第31.5話 誰も届かぬ領域
ティナ嬢の誕生日会を終えた夜の事、
エイトが街を眺めていた頃のお話。
エイトとは別のスイートにて、二人は話す。
「...そう言うわけだ、ウチの女帝は王国と戦う気は最初からないよ。今回を機に手を取り合えるのを頑張っているところさ。」
「そうか、はぁー良かった。アイツ昔と変わったんじゃないかと思ってたが杞憂だったわ。」
「メーリィはアンタが昔の様に気を抜き過ぎていないか心配してたぞ、幼馴染だからってお前ら仲良いな。」
アリスの前に座るのは国王である。
二人は古い知り合いで一応年齢はアリスさんの方が上である。
「ノーブル・アンツに頭を悩ませていたのはウチも一緒だったんだ。お陰で隠居の身なのに私が出張る羽目になったよ。まぁ久しぶりに可愛い孫の顔を拝めたのには感謝だねぇ。」
「お、イース君も来ているのか。」
「ああそうだ、向こうの部屋でエイトと一緒にいるよ。後で顔合わせときな、とても立派になってるよ。」
「彼は今確かセイバーだったか?帝国騎士団高位の...。」
「いんや、セイバーだけどそれは表向きだな。近い内に正式な発表がある。」
「...もしや。」
「女帝の刃にして盾。」
「近衛騎士になったのか!?」
「そー、女帝がたった5人にのみ与える騎士最高位の称号、アイツのは確か...なんだっけ。5人個別で違う名前の称号だった気がするけどイースのは長いんだよ...えーと?」
「エルピス・クスィーフォスですよ。」
「イース!」
「久しぶり、おっちゃん。ああ、国王様って呼んだ方がいいですか。」
イースが二人のいる部屋に入ってきた。
イースも国王とは小さい頃からの付き合い。
彼がどんな性格をしているかを知っているので、そもそもプライベートの場でそれほど丁寧な喋り方をするつもりはない。
「構わんよ、別に今公務してるわけじゃないし。それは置いといて、久しぶりだイース。随分大きくなったじゃないか。」
「会う度に親戚みたいな事言ってきますね、最後にあったのは5年以上前だけど俺も24歳ですよ、デカくなって当然だ。」
「はっはっは、歳を取るとどうも時の流れが早く感じるわ。」
「アンタまだ還暦なったばかりだろ、ボケるにゃ早すぎるわ。」
アリスに軽く頭引っ叩かれる国王。
「イテテ...今更だが、一つ聞きたいことがある。」
「ん?」
「かの宝石商、エイトという子は...“そうなのか”?」
国王の一言を聞いたアリスとイースの顔は真剣な表情に変わる。
「...ここに書いてあるのはハリス坊の従者のナーシャが観たものだ。」
「どれどれ....そうか、そうだったか。」
「転生者。実例自体はあまり知られていませんが存在する。そして彼はこことは異なる世界からのです。」
「“3人目”だよ、異世界からの来訪者は。我らヒト族の中では初だがね。」
「例の2人の動向はどうなってます?」
「不明だ、各地の闘技場の覇者として君臨しては行方不明の繰り返しだ。」
「...もしその2人に出会して、戦えばどうなる?」
「お前ら2人がかりでも勝てる可能性はない。」
「エイトならもしかすればだな...。」
「?」
「前に見たのだよ、エイトがホワイトパールを使う姿をね。」
「なんだと!?」
「婆ちゃん、それどういう!?」
「サナトゥス相手に使ったのさ、イース。」
「なっ....確かサナトゥスのレベルは74。」
「そしてホワイトパールは使用した相手のレベルが自身の4分の1未満であれば一度だけ行動を停止させる。未満だから...そうだな、仮に1つ繰り上げて75×4だ。」
「300...!?ばかな、それはもはや....!」
「おっと声がでかいよ馬鹿。ひとまずエイトの事は今後も調査だねぇ、あたしらはエイトと帝国に行くからその時に色々見とくよ。」
「頼む。」
ーーーーー
宿の屋上、夜のそよ風が二人に吹き抜ける。
「レベル300...か、本当に存在したのか。」
イース...レベル115。
アリス...レベル130。
両者はこの世界でも屈指の実力者。
そんな2人ですら見えなかった領域が、
2人の側に今はいる。
「あくまで推測だがな。それでも気の遠くなる様な努力をしてもこの世界で誰も辿り着く事が出来なかった領域にあの子はいる。」
「おそらく例の2人もその可能性がある。いずれエイトの前に現れるだろう。」
「そうなる時はどうなるか...はて。」
「今は考えても仕方ないか、今は今。帝国戻ってやる事もあるから今のうちに休むぞ、婆ちゃん。」
「老体酷使とは酷い孫じゃのぅ。」
「あんたまだ若いだろ、体。」
「へぇ〜、一緒に寝るかい?」
「やめろ。」
イースはアリスにチョップをかました。