第13話 現実だからこそ
「大きい町だなー、ここにドームっていう人の工房が...。」
ヴァサールから馬車で45分くらいの場所にあるこの町の名はミガロという。思ってたよりも大きい町で人も賑わっている。
この町に装飾品の工房を持つドームという人がいる。僕はミハイルさんにその人の工房を紹介されやってきたのだ。
案内は2名の従者さんがしてくれる。
「うわっと、すみません!」
「こちらです、エイト様。この辺りは人通りが多く迷いやすいのです。」
「あ、はい!」
油断していると本当に迷子になりそう。
ちゃんと着いていこう。
...とその時だ!
「只今より15分間、半額セールを開始しまーす!」
「へ?」
「まぁ奥さん聞きました?」
「キャー半額よ!」
「あたしが先よー!!」
「うわあ゛っ!!?」
「エイト様ぁ!!?」
やばっ、半額セールに釣られた奥さん達の波に飲まれた!抜け出せない所か押し潰される、なんてパワーだ...どんどん流される、従者さん達と分断されて...、
「ボウズ、こっちだ!!」
「!」
誰かが人波から引っ張り出して助けてくれた。
「へへっ大丈夫か?アンタも運が悪かったな。今日この時間帯にあの八百屋はセールをするんでな、あれこれ商品を狙うケダモノは怖いぜ。」
「いたた...ん、ドワーフ族?」
「お?ボウズ、ドワーフを見るのは初めてって目をしているな。...なるほど、アンタがエイトだな?」
「!」
「ミハイルの旦那から聞いたぜ。俺はドワーフ族のドーム、ここから少し離れたところに工房を持つ装飾の職人ってヤツだ。」
「あ、貴方が...ドームさん!?」
「そうだ、よろしくな。ハグれたアンタの付き人にも連絡は入れる。このまま工房に行くぜ、着いて来な!」
「はい!」
ーーーーー
「こっちだ、エイト。」
「ん?これは...。」
店前に壊れた機材や道具がたくさん置かれている。
「ああ、聞いていなかったか?ウチの店が変な奴らに荒らされたとか。」
「!?」
ー ー ー
「依頼を受けてくださった職人が暴漢に襲われ怪我をしました。その際用意するはずだった宝石も失ってしまったのです。」
「...強盗ですか?金庫からお金は盗まれていましたか?」
「いいえ。何も盗まれていません、ただ破壊されたのです。道具も装飾品も。」
ー ー ー
「そういえばミリーお嬢様から...。でもじゃあ工房は?」
「それが無事なんだよ。見ての通り怪我は薬でなんとかなったし道具も予備ぐらいもしもに備えていくらでもある。それに機材も最低限は修復済み、だからもう使えるんだ。その連絡を念話でしたところに丁度お前の事をミハイルの旦那から聞いてな。腕は確からしいな、何か知りたい事があれば教えてやるし色々手を貸してやるぜ!」
「よろしくお願いします!!」
「いた、エイト様!」
「お、やっと追いついたようだな。...もう遅いけどな。」
「あはは...。」
それからの日々、
僕はこの工房でティナ嬢へ贈る為のアメジストのネックレスの制作に取り掛かった。
ゲームでは2種類の制作方法があった。
・時間は掛かり難易度が高いが成功すれば
高い能力を持つ[加工]。
・短時間で成功率も高いが良い能力を持つ
確率は低い[魔法加工]。
だが弟妹からゲーム内のレア職業の中にはこれの良いところ取りな制作があるらしく、さらにレアな職業にはより高位の制作もあるだろうと。
ドームさんから教わっているのは前者。
相応の技術力を求められるが習得出来ればその後作る加工品の作業性や完成度が今よりも格段に上がる。
[高位加工]、これの習得がティナ嬢のネックレスを作る為の条件としてドームは設けた。
そりゃそうだ、僕の加工技術は高いけど熟練職人やプロのスミスプレイヤーからすれば非凡になった程度。真の一流へは片足すら突っ込んでいない。
曰く、
「こんな綺麗な細工なのにまだまだ能力を引き出しきれてねぇ、これでは宝石が勿体無い。エイト、高位制作は身につけてないようだな。」
と、僕が渡した宝石アクセサリーを一目見てそう言った。
その後に、
「...凄い魔力だ、この輝きは?」
「ガラスだぜ?」
「ええっ!?」
「この通り、腕を上げればガラスだろうとダイヤモンドのように輝ける。それどころか何者にも負けない何かを持つだろう。真に凄いのは石の力と引き出す俺達職人って訳だ、その力を引き出してやれるようになるんだ。」
そこからドームは僕が高位制作を身につける為の修行として色々教えてくれた。
「そうだ、土台と宝石の魔力波長をゆっくり合わせろ。少しの誤差で得られる能力が大きく減ってしまう。」
「はい。」
「...へへっ、腕がいいな。次のをやるぞ。」
「ど、どうですか?」
「ふーむ...ダメだな、この組み合わせでは宝石と金属の相性が元から良くない。その宝石は熱の力を持つがこの金属はある一定の温度帯が長く続くと急速に変色を起こしちまうんだ。コスト面を考えるとレイン・チタンの方が良いだろう。」
「はい!」
「がーはっはっは!ほら飲め飲め!」
「いや師匠、僕未成年です。」
「あーそうだった。」
「と言うかいいんですか?我々結構忙しい身のはず...。」
「なに、ずっと詰めてたら全力で打ち込めん。生きてるヤツ皆息抜きがいるんだよ。体壊せばパーだ、形はなんでも良いから休む時は休め!がっはっは!」
「...そうですね、本当にそうですね。」
「?」
今までゲーム内だからこそ出来た、
でもこれは現実。
魔法があるけどプログラムもシステムもない。
作れても腕はない。
ドームさんはそんな僕を鍛えてくれた。
多少荒削りだろうと、ティナ嬢の為だとはいえ。
3週間が経った頃、ついに。
「手応えはあります。」
「...ああ、元々多少基礎が出来ていたんだ。短期間でよく頑張った、合格だ。腕と魔法の融合による更なる先の技術、“高位加工”習得だ。」
「じゃ、じゃあ!」
「ああ、俺達で今すぐ取り掛かるぞ。ティナお嬢様のネックレスを!絶対に間に合わせるぞ!」
「はい、師匠!」
ーーーーーーーーーー
ある日の夜...
「...。」
「...どうしました、ティナお嬢様。」
「...ナーシャ、ですか。」
「?」
ナーシャはティナ嬢に何かを感じた。
「私は、寝ます、おやすみなさい。」
「...お嬢様?」
ティナは振り向く。
「...!?」
キラリと光るネックレス。
ティナ嬢のネックレスではない。
黒い石のネックレス。
異質な魔力を放つネックレス。
「!!?いけませんお嬢さ...ま.....。」
「...どうしました。」
「...いえ...あまり、夜風に当たると...体に悪いので、早く...部屋に...お戻りください.。」
「...わかった...わ。」
「...!?」
自室でそれを見ていた。
直前までナーシャの見ている景色を観ていた。
震えが止まらない。
反射的に息を殺すので必死だった。
ドス黒い何かがナーシャを飲み込む感覚。
まるで人形の様なティナ。
突然の恐怖が目の前に現れた。
両親に念話が繋がらない。
部屋を出ようにも怖い。
ドアを開けた瞬間が怖い。
手汗で濡れるドアノブ、
湿る寝巻き、
涙で崩れる表情、
恐怖で止まりつつある思考回路。
「...エイト様...!」