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されざれ

作者: のっぽ

「はやく,早く逃げて!日葵!!」




私は水原みずはら 日葵ひまり。17歳の高校二年生。二級の殺し屋だ。この世界には数多くの殺し屋がいる。殺し屋の腕前は一級から十級までの階級で区分される。殺し屋を目指すものは高校から、あるいは生まれた時から殺しをたたきこまれる。私はFDGという殺しの組織に入っているから、よく仕事を任される。ちなみに、私は今まで仕事を完遂出来なかったことは無い!


「日葵、上層部からの命令だ。この仕事を完遂できなかった場合、お前はうちの組織から抜けてもらう。」


「・・・へ?ど、どうしてですか!私は今まで沢山組織に貢献してきました。なのに、こんな」


「まぁ待て、その仕事だが、お前の隣の席の吉川{よしかわ} 賢吾{けんご}という男を殺すことだそううだ。」


「・・・なぁんだ、簡単じゃないですか。では、もうすぐHRなので、行ってきます。」


今回はスマホで仕事内容を聞いたので、登校するのが楽だ。今までは一旦組織に行ってからの登校だったからな。そんなことを思いながら屋根の上を走りながら学校を目指す。なんだ、隣の男を殺すだなんて、秒でできるわ。この仕事を完遂出来たら、私を一級にしてくれるかな。


「あ、日葵ちゃんおはよ。今日もギリギリだね」


「さやちんおはよ~。いやぁ、寝坊しちゃってさ」


学校ではなるべくいい人間関係を築き、友達のような接し方をしなければならない。もし殺しが失敗し死体を誰かに見られたとしても、「水原さんではないよね~」と思わせないといけないからだ。まぁ正直、こんなお友達ごっこも無駄な行為だし、さっさと隣の奴を殺して一人前になりたい。


「おはよう、吉川くん。今日数学あるよね~。私苦手なんだ~」


「そ、そうなんだ。水原さん、なんでもできそうなのになぁ」


吉川 賢吾、物静かでどんくさい。勉強はできるが運動は絶望的。趣味は読書。この前の文化祭の演劇は確か、木の役だったっけ。こういう静かな奴ほど友達が少なく、一人でいる時間が多いから殺しやすい。いつ殺してやろうか。今、は目立つから昼休みかな




「吉川くーん!お昼一緒に食べない?」


「え、水原さん?い、いいけど・・・」


「じゃあ、屋上行こうよ。私、鍵借りて来るから先行ってて。」


屋上は比較的殺しやすい。変に準備室や物置なんかで殺したら、血がいろんなものについて処理が大変になる。屋上は普通立ち入り禁止だけど、私なら大丈夫なのだ。


「まっき~!屋上の鍵借して?」


「また屋上でダンスするの?まぁいいけど。・・・貸すかわりに今度クレープおごってよ?」


「了解~。恩に着ま~す」


これであいつを殺せば私は一級に!はやく殺そ。私は屋上へ繋がる階段を急ぎ足で駆け上がる。


「吉川く~ん、お待たせ。今鍵開けるね」


今私の後ろにはあいつが立っている。本当は屋上で殺した方がいいんだけど、もう我慢できない!今、今殺ろう!


「ねぇ吉川くんっ」


私は大体、ターゲットの正面から気が付かれないように心臓を十センチ程度の太い針で一突きする。その方が処理が楽だから。

だから私はいつも通り振り返り、袖の中から針を取り出そうとした。していたのに、なのに


「ん、んぐ、んんんん!?」


どうして吉川にキスされてるの!?えっ、これ、どういう状況?ん?そのまま私は、吉川に屋上へと運ばれ、今度は舌を入れられた。


「ん!?んんんん!!っぷは、ちょっとよしっ、んん。あぁん!」


無意識に恥ずかしい声が出る。自分からこんな声が出るなんて思わなかった。私は恥ずかしさのあまり吉川を吹っ飛ばした。

吉川が壁に激突する。


「はぁ、はぁ、はぁ。おい吉川。ってめぇ、どういう、つもりだ?」


キスで酸欠になり、声が思うように出ない。吉川が立ち上がり、何やらスマホをつついている。


「ん!?んんんん!!っぷは、ちょっとよっ、んん、あぁん!」


!?


「あぁん! あぁん! あぁん! あぁん!」


「何回もリピートすんな!というかお前なんなんだよ!いきなり、その、キ、キスとかしやがって!」


「水原さん、二級だよね。俺一級なんだ。そして俺は隣の席の女を恋に落とせっていう仕事中。でも君は俺を殺すつもりだっただろ?だから仕方なくだよ。仕方なく」


な、なんだこいつ。は?一級?つうか私の事なんで知って、こ、恋!?な、それはっ、どういう


「状況が分からないだろうけど、頑張ってね。」


吉川が教室へ帰ろうとする。


「ま、待て!どういうことだ。なぜ私の名前を知ってるんだ!私たち殺し屋は互いのことを知ってはいけないルールだろ!戦い方、武器、組織が違えば何級かすらわからないはずだ!どこで知った!こたえ_」


「あぁん! あぁん! あぁん! あぁん!あぁん!」


!?


