097 第三十七話 リサステーション(甦生)04
『あのー、アキムさん』
『なんですか、シャロンさん』
『さっきアリサさんがケンツに説明していたとき、「ある聖女の恋人の復活を試みたが、たった一夜の命が戻っただけで、日が昇ると消滅してしまった」って言っていましたけど、もしかして……』
『うん、僕だね!シャロンさんはケンツくんの命を奪う寸前に自害したけど、僕の恋人の聖女は残念ながら魅了の度合いが深かったんだ。それで完堕ちしちゃって僕を刺し殺しちゃったんだよ。勇者の魅了って怖いよねぇ』
「ええ!?アキムさんの恋人も魅了に!?それで甦生は……」
「その甦生なんだけどね、聖女四人がかりで頑張ってくれて、奇跡的に甦生に成功したかのように見えたんだけどさぁ……死んでから一年ほど経っていたのと、月の魔力に頼り過ぎたせいで、その晩の月が出ている間だけの短い甦生になっちゃたんだ。』
アキムはあっけらかんと言い放った。
そこに悲愴感などは全く感じられず、シャロン(霊体)は『この人ほんとうに死んでいるのかしら?』と思わず勘ぐってしまう。
でも、アキムの話した内容は悲惨なものだ。
シャロンは、自分がケンツを刺し殺してしまった可能性を想像してしまい、今さらながらゾッとした。
『スラヴエリア担当の僕が、何で今夜だけはリットールに出張なのか理由がわかったよ。きっと今回の事情を知った死神様が、気を利かせて僕を派遣してくれたんだな』
『そうなんですか?』
『間違いないと思うよ。僕ら死神の使いはさ、普通は魂を見つけたら問答無用で即確保・即冥界送りが鉄則だからさ。こんなにのんびりと下界に留まったりしないよ。
ま、聖女が二人だけじゃ甦生できる可能性は限りなくゼロだとは思うけど、それでも彼らの頑張りを見守ろうじゃないか!』
『甦生できる可能性は限りなくゼロ……』
厳しい現実を突きつけられて、シャロン(霊体)の顔色がズーンと重くなった。
『アキムさん、自分で死んでおいてこんな事言うのはアレなんですけど……やっぱり私、ケンツと離れたくありません!甦生なんとかなりませんか!?』
『いやぁ、シャロンさんだけ特別扱いはちょっと……』
『じゃあ……じゃあ、甦生に失敗したらケンツに憑りついちゃ駄目ですか?私、ケンツの守護霊になります!』
『シャロンさん、憑りつくってそれ守護霊じゃないから!普通に悪霊の所業だから!除霊の対象だから!絶対ダメ!』
『ふえーん!ケンツ~~~~!』
『ほらほら泣かないで。そろそろ始まるよ!』
死神の使いアキムに促され、いささかぐずりながら下界のケンツ達を見守るシャロンだった。
*
「あの、さっきはすみません。暗くて顔がわからなくて……ユリウスさんの御友人ですよね?」
バークはヒロキとアカリに謝罪した。
実はバークはユリウスとこの再開発エリアに向かう途中、ヒロキとアカリに遭遇していたのだ。
「良かった、思い出してくれたか」
「さっきはいきなり全力で斬りかかって来るだあもん。何事かと思ったよぉ」
「まあ気持ちはわかるぜ、こんな時に新たな召喚勇者の登場なんて、冗談にもなっていないよな」
「私達、全然気にしてないからね」
ヒロキとアカリは苦笑いしながら、先程の件を水に流した。
「そろそろだな……」
ユリウスがボソリと呟いた。
天空の月が最も高く上がった頃、いよいよシャロンの甦生が始まる。
「そうですね、はじめましょうか。皆さん、こちらへ」
アリサは皆に号令をかけた。
即席の台に寝かされたシャロンの周りに、(アリサの邪魔にならない用に)少し距離を置いて囲むように皆が集まる。
「それじゃ、まず第一段階!」
「「 ホーリーピュアファイ! 」」
― キュウウウウウウウウウン……
聖女アリサと聖女アカリの浄化魔法により、辺りが徹底的に浄化されて清らかな空気に包まれる!
「すげえな、やはりホーリーピュアファイって洗濯と風呂の魔法じゃなかったんだ」
「このところ洗濯と風呂代わりにしか使ってないし、否定はしないけどね」
「乾燥もきくし便利だよねー」
俺とアリサとアカリの緊張感の無い会話。
ありがたい聖女の魔法を便利な生活魔法がわりに使うと言う贅沢ぶりに、今さらながらユリウスとヒロキが苦笑いする。
ちなみにこのホーリーピュアファイをテラリューム系教会でお願いしたら、最低50万ルブル(日本円で50万円)の献金が必要になるらしい。
「じゃあ次、第二段階ミヤビさん、お願いします」
「はーい♪」
― どろん
現人神ミヤビはラミア形態に戻り、夜空に向かい両腕を広げた。
「サブグラビティーレンズ!」
― ギュギュギュギュギュウウウウウウン…………ドンッ!
