第16話 完成
『...そういう訳で我が街を守っておく。だから貴方はこっちに集中していて。』
「はい、皆さんをお願いします。」
『うん。』
エクアは僕の持つディバイン・アクアの中に消えた。
「...今のが水の大精霊エクアか。初めて見たぜ、まさかエイトが大精霊に認められていたなんてな。」
「それよりも、まさか街で襲撃だなんて...。」
「公爵家を堂々と襲うとは...間違いなくティナお嬢様の件で間違いねぇ。だが今からでは洗脳魔法への耐性のある宝石を組み込むのは難しいな。」
雲が晴れ、月の光が部屋の暗い場所を照らす。
すると、紫色の宝石から青白い宝石が光る。
「ついさっき、完成しましたからね。」
月の光に照らされ、
優しく輝くアメジストのネックレス。
ティナお嬢様の誕生石アメジスト。
僕が持つ中...ゲームの中でもレア度と能力が高い宝石、[ルナ・アメジスト]。
月の光を当てるとルナ・アメジストから青白い光が発せられ、まるで月のように輝く。
能力は[やすらぎ]。
自動回復と精神安定のスキルを持つ。
これにより幻惑系の魔法に対し有効であるため、ゲームではデバフ対策として使われていたのだ。
チェーンと土台は[セレーネ・プラチナ]。
ルナ・アメジストと同じく月の名を持つプラチナである。
ゲームではドロップ率が低いにも関わらずアクセサリーでよく使われていたので安定収入源の一つだった。
ちなみにこっちの世界ではどこで入手できるかは不明。
装飾には小さなダイヤモンド。
僕がこの世界に来て初めて、
この手で作り上げたアクセサリー。
「完成したのは良いけど非常まずい状況です。」
「エイト、洗脳耐性を持つ宝石に心当たりは?」
「山程あります、しかし今からではもう時間がありません、僕が直接向かって魔法で対抗する他ないでしょう。アクセサリー自体はありますが予定に無いものを公の間で出す訳にはいきませんから。」
「それもそうだな...。向かうのなら早い方がいい、馬車の時間は大丈夫か?。」
「いえ、馬車は使わなくとも大丈夫ですよ。」
「?...何か手段があるなら良いが。」
「見ていただく方が早いかもしれません。」
“それ”を見せる。
「ななな、なんと!?...なるほど、それなら馬車いらずじゃねぇか。ならば時間許す限り支度をするぞ!俺もこの件に深く関わってる身だ、行く末を見たい。」
「わかりました。」
「ああ待て、今からヴァサールに行くとしても誰にも言わねぇ方が良いかもしれん。」
「何故でしょう?」
「今属国派閥の連中はこの前の件でかなり慎重に行動しているだろう。当然だが向こうは公爵家に手を貸している奴も探す。」
「僕か...。」
「その状況でエイトが戻れば奴らはどう動くかわからねぇ。相手の規模が小さけりゃティナお嬢様の誕生日会までに終わらせてぇ所だが相手はその逆。加えてエイトの事を調べてるというならここもそろそろまずいかも知れねぇ。」
「...慎重に動くのは僕らも一緒ですね。」
「なにせ政治絡みだ、一般人が相手取る奴らじゃねぇよ普通。正直巻き込むんじゃねぇって。」
「あはは...。」
エイトです。
ティナお嬢様の誕生日パーティーまでついに...3日です。
ほぼ1ヶ月間を僕はドーム師匠の下で[高位加工]の習得に努力をしていた。
ティナお嬢様のネックレスは完成した。
細部まで精巧に、美しく、この手で初めて作り上げたアクセサリー。
ゲームでは得られなかった知識と感覚。
異世界にきて現在9割以上ここで生活しているけど、生きているって実感が湧き出て仕方がないのだ。
...でも。
「...視線を感じるか?」
「はい。エクア様からの話を合わせますと数日前に現れたあの気配は僕目当てで間違いないです。まだ手の内は見せる時ではないので遠目で見てる分にはこちらから目立った手を出す必要はないと思います。」
「そうだな、だが工房に入られると面倒だ。結界のエーデルを使ってくれ。」
「はい。」
そう、目立たなければいい。
インビジブル・アイ、奴らを見張れ。
レコード・クリスタル、奴らを記録しろ。
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「どうだった?」
「今日も特に変化はない。あの子供はただ優れた職人の才能を持っているだけだろう。地下水路迷宮化計画で姿を見たという報告があったがおそらく後援だろう。」
「それってつまり公爵に選ばれる程の人材じゃないか。なんとかこっち側に率いれないか?」
「こんな時に動いても怪しいだけだ。あの方も言っていただろ、慎重に動けと。」
「そうか...あー、アレの後ならいけるかもな。」
「あまり喋るな、知られてはまずいだろ。だが後なら可能かもしれない、奴は依頼を受けて公爵家についているんだ。形さえとればまぁどうにでもなるだろう。」
「...どうだった?」
「うぉっ!?」
「急に出てくるなよ...。」
「...すまん。でだ、ネックレスはどうだった。」
「既に完成しているみたいだぜ。だがあのドワーフのオヤジ、結界魔法のエーデルを使っているから流石に工房に侵入するのは無理だ。」
「そうか...もう遅いがな。」
「へっ、どうやらそっちは上手くいってるみたいだな。慎重にと命令受けてる割にはいいじゃねぇか。」
「慎重に動けばいいのだ。何もしないのとは違う。」
「へっ楽しみだぜ、全てはわれ..おっと。」
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「もう...遅いだと?」
「どうしたエイト?」
戻ってきたレコード・クリスタルの映像を見せる。
「...この紋章、ノーブルアンツか!」
「知っているのですか?」
「帝国の属国派閥貴族を中心として動く裏組織だ。こいつらはその工作員で間違いねぇ!」
「...もしかして予想以上にまずい状況ですか?」
「当たり前だ!予定変更だ、今すぐヴァサールに行くぞ!」
「ええ!?」
「ノーブル・アンツはその名の通り蟻。蟻は小さく注視しない限りそう見つかる事はない。だが力は強く種類によっちゃ一匹で人も殺せる。奴ら裏組織はそうやって国に手勢を潜り込ませ人々が暮らす中でどんどん自分の巣...エリアを拡大させ侵食する。この前の屋敷襲撃、地下水路迷宮化、これだけデケェ事を起こしたのは本当の主戦力を目立たず動かすため!警備が厳重になったから安全なんじゃねぇ、厳重にする事こそが狙いだ!!」
「ちょ、ちょっと待ってください!厳重警備の中で手勢を動かすなんて。」
「“ある立場”の人間なら出来る、知ってる限りだがあの街にはな...。」