053 第二十一話 バロンの回想と召喚勇者 01
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サブタイトル変更しました。
「「ユキマサのアニキ!」」
「おうっ」
俺達の前には、召喚勇者ユキマサの姿があった。
ユキマサ――
三年程前、アース世界と呼ばれる異世界よりアドレア連邦中央政府が召喚した召喚勇者。
年齢21歳。金色に染めた短髪、身長は180センチを超えるやや大柄な男だ。
勇者らしく御大層な聖剣を携えているが、こいつが持つと何故か禍々しい魔剣に見えるぜ。
「なんだぁ?おまえら顔が少し腫れてるじゃねーか。喧嘩でもしたのか?」
― マジマジ……
俺達の腫れた顔に興味を持ったユキマサがマジマジと覗き込む。
「いえ……」
「なんでも……」
散々コケにしてきたケンツと勝負してボロ負けしたなんて、かっこ悪くて口が裂けても言えねえ。
言えば酒のつまみに根ほり葉ほり聞かれて弄られるのがオチだ。
くそっ、かっこ悪い。これも全てケンツのせいだ。あの野郎、絶対に許さねぇ!
しかし、悔しさが余程顔ににじみ出て居たのか、ユキマサはさらにズケズケと聞いてきた。
「おいおい兄弟、水臭いじゃないか。面白い話なら力になってやってもいいんだぜ?」
ん、力になってくれる?
俺はブルーノと顔を見合わせた。
「本当ですか!?」
「おい、こりゃあケンツに一泡吹かせられるぜ」
「いやいや、それどころかヤツの女共も手中に収められるぞ!」
「ユキマサのアニキ、相談に乗って貰えますか!」
「んじゃ、ちょいと場所を変えようか」
俺達はユキマサの後に付いてとある酒場に入った。
テーブル席に座り、ユキマサは両脇に女を侍らせ腰に手を回す。
女達の恍惚とした表情から察するに、どうやらユキマサに魅了漬けにされているようだ。
なるほど、こいつが【勇者の魅了】って外法なわけか。
女達は育ちが良さそうな身なりをしているが、その目にはユキマサに対する情欲の炎が揺らいでいる。まるで発情したヤマネコのようだ。
まったく、召喚勇者ってのは羨ましいスキルを持ってやがるぜ。
「なるほどな、そりゃあオメーらムカつくよな」
「そうなんですよ。俺達があんなゴミムシに負けるなんてありえねーんです!」
「絶対何かズルしてるんですよ。何しろヤツには前科がありますからね」
「ふーん、二級冒険者ケンツねぇ?ま、俺にとっちゃ二級だろうと特級だろうとかわらんがな。んー、よしわかった。いま抱えてる仕事終わったら、そのケンツとかいう冒険者を死なない程度に潰しておまえらに渡してやるよ」
「「ありがとうございます!」」
「で、アリサとシャロンだっけ?まあそうだな、少し味見してからおまえら回してやるよ。それくらいの役得が無けりゃな」
「えっ……」
「いや、それは……」
アリサはともかく、シャロンがユキマサに味見されると聞いては流石に顔色が変わる。
召喚勇者はすぐ女を魅了するからな。飽きて魅了を解かれた女は精神を壊され、自殺してしまう者も多いと聞く。
シャロンに自殺されちまったらたまらんぜ。
「なんだよ、まさかこの俺に女も抱かせずに頼もうってのか?」
「シャロンは勘弁して下さいよ」
「アリサって女の方も娼館に叩き売れる程度でなんとか……」
「ふん、まあそう心配するなって。いい感じに心を砕いてから回してやるから。おまえ達のいいなりになること間違いなしだぜ」
「はぁ、それなら……」
「どうか宜しくお願いします」
「おう、まかせとけって!がははははは!」
ユキマサはグラスに注がれた酒を一気飲みしてから下品に笑った。
ちっ、やはり無条件では譲ってくれねーか。
しかしこれ以上ゴネて機嫌を損ねたらやっかいだ。ここで折り合いをつけるか。
俺達は渋々了承するしかなかった。
こうなったらユキマサから何か金になるような情報でも引き出してやるか。そういや仕事がどうとか言ってたな……
「そう言えば仕事が入っているそうで」
「良ければ教えて下さいよ」
俺とブルーノは揉み手をしながら【媚びへつらいモード】に頭を切り替えて訊いた。
「それがな、俺の仲間が三人行方不明になってよ。どうもユリウスって男が関係しているらしくて探しているんだ。オメーら何か知らないか?」
ユリウス!?あの忌々しい男のことか!
