第15話 立ち向かう大精霊
『えっと...八式宝石魔法術式:激流陣。この街に手を出した事を永遠に後悔なさい。』
「な...なんだそれは!?見た事もない魔法、技術、術式!精霊の持つ力じゃないこれはなんだと言っている!!!」
『言ったよ、八式宝石魔法術式。えーとね、我の知り合いの力の一部を我でも使える様になったんだよ。偶然だけど。』
「なっ...この術式でさえ一部!?誰だ、誰だそいつは!!!」
『言う必要がない、じゃ。』
「がぅっ!?」
水の砲撃で吹っ飛ばす。
『ディバイン・アクア、覚醒。これが我の輝きだ。』
全ステータス1.8倍、魔法無詠唱化、
状態異常無効化、被ダメージ半減。
水魔法与ダメージ2倍。
周辺に水のあるステージでは
敵への水魔法による与ダメージが2.5倍。
(上記の数字は掛け算で加算されるので計5倍。)
『この前は不覚をとった。でも今の我なら造作もない。』
彼女や私の周囲に水の狼がどんどん現れる。
狼達はノクサスに襲いかかる。
「くっ、お前ら私を守れ!!」
「ガルゥア!!!」
ノクサスは魔法陣から狼を召喚。
あの狼...近頃襲撃をかけてきた狼の犯人はこの男か!!
ノクサスは次々と狼を召喚、物量で押し切る気だ。だが水狼はノクサス狼を次々と倒してゆく。
「クソがッ、早くアイツらを噛み殺せ役立たず!!」
『犬っころの世話に夢中とは随分余裕だな。』
「へ...がはあっ!?」
『どうした、早く攻撃をしたらどうだ?我を洗脳出来たのだろ?だったらまたやればいいではないか?』
「うるさ、があっ!?」
『...お前自身はその程度なのか。』
どうやらあの男、対象への洗脳と操作を中心に鍛えているのか、基本的な戦闘能力はそれ程高くない。
さっきも気配を消すのは上手いのに弓で狙ってきた。この地下水路でなら範囲魔法で私達を始末出来たはずなのに。ラーさんの強さを考えるなら弓矢でどうにか出来る筈がない。
「ぐぅぅ...聞いていない。こんなに強いなんて....ありえない、洗脳出来たのに!なんで!!」
『あの時の熊“は”強かったよ。いやいや我が不意を突かれる隙を作る程強かったよ。気配を消してコソコソとゴキブリの様に動くお前と違ってね。』
「貴様...!」
『何を怒る、褒めているのだぞ?お前は自分に合った戦い方をしたから我を洗脳出来たんだ。そう、蛇というよりゴキブリ...の方が上手く隠れてるかも?だったらお前は何だろうね?』
「貴様ァァーーーーーッッッ!!!」
『熱くなりすぎだ。』
余程プライドか何かに触れたのか、
ノクサスは真っ直ぐ彼女に襲いかかる。
だが上手くいくはずもなく、
彼女はノクサスの顔面に高圧の水砲撃を放つ。
まともに食らったノクサスは大きく吹っ飛び、壁にぶつかった衝撃で気を失った。
「嘘...もう倒したの?」
『...ふぅ。終わった。』
「あの...エクア様。その姿は...?なんかエイトくんが使ってた魔法に似ている様な?」
『ん、前にエイトに渡したディバイン・アクアは我と繋がっている、我の一部だからだ。それを触媒としてその気になれば我がエイトの元に移動する事が出来るっていうか...んー...何というか見えない繋がり、パスがある。だからかな、エイトの不思議な力もパスで繋がった事で使えたのかも。』
「主従契約の魔法みたいなものでしょうか?ですが従者は主人の力自体の行使は...。」
『そういう繋がりじゃないさ。そんな事より...。』
エクアという少女はノクサスを水で拘束する。
『...コイツ、殺してはダメな感じかな。地上の水を通してわかる、ちゃんと捕まえないといけないやつだよね?』
「...はい、この男からは聴かねばならない事が多くあります。おそらく...これで終わりではない気がするのです。」
『わかった。』
ーーー
「...それで、ノクサスがヘマしたのか。」
「は、はい!」
「アイツ...キラーベアを貸したというのに。役立たずだな。」
「影響はそれだけではありません、奴が捕まったせいで我々も洗脳による強硬手段が大幅に減りました。無いわけではありませんがこれはリスクが大き過ぎます。」
...あの阿呆が、不意を突いて大精霊をマリオネットダンスで操れただと?違うな、奴に貸したキラーベアはこの世で数少ない精霊とまともに戦い合える戦闘力を持つ魔物!