「おわっ!?」
「「ひゃあっ!」」
「なん……だと……!?」
「「凄い!!」
「ほへー!」
「ほう……」
俺、アリサとアカリ、バーク、キュイとキリスは、いきなりのとんでも現象に腰を抜かすほど驚き、ユリウスと召喚勇者ヒロキは感心して見上げている。
そのとんでも現象とは、天空の月の大きさが何百倍にも膨れ上がるというもの!
おかげで地表が昼間のように煌煌と照らされている。
「アリサさん、これでどうかな?」
「凄いです!これなら月の魔力を存分に使えますよ!」
運よく今日は満月、月の魔力が最も強い夜。
アリサは聖女の力不足を補うために、月の魔力を増幅して活用したのだ。
「そうか!シャロンが死んだあと、アリサが月を見ていたのはこういうワケだったんだな!」
俺はポンと手を叩き、やたら月に顔を向けていたアリサの仕草に合点がいった。
同時に、俺がシャロンの死で絶望し悲しみ涙を流してとき、すでにアリサはシャロン甦生の段取りを考えていた事に驚きそして深く感謝した。
「アリサはずっと早くからシャロンの甦生を考えてくれていたんだな。すまねえ、ありがとう。それなのに俺はメソメソグスグスと……」
「気にしないで、誰でもそうなって当然だから。私だって想い人が消えた時は、ショックのあまりその場で気絶して寝込んだのよ」
アリサはそう言うと、踵を返してアカリと最終打ち合わせに入った。
「よし、いよいよ最終段階。アカリ、やるわよ!」
「オッケー!」
アリサとアカリはシャロンの両側に立ち、お互いの手を握り合い詠唱準備を始めた。
「無詠唱ではなく詠唱を必要とするのか。さすが甦生の術だけあっていろいろとモノモノしいぜ」
厳格な振る舞いで粛々と準備するアリサとアカリに期待していると、ユリウスが耳元で囁いた。
「これから使う聖女の禁忌魔法、リサステーションは膨大な魔力を必要とするんだ。無限の魔力を誇る聖女でさえ、一時的に魔力切れを起こして倒れる事もあるんだぜ」
聖女が魔力切れだと!?
じゃあ、チャンスは一度きりか!
頼む、成功してくれよ!なんとしてもシャロンを!
……
待てよ、魔力切れ?
召喚聖女アカリは大丈夫なのか?召喚者は魔力切れを起こすのはヤバイんじゃ……
「スラヴの召喚者を甘く見るなよ。その問題はすでに対策済みだ」
ユリウスはニヤリと笑い、離れた場所にいるヒロキも人差指をフリフリさせ問題無しをアピールした。
はぁ、やつらの国はいろいろと進んでいるんだな。
連邦なんて進むどころか、いろいろと隠蔽して無かった事にするもんな。
おかげで何も進歩しないぜ。
こりゃ万が一スラヴ王国とアドレア連邦が戦争になったら、確実にうちが負けるな。
「ケンツさん、いよいよですよ!」
「お、おう。頼むぜアリサ!そしてアカリ!」
アリサとアカリは呼吸を同調させ、ついで魔力を同調させる。
金色に煌めく粒子が舞い始め、二人の聖女とシャロンを中心に渦を巻きだした!
「開け、冥界への回廊 創造の女神テラリュームの名において、彼方の者を呼び戻せ!」
「「 リサステーション! 」」
― ブワッ!
二人の聖女がリサステーションを唱えると、金色の粒子が一気に膨れ上がった!
そしてシャロンの心臓が鼓動をしだし、顔の血の気が戻り始める!
「やった、成功したぞ!」
成功を確信して、俺は飛び上がって喜んだ!
もちろん俺だけでなくバーク、キュイ、キリスもワッと歓声をあげる!
なんだよ、簡単に成功したじゃねーか!
成功したら奇跡とかって散々脅かしやがって!
て、ん?
「…………」
アリサの様子がなんか変だぞ?
「ダメ、届かなかったわ……」
アリサは重い表情で俺達の喜びを打ち消した。
4月11日、バーク・ヒロキ・アカリの件を追記しました。
姉妹作品との連携処置ですので、ストーリー上の変化は何もありません。




