第1話 宝石商転生
VRMMOゲーム[ファンタジーオブエレメント]
それは全世界配信中の有名オンラインゲームである。
MMOゲームらしく、自由度が高くキャラクタークリエイトや職業、戦闘スタイルが己がままに出来る、いわば[よくありそうなオンラインMMOゲーム]なのだ。
これだけであれば普通は人気はそこまで出ない。
だがこれを海外にまで進出させ、全国総プレイヤー数6千万突破させたのには理由がある。
それは[隠し要素]だ。
ただの隠し要素などではない。
この仕組みはゲームの至る所、大から小、ピンからキリ、かくかくしかじか...と散りばめられているのだ。
例えばだ、特に何もないだろうステージ端にある河原を歩いていたらお宝発見、一瞬で大金持ちに。
暇潰しに町を歩いて適当にNPCの定型文住民と話し回っていたら会話内容が変化、隠しクエストを発見!
面白半分で魔王にテイムをかけたらペットに...なりはしなかったが気に入られ友達になった。
など、これまでにありそうでなかった可能性とシンプル具合と奥深さを兼ねたゲームなのである。
これが偶然必然かはわからないがMMOを楽しむプレイヤー達の間で人気爆発、配信から1年も経たずして全国テレビでcmが流れる程名を上げたのだ。
勿論やり込み要素はそれだけではない。
ある脚本家協力の下広がるストーリー。
熱く泣け笑いあう世界はここに。
オシャレな服を買いアバターを着せ替え!
君だけのアバターをクリエイト!
PVPでプレイヤー同士の対決!
ナンバー1を目指せ!
皆んなと協力、大規模多数討伐!
君は一人じゃない!
プレイヤーマーケットでレアアイテムを購入!
これ欲しかったよね、物々交換可能。
とにかく要素盛り沢山。
正直文字で説明は仕切れない、まぁMMOは大抵そんなもんでしょ。やってみるのが一番!
様々な要素がある故に様々なトップランカーが存在するこのゲーム。
特にPVPとなれば上位10%は有名プレイヤーそのもの。
全プレイヤーの注目の的、ある種のスター、アイドル的となるのだ。
よくありそうなスタイルだからこそ馴染める、
ありそうでなかった形に惹かれる興味、
それがファンタジーオブエレメントなのだ。
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さてさて話は変わって。
このゲームシステムのアイテムの一つに[ 宝石 ]というのがある。宝石は色んな効果を持つアイテムで、
・装備に組み込みステータスが上昇する[クリスタル]。
・宝石そのものを使用、効果を発する「エーデル」。
これらを駆使し、如何に使いこなせれるかが高ランクへの道の一つだと言っても過言じゃない。
アイテムなので敵を倒し落とすアイテム、ドロップとして入手が出来るしプレイヤー同士で売買も可能だ。
そんな高ランカーを目指そうとアバターを鍛えるプレイヤー達の間にとある噂が流れている。
「 Jewel Sorcerer]
どこからか現れては宝石を売る謎の商人。
それがノンプレイヤーキャラ...NPCなのかプレイヤーなのかは不明。
あるプレイヤー曰く、
「彼女はプレイヤーだ、NPC表示が無い。プレイヤーならあんな貴重な宝石を持っていてもおかしくはない。」
またあるプレイヤー曰く、
「NPCでしょ。“彼”からはNPCの様な無機質さを感じる。多分運営の隠し仕様、じゃなきゃ激レア宝石を持ちすぎている理由に納得がいかない。」
とあるプレイヤー曰く、
「彼...彼女(?)には大きく助けられた。買ったレア宝石でランクが上がった。」
と、そのアバターは身長が140cm程で女の子の様な顔立ちの男の子。
大きな白いキャスケットには移動速度上昇効果を持つクリスタルのついた飾り。
毛先が赤い金髪のミディアムボブ。
白いパーカーコートには8色の輝きを持つ宝石が組み込まれたバッジが付いており。
そのブーツには左右移動速度上昇効果を持つクリスタル。
彼の名は[エイト]。
どこかに現れては宝石を売り、