奴と戦い弱れば洗脳は無理でも多少操るくらいは出来る。
だがどうだ、その大精霊エクアはノクサスのマリオネットダンスから逃れていた。あの魔法は自力で逃れる事は出来なくは無いが、早すぎる。
おそらく外部から、それはつまり大精霊に勝利をしたという事。
数週間前、ノクサスが大精霊の力を利用して地下水路を迷宮化させようとしていたがその日に大精霊は戻った。
たったあの短い時間で大精霊は負けた。
だとすれば少なくとも我らの邪魔をしてくれた奴は大精霊エクアを上回る強さ。正面きって敵対するのはまずい...。
「...命令だ。ティナ嬢の誕生日会までは今まで以上に慎重に行動しろ。厄介な奴がこの街にいる可能性が高い、そいつがハリス公爵家と関係があるのかは知らないが捜査を含めとにかく慎重にだ。」
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「...以上が報告になります。」
「...属国派閥め、ここまで手を出してきたか。」
「しかし、捕らえた男やその仲間達は尋問中...その...。」
「服毒で逃げられた...か。属国派閥と関わりあるかの証拠は得られなかったのが痛いな...。」
「...お母様、わ...私...!」
「大丈夫よティナ、貴方は悪く無いのよ。」
後日ハリス公爵家にて。
ミリー達は事件の報告をしていた。
あの事件の後、家族や従者や兵士、自警団の人達は洗脳から無事に解放された。
洗脳された人の多くは、細く背の高い男と出会していたなど言っており、ノクサスという男と外見が一致する点が多い事から奴は気配を消して既に屋敷に侵入していた事がわかった。
それだけじゃない、
「このネックレス...ノクサスが使っていた洗脳魔法と同じ魔力波長を発しているのがわかりました。洗脳された人の内何人かはこのネックレスを身につけ洗脳されたティナによるものだという事も。おそらくこれを使い屋敷にいる者を洗脳させるのを効率化させようとしたのでしょう。...今のティナならネックレスを身につけていても不思議ではありませんので洗脳を広げるには都合が良い点もあります。」
「...強引とはいえこの警備体制を潜り抜けるのは簡単では無い。まだ仲間がいると見て良いだろう。師団長には私から話しておくよ。」
そう言ってミハイルは部屋を出た。
(...ここに来て大きく事が動いた。地下水路はこの街の命...人々の生きる要。あれを支配する事はある意味この街の支配。大精霊エクア様を打ち倒したという意味でもあるから。だがそれは失敗に終わった。
そして今回の屋敷襲撃、確かにティナならネックレスをつけていても不思議はない...だがそれだけだ。従者、それも運動神経のある者に付ければもっと効率は良かった筈だ。
一体奴らは何を考えている...いや、答えは出ているな。
私達はティナの誕生日会に合わせ、ティナの婚約発表をする。相手は私達と特に親しい帝国の和平派閥の貴族とだ。
それを妨害する実験としてそのネックレスを試したとならば...。
いずれにせよ事は大きく動いたのだ。
彼が現れたから今がある、皆が生きている。
...小さな子供に頼むのも情けないが私は祈る。
エイト君、どうか...頼む!!)