「これを君の上司に聞かれたくなきゃ、頑張るんだよ。あぁあと、いつでも俺を殺しに来ていいから。それじゃぁ」


な、何だったんだあいつ。いつでもいい?いいぜ、やってやるわ!

それから、授業中や休憩中、下校中にまで奴を狙ったが、一向に殺せる気配がない。




「おい日葵。どうだ?もう一週間もたっているが、殺せそうか?」

 

「・・・頑張ります」


頑張る。とは言ったものの、私の攻撃をすべて避けてしまうのだ。そもそも、あいつはどこの組織だ?一級と言っていたな。というか、一級なのになんで殺しの仕事じゃなくて私を恋に落とすだなんてふざけた仕事なの?上層部はこのこと知ってるのかな・・・まぁ、知っての命令だと思うけど・・・


「恋、かぁ。」


普通の高校生なら当然‟恋”というものをするのだろう。それがきっと、普通なのだろう・・・



私は8歳の時に家族を糸守いともり 拓人たくとという男に殺された。本当に一瞬で、私は動けなかった。


「パパ、ママ?お姉ちゃん?・・・あなた、誰?」


「あ?こんなガキリストに載ってたか?・・・まぁいいや、お前は残してやるよ。俺が憎けりゃ大きくなって迎えに来てくれ」


「・・・許さない・・・」


「へ?」


「絶対に許さないから!」


「・・・俺は糸守 拓人。よろしく」


あの時のことを思い出すと、今でも怒りが沸いてくる。頭がおかしくなりそうで、家族が死んだと認めたくなくて、今までずっと糸守 拓人という男を恨み続けていた。なのにどうしてこんな情けない状況に…奴の、私の家族を殺した男を絶対に許してやるものか!


「…上層部、例のもの。お願いします」


「…分かった…」



「やぁ、今日も懲りずに来たの?雨降ってるのに真面目だねぇ」


激しく降る雨の中、私はあの男がいるであろう屋上に向かった。


「あ、そういえばさぁ。この後雨やんで、すっごい綺麗な_」


「…」


「…何この剣。短剣?」


私は糸守 拓人の、あの整った顔に向かって今までの最高速度で剣を投げつけた。


「今までは素手だったり毒ガスだったりしてたのに…いきなりどうしたの?」


「それは!!その剣は!私の…宝物なの…。あんたが殺した、水原みずはら 慎吾しんごの形見なの! 」


「…そういうことか。本当に来たんだねぇ。君と合った時は確か俺が17だったから・・・9年前かぁ。もうそんなたつ?」


「っ、うっるさい!」


私は彼の顔に刺さらなかった短剣を拾い、再び彼へと攻撃を始める。この9年間、ずっと奴を殺すことだけを考えてきた。そのために組織に入って、そのために人を殺して、そのために…


「…なのになんで、私はお前を殺すことすらできないの…なんで!家族の仇がいるっていうのに、殺したいと、思わないの?」


「…そういえば、一個聞いてもいいかな?俺の名前、どこで知ったの?…」


雨が降り続ける中、彼は軽蔑するような目で私を睨む。


「…簡単なことよ。姿形は変わっていても、あなただって、なぜかわかるもの…」


「…」


私たちは互いに武器を取り合い、本気で殺し合う。雨で濡れる髪の毛さへ、殺気を感じない背中さへ、愛おしそうな瞳まで、今は彼が、彼のすべてが愛おしい。


「…ほんとに、どうしちゃったんだろ、私…」


心臓を一突き。父の形見の短剣で刺された。彼の顔がだんだん見えなくなる。


「…ごめんな。こっちもこういう仕事中だったんだよ。水原 日葵を殺せってな。…お前はもう頑張り過ぎた。俺が憎く無けりゃ今度は俺がお前を迎えに行くぜ」


「…ふふっ。バカ…」


「…糸守 拓人。終わったか?」


「ほんと、いっつもどこから出て来るんスか?上層部殿?」


「…この仕事、受けてくれて助かった。礼を言う。」


「まぁ、こいつ強すぎるんで、俺ぐらいじゃないとダメだったっスよ~。報酬弾んでくださいね。」


「あぁ、考えておく。それより、雨が上がってしまった。このままでは目立ってしまう。早く中へ。」


「へぇ~い。…なぁ、‟水原”さん。どうして娘を?」


「…日葵は殺しを知ってしまった。殺しを知ってしまったらもう元には戻れない。お前だって知ってるだろ。…戻れず苦しむだけならせめて、最後に人としての感情を味わって欲しかった。それだけだ」


「…水原さん、俺……初めて失恋しましたわ!」




いつかまた、あの屋上で、あなたと…

                                              END
















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