第17話 街戻りて、既に遅く?
ハリス公爵屋敷にて...。
ドアからノック音が鳴る。
「失礼します。」
「待っていたよ、久しぶりだ団長殿。」
「お久しぶりです、ミハイル公爵。」
部屋に入って来たのは銀色の長髪の男。
彼の名はセンア。
この街ヴァサールに所属する第二兵団の団長だ。
「用件は先に伝えた通りだ...ノーブル・アンツの襲撃に遭った。大精霊様が手を貸してくださらなければ今頃我々は奴らの傀儡となっていただろう。」
「はい、我々も近隣の街を含め警備や巡回、捜査を強化しておりますが...流石は裏組織といったところでしょうか。」
「手がかりは見せてくれんか...。」
「奴らの仲間の確保は過去何度かありますがいずれも今回の件とほぼ同じで毒による自害で何も得られていません。面倒な事に奴らは毒耐性を下げるエーデルを所持しているためか、こちらが魔法で毒耐性を上げ自害を防ぐという方法も通じないのです。加えて毒の隠し場所がバラバラで急な対処も難しいのが現状です。」
「そうまでして国の為に動く...立派な愛国心だが傍迷惑なんてものじゃない。真に国を思うのなら己のいない世界を考えない、己も国の財産である事をなぜ認識しない?」
「...全くです。」
センアは資料を出す。
「これが現在ノーブル・アンツが確認された場所と行動です。」
「...街の外壁、地下水路の入り口各所、図書館...その他含めどれもこの街によって重要な場所だ、下見としてはまぁ当然の場所とも見れる。」
「現時点で大きく手を出してきたのは公爵家襲撃と地下水路迷宮化のが2件のみ。他はその重要な場所への不法侵入など小規模な物ばかりです。おそらく末端を捨て駒にして情報を経て...。」
「この大きな2件を起こした...やってくれる。」
「ティナお嬢様の誕生日までには王都から増援も到着します、それまでは我々で対処する他ありません...無力で申し訳ない。」
「いいや、君はよく頑張っているよ。頭を下げないでほしい。...それに君も知っているはずだ、ティナの誕生日に行う事を。」
「はい...絶対に失敗しません。我々が必ず守りぬいてみせます!」
(...彼はとても優秀かつ誰かの為に動こうとする正義感の持ち主だ。だがそんな彼を相手にここまで動くノーブル・アンツ...一体どうやって行動している?彼の実力は私が知っている、だがまるで動きを見られているようではないか!懸念はしていたがやはり...。)
「センア、警備網の資料をもう一度見させてくれ。」
「はい。」
「...どう思う、この警備体制を潜り抜ける方法があるとすれば?」
「巡回兵、警備兵、守護兵他多数に最低1種は探知魔法に長けている者がいます。見つからずはまず無理でしょう。しかしそうですね...、」
センアは地図の一部に指をさす。
「例えばこう、この場所は警備が厚いですがこの現場指揮をとる者が洗脳を受けてしまえば...。」
「崩れるのか。その者に耐性は?」
「勿論持っています。しかし持っているが故に知る者からは信用され、何らかに方法で洗脳を受けてしまえば。」
「信じて疑わぬ...抜け穴の出来上がりか。」
「洗脳を使う者が例の男だけとは限りません。しかし我々も何も出来ない訳ではありません、この際もう一度見直しましょう。」
「ああ。」
するとドアから再びノック音。
「旦那様、センア様。....様から緊急のご連絡です。」
「...?ナーシャ、今誰からと...、」
「...。」
ガチャッ...、
「...まずい!!!」
ーーーーー
「...着きましたよ、師匠。」
「ああ、作戦通りに行動だ。」
「...いいんですか、当初と真逆ですよ?」
当初:戻った事を悟られないように
当日まで行動。
現在:堂々と表歩いて動こう。
「これでいい、向こうが下手に手を出すかは知らねぇが襲ってきたなら既に手遅れだ。何より洗脳してる奴ってのは直接見ると雰囲気が違ったりするらしいぜ。長い事職人やってるから何か碌でもない考え持ってる奴の雰囲気ってのがわかるんだよ。」
「...当日までじっとして後手に回るくらいならさっさと動いて介入するって事ですか?」
「そうだ。職人らしくもないかもしれんがこっちも手を出されてムカついてんだ。やるならさっさとやるぞ。」
僕らは門に行く。
「ふぁぁ...ん?誰だ...ってエイト殿!」
「ん?」
「ああ、流石に覚えてないか...以前ミリーお嬢様の馬車の護衛で助けてもらっていまして。」
ダイオプサイト...思い出せ。
ああ、確かにいた。
ごめん気づかなかった...。
「ああ、失礼しました。街へ入るのですよね。少々お待ちください。」
「?」
「オーロラさんからこちらを預かっています。」
「オーロラさんから?」
渡されたのは1枚の手紙。
「ありがとうございます。」
僕達は街に入り、早速手紙を見る。
・これを見てるって事は街に戻ってきたのね。
おかえり、聞いたわよ?
大きな仕事を受けたらしいじゃないの。
凄いじゃない!
いつでもいいけどたまにはウチに顔を出してね?
ラーちゃんが寂しがっているから!
手紙の下の方には花がいっぱい描いてあった。
...オーロラさん花の絵上手いな。
「おうなんだ、洒落た手紙じゃねぇか。花も描いてあるじゃねぇか。器用だな、でもなんの花だこりゃ?」
「確かチグリジア...またはトラユリっていう花なんです。オーロラさん綺麗に描く...ぁ。」
「ねぇお兄ちゃん。最近変わった魔法剣士のプレイヤーと出会ったんだよねぇ。」
「変わったプレイヤー?」
「そう、花を使って戦うんだよ。お兄ちゃんの程珍しい職業ではないっぽいけど意外と強いの!」
「まぁ俺達の敵じゃなかったけど、プレイヤー次第では十分化け物級に火力出せるタイプだよアレ。」
「お前らが言うって事は普通に強い職業じゃん...。」
「面白いスキルがあるの。この“トラユリの声”ってやつでさ、これ使った後に回復したりバフをかけるとさ、効果が2倍になるの!」
「強いな!?...でもなんでトラユリ?」
「花言葉だよ兄ちゃん。別名チグリジアって言ってね。花言葉は...。」
“私を助けて”
「複数ある...達!」
“私達、みんなを助けて”
「おいおいおい。早く来て大正解...なのか?」
「超大正解です。...自警団本部に行きます!」
「待て、屋敷はどうする?」
「戦力が欲しいです!魔法に自信はあっても一人二人で出来る事には限界があります!」
「なるほど、確かにそうだ!ノーブル・アンツがどれだけいるかわからん以上信頼出来る戦力の確保は当然だ!よっしゃ、行くぞ!」