俺達の脳裏に屈辱の記憶が鮮明に浮かぶ。
「ユリウスですって!?よーく知ってますぜ!」
「あの野郎も俺達をボコボコにしやがったんですよ!思い出しても腹が立つ!」
― ギリギリギリギリ……
俺とブルーノの歯ぎしりの音が、酒場中にキリキリと不快な音を立てて響く。
「なんだよ、オメーらやられてばかりだな」
「ぐぬぬ……」
「うぎぎ……」
「ははは。で、ユリウスはどんな野郎なんだ?」
俺達は知っている限りの情報をユキマサに話した。
身長180センチ弱、中肉中背、年齢は17か18くらい。どちらかと言えばイケメンな男だ。
ユリウスの接触は三週間ほど前になる。
俺達のパーティーが魔獣討伐に失敗してムシャクシャして冒険者ギルドに帰ってきたときの事だ。
俺は当時の事を回想しながらユキマサに話した。
*
三週間前、冒険者ギルド内――
その日、
俺とブルーノ、あと他三人のパーティーメンバーで、浮浪者同然のゴミムシ、ケンツを取り囲んでいた。
「よーう、ケンツ!仕事は貰えたのかい?」
― ボコッ!
「ゲフッ!」
「貰えるわけないわなぁ!ケンツ、テメーはゴミだ!冒険者の面汚しめ!」
― ベキッ!
「ギャンッ!」
「今日はクエストに失敗しちまってなぁ、テメーの身体で憂さ晴らしさせてもらうぜ!」
「構ってもらえて嬉しいだろう?オラ、踊れケンツ!オラオラオラオラ!」
― バキッ!ガスッ!ベコッ!ドカッ!
「やめろ、やめてくれ!バロン、ブルーノ、俺が何をしたって言うん……がはっ!!」
「「はぁ~?聞こえんな」」
俺達はケンツの言葉にカチンと来て、より一層強くボコり続ける。
『俺が何をしたって……』
はぁ?偽りの実力で俺を雑魚のように見ていたオマエが何を言う!
テメーの冒険者パーティー、一番星に入れて貰おうと必死で媚びたのに毎度毎度軽くあしらいやがって!
しかも、しかもしかもしかもしかもしかも!
挙句の果てに虚偽登録の可能性有りで三級冒険者に降格だと!?
何が『連邦認定勇者に最も近い男』だ!このイカサマ野郎め!!!
ケンツが勇者認定されりゃ連邦からケンツへたんまりと金が貰える。
そうすりゃケンツのパーティーにいるだけで巨額の不労所得が転がり込んで来る。
その為にヤツのパーティーに入れて貰おうと媚びて媚びて媚びまくったのに、全部全部ぜーんぶ無駄だったぜ!
テメーの絶好調だった頃、俺とブルーノは毎日テメーに媚びて媚びて媚びまくった。
『へへへ……ケンツさん、聞きましたよ。バークの野郎を叩きだしたんですって?』
『その穴埋めに俺達を入れてください!お願いしゃーす!』
『ダメだ、抜けたのはポーター役だぞ!オメーらは冒険者じゃねーか。そもそもオメーらは冒険者としても力量不足で足手纏いだ!』
『ポーターならうちの若い奴ら使ってくれていいっすよ』
『シャロンさんからもお願いしやすよ、この通り!』
『え、でも……』
『シャロン、相手するな!オメーらしつこいぞ!だいたいオメーらを入れたらバークを追い出した意味が無くなるだろうが!オメーらバーク以上にやべーわ!』
『そんなこと言わないで!』
『どうか助けると思って!』
『くどい!』
あの時は、こっちが下手に出てやっているのに偉そうにしやがって。
あー、思い出しても腹が立つ!
テメーに媚びた数だけ百倍にしてイジメてやるから覚悟しやがれ!
― ガスッ!ガスッ!ボコォォッ!
「いいぞ、もっとやれ!」
「そいつクセーし、そろそろ処分しちまえよ!」
他の冒険者達は、ケンツのやられる様を見て、指をさしてゲラゲラと笑う。
いいぞ、おまえらもっと笑え!笑ってコイツの精神を壊しちまえ!
「ふふふ、ざまぁ無いわねケンツさん♪」
受付嬢のベラも、ペロリと舌なめずりして、ケンツがボコられる様を見て愉悦に浸る。
そういやベラもケンツの女になろうと媚びていたからな。
コイツはコイツで、勇者ブランドで贅沢三昧を目論んでいたんだ。それなのにアテが外れてご立腹なのさ。
ベラよ、まかせておけ。今日もケンツをキッチリとボコってやるぜ。
「…………」
他のギルドの職員は完全無視。こいつらはベラを通して俺の手中にあるからな。
ギルド長とケイトを除けば誰も止めたりしねぇ。
おらおらケンツ、惨めに踊れ!踊って醜態をさらしやがれ!
はははははははっ!
そんないつもの見慣れた風景……のはずだった。
「おい、おまえらやめろ!」
突然、空気の読めねえ見慣れない野郎が止めに入ったのさ。




