第29話 ある令嬢の誕生会を遠目に
「...はぁ...はぁ...ここまで来れば!」
息を切らし、街の裏路地まで逃げたセンア。
もはやティナ嬢など捨て、自身の身を優先した。
「なんなんだ、なんなんだよあのガキは...!?聞いていないぞあの強さは!他の奴らはどうした....そうだサナトゥスとエルムは!!」
何かの魔道具を取り出す、どうやら携帯電話的なものらしい。
「おいお前ら!今どこにいる、宝石商エイトと接触した事はあるか!?」
〈..あ...る...。〉
〈あり...ます...。〉
「なぜ報告しない!?お前らは何をしていたのだ!?計画が台無しじゃあないか!!」
〈...。〉
「くそっ、役に立たない奴らが!...今は街の外まで逃げるしかない。」
コツ、コツ...、
「!...誰だ?」
裏路地の暗闇から一人の青年が現れた。
知っている奴だった。
「...お前は!?」
「初めまして、王国第二兵団団長のセンア。」
「!!...帝国騎士か、その格好は。この街に侵入とはいい度胸...、」
「ああその姿では違いましたね、“スファレ騎士団長”。」
「...!!??」
現れたのはイース。
4カードではあるが彼には騎士団の象徴として表仕事しかさせず、自分達の様な裏の事は隠していた。
だから今回の計画に彼はいない。
それ故にこの街にはいない筈なのだ。
だがイースは今なんと言った、その姿?
「...あ...魔道具が...!??」
「認識阻害魔法の一つである”偽装”を使える魔道具。それを使い一般兵士だった”本物のセンア”と入れ替わりこの王国で活動していた事くらいは知っています。」
どうやらエイトとの戦いで故障した様だ。
「な...なぜお前が...その事を!!」
「“別の部隊”に所属しているだけです。セイバーの称号を得た時点で秘密裏にスカウトされていました。」
「裏切ったのか...!!!」
「4カードの理念は帝国の剣である事、そして帝国を頂点とする刃であり続ける事。しかし気づけば戦争もしていない国に刃を向け、ノーブル・アンツという虫を蔓延らせ、平気で罪のない人々の命を利用してでも力を得る...俺はそんな腐った組織に座した記憶はない。」
「....!!!」
「でも腐敗した騎士団上層部を引きずり下ろしたのは紛れもなくアンタがいたからこそ出来たんだ。俺も女王様も感謝していたさ...、そこから真っ当な騎士であり続けられれば。」
「真っ当だと...?そんな生温い湯に浸かった様な考えで帝国が頂点であり続けられると思うか!?」
「何?」
「いいか、平和だの対話だの全ては力があってこそだ!!力こそが全て、力ある下に平和は存在する!力が無ければ何も出来んのだ!!!」
「それはわかるよ、だがな。その対話出来る相手をわざわざ潰してまで帝国を繁栄させたいのか?必要の無い犠牲として関係ない一般市民を殺しても許されると思うか?」
「黙れ!!帝国は力、力こそが全て。帝国こそが世界の芯、そして我らは最強の剣であればならんのだあーーーー!!!」
「...スファレ隊長...。」
イースはスファレに近づこうとした時だ。
「スタンピード!!!」
「...!!?」
スファレの手元が光るのを見た。
洗脳のネックレスを持っていた。
そして自分をスタンピードで暴走化させたのだ。
「うぐ....ぐごああああ!!!!」
「...はぁ。」
「手を貸そうかい?下手に暴れられると厄介だ。」
「大丈夫さ祖母ちゃん。...一撃で十分だ。」
「ぐぎぎ....うがああああああ!!!」
「最初から胡散臭い奴だったけど、少なくとも最初からお前はそんな奴じゃなかった。エルムもサナトゥスも...何がアンタ達をそこまで変えたんだ。俺にはわからない、わからないからこれから知ろうと思う。だから...もし次会った時は隊長や先輩達ともっと色々話せられる自分でありたいと思います。だから...今は休んでください。」
イースはスファレを斬り伏せた。
ーーーーー
...1週間後。
国王の計らいでティナお嬢様の誕生日会は再開した。
屋敷の修理はまだ完全ではないので街の中央広場にて行われており、貴族だけでなく街の一般市民達が周囲で祝っている。
そこではなんとお嬢様の婚約発表が発表された。相手は帝国の貴族で同じ和平派閥という。
王国も帝国もこれをきっかけにより平和を目指したいのだろう、冷戦状態もそろそろ解消するといいな。
今回起きた事件は王国と帝国の関係悪化を狙った勢力によるものとして片付き、被害こそ受けたが特に怪我もしていなかったからか、帝国と戦争は避けたかったのか、貴族達は文句の一つも発さなかったのだ。
国王の手腕もあるのだろうが、それ以上に素晴らしい光景に皆が圧倒されていたから。