またどこかに現れては宝石を組み込んだアクセサリーを売る。
プレイヤーなのかNPCなのか。
それを知るのは.....、僕のみ。
何となくわかる人もいるだろうけど、エイトはプレイヤー。
そのアバターを操るのは僕だ。
ゲーム内に於いてはプロプレイヤーに位置しているがPVPには参加していない。
僕は生まれつき体が弱く、20歳を越えてからはずっと入院生活。何なら余命宣告も受けた。
このゲームと出会うまでは苦しい人生だった。
自由に動けない体、弱い体。
鍛えられない肉体。
倒れる度に家族が泣く。
2つ下の双子の弟と妹は今もお見舞いに来るがいつも悲しそうだった。
それを見る自分も辛い。
申し訳なさでいっぱいだった。
ある時弟妹が最新のVRゲームを買ってきた。
ファンタジーオブエレメントだ。
その頃には足も動かしづらくなっていた自分にとって唯一自由に動ける世界だった。
二人はゴリゴリの戦闘アバターで、[ツインヘル]という異名を持っていたという。
こっわ。
でも戦闘系のゲームは入院中結構やっていたからか、いつもと違った楽しい生き方をしたいと思い非戦闘型のステータスを選んだ。
MMOのステータスでよくあるのがこの5つ。
・STR...筋力
・INT...魔力や知力
・VIT...体力や耐久性
・DEX...器用性
・AGI...敏捷性
僕は全部を均等に振った。
良くも悪くもオールマイティ、器用貧乏型。
別に戦えない訳じゃないけど強い訳じゃない。
でも戦闘手段が無いわけでもない。
これは僕だけが、全プレイヤー中...僕だけが手に入れた唯一の職業。
その名も[ Jewel Sorcerer ]。
このゲームの隠し要素である激レア職業の一つらしい。
その力は...宝石。
宝石に秘められた力を最大限、それ以上に引き出す輝きの魔法使い。という設定だ。
弟妹はこれ見てビックリ。
二人とゲームをするのがさらに楽しくなった。
この職業を得てから1年。人間終わりは来るものだった。余命宣告より2年も早くに僕は死んだ。容体悪化が何度もあった事による衰弱死。
死の間際、涙で目が濡れた弟妹と話した。
「...また会えるかな?」
「会えるよ...兄さん!また遊べるよ...!」
「お兄ちゃん...ありがとう...ありがとう!」
「酷い声だな...あはは。また会おうな。」
可愛い弟と妹の声は泣き声でガラガラなのはちょっと残念だったけど、最後に家族に見送られて幸せだった。
その時を境に、大宝石商は姿を消した。
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それがさっきまで起きていたお話だ。
...正直戸惑っている。
一睡から目覚めたらの感覚で目が覚めたのだ。
死んだ自覚はある。
死期というのは自分が一番わかっていた。
だが何だこの景色は!?
知らない大樹の下で目覚めた僕。
立ち上がる、アレ?視線が低い。
ん?この感覚どこかで覚えが。
鏡とか無いかな...?
カタッ
ああ、手鏡...あれ何でここにあるの?
これゲームで持ってたやつだよね?
...まさか、
それは女の子寄りの顔立ちの男の子。
毛先が赤い金髪のミディアムボブ。
妹が好みにセッティングした肉体。
弟が大爆笑した肉体。
あれ、服着てない!?
やっべどこどこ...待て。
「アイテムボックス。」
頭の中に広がるメニュー画面。
「装備・マイセット、ナンバー1を装備。」
もしや....おお!?
それはいつも着ていた服。
白いキャスケットとパーカーコート。
アイテムボックスと繋がるポーチ。
8色に輝く宝石が組み込まれたバッジ。
「ステータスオープン。」
均等に割り振られた数値。
職業「Jewel Sorcerer」
ああ...察した。
そういや弟妹と約束したもんな、また会おうって。
妹が持ってきた本でこの手の展開は学んでいる。
だったらやってやりましょう、第二の人生。
体はエイト。
ファンタジーオブエレメントの僕のアバター。
今日から僕はエイトととして生きる。
さぁ、宝石欲しいのだーれだ?