変わるわ!」
「深くも透き通るナイトブルーの空に月光の光、星々の煌めきを映したような色彩を持つ宝石でございます。それは日中であろうと輝く夜空の世界、私おすすめの宝石です。」
タンザナイトのクリスタルとしての効果は認識力。
・例え青い空、日中であろうと星々は君を見ている。
多分その認識力の恩恵がこの宝石にあります的なやつだろう。
効果は[DEX•AGI+8%]と[回避強化]。
ドロップクリスタルの中では高額かつドロップ率が低い。でも前世のゲームの中で当時は[STRと回避が主体のアタッカー]と[VITと盾強化のタンカー]というシンプルな構成が流行っていた。その影響で売れ行きが悪く在庫が余ってた。まだ3桁は持ってるんだよね...。
にしても器用性と敏捷性に回避率アップ。
加えて夜空、イベントクエストのメカメカしいゴーレムからドロップしたけど...さては開発者に某ロボットアニメのファンがいたな?これぞ新人類。燃え上がれ商い魂。
「こちらは既に魔法の指輪として加工されていますのでサイズの調整が可能です、デザインがお気に召しませんのでしたら新たにオーダーメイドでご用意致します。しかしその場合は追加で費用を頂く事になります。」
2カラットのタンザナイト、周囲にはダイヤモンド、土台はルナプラチナで夜の美しさを表す一品。
宝石の形は一応変えられるが今回は四角形、これに関してはゲームでは見た目が変わる程度であったが、デザインにこだわるプレイヤーは結構いる。多数のプレイヤーからのオーダーメイド依頼でよく稼いだな。
そう過去を思い返していた時だ。
「...欲しいです。」
「お?」
「...私、この指輪が欲しいです!」
それは曇りのない輝く目、目の前のこの指輪を純粋に欲する目。ゲームでは雰囲気でしか感じれなかったあの感覚。リアルで初めて感じるこの熱く燃える何か。
だがしかしここは冷静に。
「んんっお待ちください、お値段をまだ提示しておりません。失礼しました。」
「はっ、あ...すいません!」
「それでお値段なのですが...。」
あ、やばい。
こ の 世 界 で の 相 場 知 ら な い。
※まだ図書館にも行ってない、情報も無い。
「お値段は...?」
「そ...そうですね。産出量がそこそこ少ない事やこの純度と深みのある色、今の相場流れとしまして...。」
とりあえずごまかし台詞と過去ゲーム内でのドロップ率と加工にかかる材料工程含めた販売価格は...確か...、
「30G...でございます。」
日本円で30万円、ゲームで実際出してた額、さぁどうだ...!
「か、買います!」
「ありがとうございます!...あら?」
彼女が取り出したのはカード、なんだこれ?
「あの...このカードはなんでございましょうか?」
「あらエイトちゃん知らないの?これはペイカードって言ってね、国立銀行に預けられている貨幣をその場に召喚、またはペイカードを持つ人の口座へ振り込める魔法アイテムなの。」
それってほぼクレジットカードじゃん!?
「でもこれ持つのには審査を受けないといけないの。」
そこもほぼ一緒だ!?
