第4話 町を知りたい
「お姉様、ご無事でしたか!?」
「無事かミリー!」
「大丈夫ですわティナ、お父様。」
「ああ、無事で良かったわ!」
「お母様も泣かないで、本当に脆いんだから。」
エイトに助けられ、無事屋敷へたどり着いたミリー嬢達。彼女の無事を知った家族...ハリス公爵達はとても安心している。
「ナーシャも無事で良かった。町の近辺で盗賊に襲われたと言う情報を聞いて焦ったぞ。なんでも、助けがあったらしいが...。」
「はい。ですが色々ございましたので、まずはミリーお嬢様を休ませるのがよろしいかと...。」
「ああ、すまない。ミリー、今は休むといい。」
流石に疲れたミリーは一度自室で休む事にした。
ーーーーー
宝石商のエイトです。
現在僕はさっき出会った公爵令嬢ミリーの妹さんの
ために宝石細工を制作する事に。
制作するにあたって、
必要な資料は明日までに渡される予定です。
それまではこの町や国について調べようと思います。
知識は商いの基礎だ、シンプルだけど図書館を探そう。
そう言うわけで宿屋...というよりホテルを出た僕は町で色々聞いてみる事にした。
さて誰に話しかけてみようか...あのお姉さんに聞こう。
「すみませんそこのお姉さん。」
「あら、何かしら可愛らしい“お嬢ちゃん”。」
「“男”です。」
「えっ!?」
まぁ、そこは仕方ないか。
「僕は最近この辺りに来たばかりで、あまり町の事がわからないのです。それで図書館を探しているのですがどこにありますか?」
「図書館ね、それならこの町の西に大きな建物があるでしょ?あそこが図書館よ。」
「え!?」
ホテルから見えてはいたけど、かなり大きな建物があるから何かと思ったら図書館だったのか!
ほぇー、いいじゃん!
「この国で3番目に大きい図書館なのよ、あそこならボクの知りたい事が必ずあると思うわ。」
「ありがとうございます!お礼と言っては難ですが...。」
お礼にお姉さんにチップを渡した。
令嬢と馬車に乗っている際に知ったが、この国の通貨はゲームと同じで[ G ]。
ただ違うのはこれ以下の単位があった。
G...1万円。
S...1千円。
C...100円。
ゲームデータを引き継いでいるので、
現在僕の所持金は[132,000,000G]。
ゲームでは1G=1円感覚だったから、
132000000×10000...一兆超えたね、うん。
金額チート状態ひゃっはー。
普通に暮らせば当分どころか数十年、いやほぼ一生お金に困らないだろうね。
引き継ぎっていいね!
まぁ宝石細工に多少惜しみなく使えると考えておく。
そういう訳で妥当かわからないけど1Gお姉さんにお礼であげた。
「まぁ、ボク。こんなに払ってもいいの?」
「ええ、こう見えて僕は...、」
「あーらヤダ可愛い男の子ねぇ!」
「え?」
「あ、オーロラちゃん!」
後ろから現れたのは...マッチョのオカマ。
両腕の赤い宝石の着いた腕輪とスキンヘッドがキラリと光っている。
ってか後姿で僕が男と気づいた?怖っ。
「この子、この辺りに来たばかりらしくてね。図書館の場所を教えていたの。」
「そうなの?ボク勉強熱心ねぇ〜!」
「あはは...どうも....お!?」
「わっ、どうしたの!?」
僕は驚いた。
このオカマさんの腕の赤い宝石なのだが...、
「凄い...これ[ 煌紅晶 ]!」
「...!」
「こっちは[ 深紅晶 ]...お...姉さん凄いよ!こんな貴重な宝石を持ってるなんて!」
「はわ...なんてこと...!?」
え?
