第36話 ブルーム調査
「...という事がありまして。」
『こっわ。』
ローザからの一言目がシンプルに酷い。
『あの大鎌の少女が多重術師にか。エイト、余程の才能なのだな。』
「ええ、長くても1〜2年あればおそらくアリスさんやイースさんを超えるでしょうね。」
『すっごいな。』
本当に磨きがいのある子だとしみじみ思う。
ゲームでならPVPのトップランカーになっててもおかしくないんじゃないか?
もし、あの子がプレイヤーだったら弟と妹ともフレンドになって4人で遊んでいたんじゃないかな。
...出会いって未知数だな。
ランチのレモンジュースを飲みきり、お金は先払いだったので僕らは席を立ち、街の散策を再開する。
エクアは満足気な顔だ。人間の食事を余程堪能出来たらしい。
ローザはフワフワとした雰囲気ながらも元気いっぱいである。
『そう言えば、ローザについて何かわかったか?』
「いいえ、ですが奇妙な情報が手に入りました。」
『?』
それはライラさんが暴走いでいた時に聞いた話だ。
「ポーラさん達から聞いたのですが、1ヶ月前から少し街の雰囲気が変わったそうです。」
『雰囲気?』
「なんかこう...落ち込む様な感じらしいです。僅かではあるそうですが季節的なものではないと考えているそうです。」
『ふむ...地元民がいうのなら何か繋がりがあるかもしれない。まずはその辺りを調べてみよう。』
『さぁんせーい。』
僕らはブルームに来たばかり。
目で見える物で異変はわからない、ならば調査の基本“聞き込み大作戦”で行こう。
誰か聞けそう...な、あの兵士さんに聞いてみるか。
「変わったところ?そうだな...ポーラさんの言う通りなんかちょっと落ち着きすぎるって言うかな...どんより感や退屈さとまではいかないけど、そんな感じはするな。」
近くにいたおばさんは、
「やっぱりぃ?そうよねー、なんかちょっとだけ重いっていうの?気にしなければだけどずっと続くなら嫌になっちゃうわー。」
ふむ...意外と他の人達も感じるには感じているのか。まだ地味な変化ではある様だが放っておける話じゃないかも。
「エクア様、なんかこう...一定範囲にそう言った落ち込みを作る現象ってなにか...って難しいか。」
『一定範囲...ブルーム...いや、そうか...ありえる。というかこれが答えかも。』
「え?」
『ディバイン・ローズの地脈エネルギーだ。』
エクアから飛び出した謎の言葉。
ごめん、わからないかも。
『ごめん、わからないかも...って顔だな。簡単に言えば私にとって湖と同じだ。』
「心読んだ??」
『...自身の本体、宝石が持つ主な力と関連する物にエネルギーを宿す。私ならば湖の水がその場合だ。そしてディバイン・ローズは...土だ。』
「えーとつまり?」
『この街の土壌、地面に伝わるディバイン・ローズの力が落ちた...そんなところだと思う。』
エクアは地面を触る。
『...やっぱり、花がやたら綺麗に咲くのはディバイン・ローズが土に力を与えていたからだ。その花が咲き、その土地に生き、力が満ちていたからこそブルームは花の都たる魅力が存在している...と思う。』
それは大精霊、似た立場と目線であるからこそすぐに出せた答え。
それが意味するのは、
『ふぁぁ...それってぇ、ウチ結構危ない状況ぉ?』
『あまり悠長にはしていられない。...必ずエネルギーの発生源、中心部があるはずだ。エイト、手伝って。』
「分かりました!」
アイオライト、アパタイト。
「求める道を繋げ、僕に示せ。」
頭の中に少しずつ、ローザと似た雰囲気?の何かが広がっていく。それは植物の根の様な形となり中心部へと道を示していく。
見えていく、こっちの方向に...、
バチンッ!!