そう言うわけでカードを持っていない僕は現金30Gを受け取ることにした。まぁ僕はアイテムボックスあるから...でも今後商談で使うだろうから持っておこうかな。あーでも銀行口座を先に作らなきゃな...。
それに前世はクレジットカード自体は持ってなかったから審査の内容がどんなものなのかも知らないんだよねぇ...はぁ。
「わぁ...わぁぁ...!!」
ライラは左手中指に指輪を早速はめ、日の光に当てながらその輝きにうっとりとしている。
喜んでもらえて何より、商人冥利に尽きる。
異世界に転生して1日目、初めての商売は嬉しいものでした。
ーーーーー
...とまぁ、これが彼女がクリスタルを手にしてパワーアップした流れである。
彼女はその後飛んでいくように地下水路へ向かっていった。それを見た自警団の人達は(ああ、また血祭りか。)って顔をしていた。
その後僕は食堂に案内され、紅茶で一息。
商売を終えた僕にオーロラさんは、
「エイトちゃんありがとうね!(素の)ラーちゃんがあんなに喜ぶ姿は初めて見たわ!」
「えっ、そうなんですか?」
「ラーちゃん、あの難しい性格のせいで昔から友達が少なくてね、それで人付き合いが苦手なの。親友と呼べる人がいないからか、何かをしたい何かが欲しいって欲が薄いの。その末に行き着いたのが魔物討伐。時間があればひたすら魔物の討伐、冒険者ギルドにも登録しているから色んな地域で昼夜関係なく魔物を蹂躙。現15歳にして実力はプロの冒険者以上、ついた二つ名は[鮮血蹂躙]よ。」
「うひゃぁ...。」
間違ってはいない。
でもオーロラさん達の様子を見る限りその事で結構悩んでいたようだ。わからなくもない、誰だって同年代の友人がいた方が話せる事は多いし日常を過ごすに気が楽になる。
さっき通りかかった修練所も大人ばかり、彼女と同年代や年下の人はいなかった。
「...ねぇエイト君、エイト君はこの町にどれくらい滞在するの?」
「特に決めておりません。私はある方の依頼でこの町に訪れたばかりなので。」
「ならさ、しばらくこの町にいてくれない!?」
「え!?別に構いませんが...?」
リンちゃんって呼ばれてたこのお姉さんから突然の提案。
「エイト君いくつだっけ?」
「いくつって...。」
確かこのアバターの身長が140cm、病院のポスターで各年齢の平均身長が書かれているのを見たことがある、それが平均の年齢って確か...えーと...。
男子が10歳で139cm...だとしたら今は10歳から11歳の間!
「10です。」
「へぇー、年齢の割にはかなり落ち着いてるし賢い感じだけど身長通りの年齢だったのね。」
実年齢は25だけどねっ。
「ですが...あ、もしかしてライラさんの事で?」
「そう。5歳差はあるけどあの子と年齢が近いし貴方なら成長させてあげられるかなってね?」
「なーるほど、確かに今受けている依頼以外で予定は何もないので時間があれば可能な限り...にはなりそうですが。」
「十分よ。ありがとう、エイト君。」
...気づけば外は夕方、
時間って早く経つものなんだな、入院生活してた頃はあんまり実感しなかった。
「そろそろ図書館に向かいます。私はこれで。」
「あらやだ、もう夕方!長い時間引き留めちゃったわ...ごめんなさいねエイトちゃん。」
「いえいえ。」
「今日は本当にありがとう、じゃあ...、」
「大変よ!!!」
「!?」
受付のアクロが慌てた様子で現れた。
何かあったのだろう。
「どうしたのアクロん!?そんな慌てて!」
「水路の...地下水路の魔物が活発化し始めた!!!」
「!?」
活発化だって!?
あれは近隣に人の生活圏がないステージの魔物に起こるはずだろ!?なんでこの町の地下水路で...?
「なんでよ!?こんな大きな町の地下で起きているなんて普通あり得ないわ!?」
「ライラさんから緊急連絡が届きました、地下水路の魔物の戦闘力が上がって、魔物からは魔結晶がドロップしたって!」
「なっ!?魔結晶は活発化した魔物からしか落ちないはず...本当にこの町のすぐ下で!?」
「いや...待ってください、魔結晶を落とす例はもう一つあります。」
「もう一つ...あ!」
「...迷宮化ね!」
「え、何それ?」
ダンジョン化?そんなのゲームに無かった。
活発化と迷宮自体はあったけども。
でも確かに迷宮も活発化も魔結晶ってアイテムは落としてたし...。
「まずいわ、地上に上がってくる前に!」
「僕も行きます!これでも戦えます!」
「だったら着いて来てちょうだい!判断は戦ってから、自警団は腕前よ!!」
「はい!」
「アクロん、公爵様やギルド、騎士団に連絡を!」
「もうしたわ!」
「オッケイ、じゃあ行くわよ!!」
ーーーーーーーーーー
「まだまだ...いるぅ!!!」
「ギャゥーーッ!?」
「あー...。」
血まみれの死神が暴れてる。
合流したのはいいけど7割くらい彼女が倒してる。
僕は今の時点では後方支援。
怪我をしていた人を治療したり前衛支援したり。
そしてライラさんを定期的に洗浄。
なお水路の水は強力な浄化エーデルを使ったので安心だ。
「アーッハッハッハッハ!!!」
...多分。