ガシッ
「素晴らしいわぁっ!!!」
「え?え?」
「ボク、これに気づくなんて凄いわ!大抵の奴らはこれの違いに気づかずただの赤い宝石だの普通のルビーとしか見ないのよ!?ふざけてるの!?」
涙を流して喜ぶオカマ。
あー...確かにこの2つはルビーではあるけど色の違いに気づくには苦労する。
一見全く一緒に見えるが煌紅晶の方が若干明るく、月の光に当てると綺麗に煌めくのだ。
僕はこの辺しっかり観察してるからすぐに気づけた。
「凄いわね、オーロラちゃんの腕輪の宝石の違いに気づくなんて。ボク、何者?」
「ああ失礼しました。僕は宝石商のエイトです。」
「「宝石商?」」
「こんな見た目だけど宝石を扱う商人です。なので目には自信があるのです。」
「宝石商...ねぇエイト君、時間あるかしら?」
「へ?まぁ、今のところ図書館行く以外は特に予定はありませんので。」
「ならウチに寄って行かない?アタイ達はこの町で自警団をやってる人間なの。」
「自警団?こんな大きな町なら“ギルド”や兵士達で守りは出来ていると思ってたけど....ああ、もしかして町の規模が大きいから役割分担が出来てるの?」
「正解!」
ギルド...いわゆる冒険者、ハンターが集う組織。
主な役割りは魔物討伐や遠征任務など文字通りの冒険。
自警団...町の守り手。本来はギルドや兵士を雇えない町で一般市民が集う組織。大抵は町内、周辺のパトロールなどが任務。
兵士...彼らは公務員的立場なので上記2種程自由な行動は出来ないが、装備の充実度や基本的な実力の信頼性は高い。
この町の様に規模が大きいからこそ役割り分担をして強固な守りを築く体制がゲーム内でもあったのだ。
さっきの狼が無理に侵入しようとしなかった理由の1つかな?いや...それならまず近づかない...何か引っ掛かる。
「えーと、オーロラさんがクリスタルを使ってるって事は他の自警団の方も?」
「ええそうよ。私達はハリス公爵様から支援を受けているから少しは資金に余裕があるの。丁度クリスタルを紹介したい子もいるから良かったら今から来てくれないかしら?」
「うーん...面白そうなのでぜひお願いします!」
「決まりね!」
ガシッ
「え?」
「じゃあ行くわよーーーー!!!」
「うわぁぁぁーーーーー!?」
担ぎあげられ僕はオカマとお姉さんに自警団の本部に連れていか....連れて行ってもらった。
ーーーーー
「...ふむ、宝石商エイトと名乗る少年がお前を助けた、それでその少年にティナへのネックレス制作の依頼をした...か。」
「今から制作が難しくとも、その者は様々な宝石細工を所持しております。その中から選ぶ手もございます。」
「ナーシャが大千里眼を使った上で信用しているなら大丈夫だと思いますわ。」
「そう...面白い子ね。私も会ってみたいわ。」
夜、ミリー嬢とナーシャは道中やエイトの事について皆に話した。
ナーシャはこのハリス公爵家において高い信頼を持つ、二人の言った事に公爵達は驚くも納得していた。
「私もエイト殿に提供する資料を集めるのに協力しよう。」
「旦那様...!」
「私も協力するわ、ティナの為だもの。アクセサリーの知識なら任せなさい、伊達に小さい頃から他の令嬢の着飾りを見てきた訳じゃないわ。」
「奥様...ありがとうございます!」
「待っていろティナ、1ヶ月後は素晴らしい誕生日を迎えられるぞ。」
「はい!楽しみに待っていますわ!」
妹が喜ぶ姿にミリーは安心する。
「私は先に寝ますわ、おやすみなさい。」
「おやすみ、ティナ。」
ティナが部屋を出た後、皆は少し重い空気を漂わせる。
「ナーシャ、エイト様を明日の昼にこの屋敷に招いてくださるかしら。」
「かしこまりました、お嬢様。」
「一時はどうなるかと思ったが...良かった。まさか“属国派閥”がこのような形で動き出すとは。」
「公爵家の者の誕生日式典に不手際は許されるものではありません。そしてティナは12歳...肉体が[クリスタル]を扱う事の出来る歳となります。貴族の誕生日式典に於いて12歳となる者が着けるクリスタルは、その者の未来と栄光を示します。」
「ああ。もし合わぬ代用品や用意出来ないとなれば品位が落ちるどころかティナの未来が消えるも同然だ。」
「今この状況でエイト様と出会えましたのはまさに奇跡です。準備にぬかりなく、私の可愛い妹ティナのために!」
ミリー達は夜遅い時間であるにも関わらず、エイトに提供する資料のために行動するのであった。