第12話 公爵様のお屋敷
「はぁ、なんとか間に合った...。」
「間に合った...じゃないですよ旦那様。エイト様と偶然会えたのは良いとして長話は良くないと奥様がいつも仰っていましょう。」
「スミマセン...。」
従者に怒られる公爵様......。
「んんっ、ようこそいらっしゃいましたエイト様。」
「こんにちは、ナーシャさん。」
綺麗な屋敷だなぁ、貴族ってこう言うものなのだろう。なんか緊張してきた...。
ああ、エイトです。
転生して2日が経ちました。
色々あって出会った公爵令嬢ミリーさんの妹、ティナ嬢の為に作る装飾品の仕事を受け...ついに屋敷へやって参りましたー!
あ、横にいる方は図書館で偶然出会ったミリーさんの父君、ミハイル公爵様です。
「エイト様!」
「これはこれはミリー嬢、本日はよろしくお願いします。」
「えーと、貴方がエイト様?」
「おや?」
ミリーさんと同じ金色の髪、
青紫色の瞳、
もしかしてこの子が...?
「この子が妹のティナです。」
「ああ、失礼しました。宝石商のエイトと申します、ティナお嬢様。」
「は、はい!私はティナ・ハリスと申します!」
ミリー嬢と比べてちょっとおてんばっていうか子供っぽい喋り方。そっかこれが普通だもんね。
来月12歳だから今は11歳。
ほぼ2歳年上の人だけど精神年齢は僕の方が上なんだよな...。
「先日は娘を助けていただきありがとうございます、エイト様。二人の母でミハイルの夫、イーニスと申します。本日はどうぞよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「皆紹介したね。ではエイト君、早速屋敷へ案内するよ。」
異世界の貴族屋敷、
扉が開き中に入る。
広いエントランス、お屋敷の入り口としてよく見る形のだ。ドラマやアニメで見るような古くも美しい見た目。
正面の壁には絵画。
あのバラの絵...どこかで?
「あ...“精霊の花びら”..。」
「まぁエイト様、あの絵画をご存知でしたの?」
「ええ、まぁ。」
思い出した、あれゲームであったやつ。
精霊の女王様が認めた者に与えられる栄誉ある絵画って設定だった。
あるクエストをクリアすると入手出来るアイテムで、どんな花が描いてあるかはランダムである。確か15種類だったような、あの絵はそのうちの一つにあったピンクのバラだ。
元々はゲーム内機能である「ルーム」、自分やギルドの部屋に飾れるもの。でも特に機能は無い。
「昔私の祖父が精霊を助けた事がきっかけで貰ったのだよ。」
「へぇ...。」
「知らぬ者にとっては普通の絵だが、これは大変貴重な絵でね。貴族間でもこの絵の存在もあって下手に手を出そうと考える輩が少ない。まぁ知っての通りいない訳ではないのだがね...。」
そう、普通ならば。
「...もしかして、絵の具は鉱石...宝石。」
「ん?...ぬぉ!?」
突然、絵画が淡い桃色に優しく輝く。
光りは玄関を抜け、先程の庭に落ちる。
扉を開け、再び庭に僕らは向かう。
すると敷地内の庭一面に、淡い桃色のバラが咲き始めたのだ!
「マジか...!」
「旦那様また口調が。」
「...また凄いものを見てしまった。」
バラ自体は魔力で構成されており、触れようとしてもすり抜ける。
絵画の中には砕いた宝石で作られる絵の具ある。その宝石が絵画に込められた意思的な何かと僕の力に反応してこの光景を生み出したのだろう。
「...祖父は言っていたよ、“いつかバラが咲き誇る日が来る事を願う”と。元々バラが好きな人ではあったがこの事を言っていたのかもしれない。」
「これが...エイト様のお力!」
「一層君の力を信じてみたくなった。我々ももっとエイト君に力を貸さねばな!」
「ええ!」
「あはは...。」
公爵家の皆様のやる気が一層増した。
案内されたのは資料がいっぱい置かれた部屋。約束通り集めてくれたようだけど...たった1日でこれだけ集めたのか!?