「...!?」
『ん、どうしたぉ?』
「...今何かに干渉された、いや妨害されようとした?」
『確かにそんな感触があった。すまない、私は弾かれた。』
弾こうとする感覚、根本を暴かせない意思。
でもレベルは僕の方は高いから効かなかった様だ。
引き続き...、
「キャーーッ!!」
「え?」
突然響く悲鳴。
一つの方向に視線を当てる。
「魔物が現れたぞ!!」
「え!?」
突然の事態。
平和に見える街が一瞬でパニックに染まる。
現れたのはコモドドラゴンをそのまま大きくした様な7m級のトカゲ。
「キシャーーーッッ!!」
『随分と大きなトカゲだ。気をつけろ、奴の牙と爪には毒がある。』
「そりゃ不味すぎる!」
Jewel of VIII、起動...、
「「せいっ!!」」
「!?」
一瞬だった。
大トカゲの首が落とされた。
2本の刃が首を斬り落とした。
交差する白銀の美しい刃の煌めきが血に濡れる。
「こりゃ可愛いのが街に入り込んだねぇ。」
「怪我人はいない様で良かった。」
「アリスさん、イースさん!」
「お、エイトー!」
ーーーーー
「はーん、妨害ねぇ。そりゃ気になるねぇ。」
「さっきの騒ぎで探知中断しちゃったのでディバイン・ローズの場所はわかりませんでした。もう一度...、」
「いや、やめておきましょう。」
二人と合流し、経緯を話す。
そして先ほどのトカゲ騒ぎで中断した探知を再開しようとした時だ。
イースに止められたのだ。
「推測なのですが、先程のアシッドリザードはエイト君を妨害する為に連れてこられた...と考えてます。」
「なんだって?」
「どういう事だいイース。」
「エイト君、この街へ向かう最中に魔力エネルギー状の謎の存在に急襲されたと言っていましたね、その手の存在は魔力や魔法自体に干渉しやすい。他人の魔法に物理に近い感覚で触れることが出来ると言ってもいい、例えば目に見えない精神干渉魔法を視覚し痕跡を辿り物理的に断つ事が可能です。探知も同じく...。」
「なるほどねぇ、とするとアシッドリザードは急ぎで近辺にいたのを追い込んだといったところかい?一定範囲なら街の外でも何か出来るってならそんなところだろ?」
「とすると同じ事すれば何かしらの方法で妨害は確実、最悪さっき以上の被害が出る...。」
相当厄介である。
相手は何がなんでもディバイン・ローズの場所を悟らせず、手を出そうものならあの手この手で邪魔をする。
見えたディバイン・ローズの地脈もまだ大まかな方向しかわからなかった。全力でやれば良かったなど考えてももう意味はないが。
しかし、これはある意味人質である。強行しようなら何処かで誰かが最悪死にかねない。レベル300カンストかつ激レア高スペックの職業も全能ではないのだ、把握しきれてない部分をどうにかは出来ない。
これは...、
「一度別のアプローチを取りましょう。」
「あぷろ...なんだって?」
「直接探知はやめて、別の考えを元にディバイン・ローズに近づきましょう。手がかりはまだあるはずです。」
「まぁそうよねぇ。うっし、何処かいいところはないかい?」
「もう一度自警団に向かいます。ライラさんは...えーとまだ...うん、そこにいるので。」
「なんか躊躇いあるな。」
「多分もう大丈夫と思うので、一度自警団の皆さんと合流して作戦会議といきましょう。」
答えは決まり、僕達は再び自警団の元へ向かう...時だった。
「失礼します、旅のお方。」
「?」
後ろから聞こえた声。
振り返ると執事の様な、いや執務官?
なんかそんな感じの若い男がいたのだ。
「初めてまして、ワタクシはリュアールと申します。ブルーム都市長補佐を務めております。」
イースとアリスの空気が変わる、当然エイトもだ。
何かを警戒したか、エクアとローザはエイトが持つ各々の宝石へ身を隠した。
第一印象以前に、足音も気配も無く現れた。
ゼロではない、だがあまりに小さいのは違いない。
魔物騒ぎでパニックになった住民の気配に紛れて現れたと言ったところだろうと考えるが...。
「...俺はイースだ。陛下より帝国上位騎士セイバーの称号を預かっている者だ。」
「お初にお目にかかりますイース様。」
「それで、何の用だ?」
「身構えなくても結構ですよ、お話があるのは...そこにいる少年...ってあれ?あれ、少女?」
「...僕は男です。僕に何かご用でしょうか?」
「え?あ...はい、そうでございます。」
...僕は砕くと2秒間だけ相手の認識と意識をぼかすエーデル鉱石、[ユメウツツ]をリュアールに使う。
(エイトが使うと3秒間まで伸びる。)
一瞬でもいい、イースさんとスキル[思考加速]で念話が出来る時間があれば。
「...ッ!...?」
「あの、大丈夫ですか?フラついてますが...。」
「へ?あ、これは失礼しました。」
リュアールは一瞬何が起きたか理解出来なかった。
きっと立ちくらみでも起こしたのだと解釈した。
少々取り乱すも、整え会話を再開する。
「僕はエイト、旅の商人でございますが。」
「はい、ワタクシは都市長ベルギア様よりエイト様をお連れするよう命じられ参りました。」
「僕を?この町に来たのは初めてなのですが。」
「ヴァサールでのお噂、こちらにも届いておりまして。」
「ああ、そうでしたか。しかし僕だけなのですか?」
「はい。」
エイトは振り返り、皆に目を合わせる。
イースとアリスは小さく頷いた。
「...少々お待ちください。」
エイトはイースの手に“あるモノ”を渡した。
「では行ってまいります。」
「ああ、気をつけていってくるんだ。」
ーーーーーーーーーー
「...エイトは何を渡してきた?」
「エクア様とローザ様の分体...だな。」
その手にはディバイン・アクアとディバイン・ローズ。何かあれば二人の元に顕現出来る。
それが意味するのは二人には既に想像が付いている。
「都市庁舎に何かある。」