「...素晴らしい、なんという!」
「これまで見たどのクリスタルよりも美しい..。」
「あれを制作したのは一体何者なのだ...。」
ルナアメジストのネックレス。
この世界に来て最初の作品だ。
外、晴れた空の下である分ティナお嬢様とネックレスがより輝いて見えた。まぁ夜でも綺麗なんだけど。
「良かったなエイト、お前の作品ウケがいいらしい。」
「ありがとうございます、師匠。」
「とんだ1ヶ月ちょっとだったがお前の才能を鍛えれて良かったぜ。これからも努力しろ、お前の才能はまだまだこんなものじゃない筈だ。」
「はい!」
「ああそれと、あの方がお前に用があるらしい。」
「?」
「ご無事で良かったです、ミリーお嬢様。」
「私もエイト様がご無事で安心しました。...今度こそもうダメだと思ってしまいましたの、でもこうして今貴方の横に立っているのは夢ではないのはわかります。...皆んなが無事で良かった...!」
「はい。少なくともこの街にはちょっかいかける連中はなんとかなりましたのでもう大丈夫ですよ。今度お嬢様のおめかしを崩しにくる奴がいれば僕がぶっ飛ばしますよ!」
「ふふっ..!今回はありがとうございました、エイト様。本日はごゆっくりお楽しみくださいね。」
久しぶりに見た、ミリーお嬢様の心からの笑顔を。でも少し離れていよう、僕は貴族じゃないし変に目立ちたくはないから。
適当な場所でジュースを飲んでいたら。
「お...お疲れ様、エイト君。」
「ん、あ..ライラさん。」
「エイト君の言っていた通り、街の外にノーブル・アンツがいた。でもエイト君が強い人達倒しちゃったせいか重要任務なのにあまり強い人達はいなかったし数も大していなかったの。」
僕はセンアと戦う前に自警団へ行き、それまでの事を伝え警備を任せていた。街へ来るまでにノーブル・アンツの小隊を何個か潰してきたので数は案外少ないかも知れないと伝えていたが予想通りだった。
おそらく僕が戦った足止め達の本来の任務はセンアに何かあった時センア、そしてティナお嬢様を守る為だったのかも知れない。
イースさん曰く、ノーブル・アンツの実働部隊はこれでほぼ片付いたらしい。上が動くとかでおそらく再編される事も無く、信頼出来る部隊を動かすので後は向こうでなんとかするそうだ。
もう彼らの魔の手に心配する必要はないのだ。
「...でね、その...エイト君。」
「はい?」
「エイト君は...その...いつまでこの街にいるの?」
「!、そうですね...。」
うーむ...実のところ別の街にも興味が湧いてるんだよな。帝国なら中間地点までは行ってるし...うん、距離的には帝国領が一番近い。
普通ならあまり行くべきじゃないかもしれないがそれはあくまでお偉いさん辺りでの話。
ただの商人なら身元保証さえなんとかすればまぁ行けるでしょ。
首都とかヴァサール級のでかい街でもなきゃきっと多分うん大丈夫なはず。
でも...それ以上に気になる事もあるからね。
「そろそろ別の街...いや、帝国にでも行こうかなと考えています。」
「「「えっっ!?」」」
周囲から驚愕の声。
皆んな聞いていたんかい。
「...エイト君は商人だもんね。うん、きっと他の街でもうまくいきますよ。みんな応援します!」
「はい、ありがとうございます。出発は...そうですね、1週間後にしようと思います。」
「1週間後...わかりました!」
そう言ってライラは急ぎ足で去っていった。
急にどうしたのかと思ったがすぐ見失った。
「1週間...。」
「もういっちまいやすか...。」
「一人で大丈夫っすか...。」
...なんか後ろから聞こえるぞ。
「エイトちゃん。」
オーロラさんが来た。
「帝国に行くと言ったかしら。もし良ければだけどこれを。」
1枚の手紙を渡された。
「ヴァサールからは比較的近い所でブルームって言う街があるの。そこにアタイの妹が団長を務めてる自警団があるわ。この手紙を妹に渡してもらえないかしら。」
「ええ、大丈夫ですよ。」
「街に着いて自警団に行けばきっとわかるわ。でもどうせなら詳しい子が...。」
と言って去っていった。またか。
...まずい、貴族が僕に何やら興味を持ち始めている。僕の商いはそんな繁盛するタイプのじゃないの、いや違うか。解消しかけてるとはいえ冷戦中の国に行くのはまずいか、ここは...。
[ルビー、鬼眼晶、トパーズ・魔性の花火]
「おお!?」
「花火か!昼なのになんと美し...ありゃ?」
「あの少女が居なくなってるぞ!」
「やっぱりエイト様は女の子と間違えられてますね。」
そんな感じで僕はティナお嬢様を遠目に適当なタイミングで宿に戻った。