宝石の力を使い僕は早速見ていく。
「...プロテクト・クリスタルは北で75年前にドロップが最後...か。ヴァイス・プラチナは現在も産出量は極めて僅か、市場には稀に偽物あり、か。エンペラー・ダイヤはもはや噂やおとぎ話程度の存在、僕持ってるのに...ブツブツ。この国で有名な装飾人は...細工の形は...文化は...ブツブツ。」
「ね、ねぇお姉様?エイト様は何を言っておられて?」
「ごめんなさい...私にもわからないわ...。」
「というか今、あのエンペラー・ダイヤ持ってると言っておられませんでした?」
「おとぎ話は本当だったのか...。」
「この世界でもドワーフは職人系...ブツブツ。」
そんなわけで早くも2時間が経つ。
渡された資料は全て可能な限りリアルタイムで記録された宝石価格相場や産出量データ、産出地、この国などの宝石に関する情報が載ったものだった。
図書館で見た物よりも新しい、かつ確実。
ミハイルさんが集めてくれた本の事もあってより内容がわかる。
これなら、これだけ情報があれば!
「今すぐ作業を開始したいです。屋敷か近辺に作業が出来る場所はございませんか?」
「なんと...わかった!今すぐに、」
「失礼します、旦那様!」
「ナーシャか、そんな慌ててどうした?」
「ドーム様からご連絡です!」
「ドームから?ふむふむ...そうか!」
「?」
「エイト君、ちょうど良い工房がある。そこへ案内しよう。」
「あ、ありがとうございます!」
「きゃーっ!!!」
「!?」
「今の悲鳴は!?」
庭の方からだ!
僕は窓から外を見る、するとそこには3匹の魔物の姿。内一匹は見覚えのある狼、あれはミリー嬢と会った時のと同じ狼魔物だ!
なんで街の中、地上に!?
まずい、庭にいる従者さん達が危ない!
僕は窓を開け飛び出す!
「エイト様!?」
「エメラルド、風のクッションを!」
着地、魔物は僕を待っていたかのように睨む。
「...僕が狙いか!」
狼、トカゲ、鷹。
本体の気配...ダメだ近くにいない!
「ルビー、ファイアボール!ダイヤモンド、魔法強化!!」
「グルゥッ!?」
まずは狼!
「...!」
あのトカゲ、睨んだ相手へに移動不可デバフ持ちか!
でも僕には効かない、
「タイガーアイ、強者の恐怖を刻め!!」
「.....!?」
トカゲは恐怖に飲まれたかのように、静かに倒れる。そして二度と動く事は無かった。
「最後は...!」
「ギュオーッ!!!」
「上か!僕の知ってる鷹はそんな鳴き声じゃないんだけどなあ!エメラルド、スフェーン!バーストストーム!!!」
「ギュアッ..!?」
討伐...完了。
ーーーーーーーーーー
「ジルコン、ペリドット、ホワイトクォーツ、ラリマー。屋敷を守るよ!神聖結界!」
屋敷の敷地全てがバリアに覆われる。
このバリアは対魔物用の結界、人間は普通に出入り出来る。効き目は1日だけど“あの魔法”を使えばすぐに戻れるから問題はない。
「これで魔物は入れません、しかし人の出入りは出来るので不審者相手は兵士の皆さんにお願いします。」
「おう引き受けた!この腰を治してもらった恩はこんなもんじゃ返しきれん。お前ら、気合い入れろよ!公爵家に手を出させるなよ!!」
「おー!!」
「気をつけるんだぞ、エイト君。」
「エイト様、行ってらっしゃいませ。どうかお願いします。」
「残念な結果になんてさせません。僕にお任せください!」
工房へはさっき助けた従者さんが案内してくれるそうだ。
ドームという職人がいる工房はこの街を出て南西方面の村にあるらしい。道中何があるかはわからないけどこの仕事、絶対に成功させてみせる。
「では、行ってまいります。」