017 第七話 激突!ケンツvsバーク R1 03
「では勝負始め!」
いよいよバーク相手の昇級試験が始まった。
バーク……こいつが俺と同じ魔法剣士になるなんて、ポーター時代を知る俺としちゃ信じられない思いだ。
しかも現在は一級の猛者ときている。
「ケンツさん、いつでもかかって来てください」
――ケンツさん、いつでもかかって来てください…………か。
試験官としては普通の接し方なんだろうけどな。
だがバークゥ……てめえにそう言われるとなんか腹立つんだよ!
『気に入らねぇ……本当に気に入らねぇ!!!!テメー如き速攻でブっちめてやらぁ!おらぁああああああああ!!!!!』
――と、叩きのめしてやりたいところだが、悔しいが今の俺ではバークには絶対に勝てねぇ。
こういう格上との真剣勝負は、〈毒の息吹〉や〈砂の目つぶし〉や〈閃光弾〉を使ってから正々堂々と叩きのめすべきだが、さすがにギルドの試験でそれやっちゃ失格だしな。
というか、対人戦って久しぶりだな。討伐依頼の魔獣や野獣相手とは勝手がまるで違う。
― すぅー、はぁー、すぅー、はぁー……
そうそう、まずは相手との呼吸の同期から始めてと……
そうすりゃ仕掛けるべきタイミングが見えて来る!
「はっ!」
― ドンッ!
低姿勢からの強力な踏み込み!そこから一気にバークの間合に入り込む!
「スタビング!」
― グオッ!!!
剣先をヤツのあばら骨の下から心臓目指して穿つ!
「むっ!?」
バークの顔色が変わり、漆黒の剣で受け流そうとする。
しかしそこからさらに超低姿勢になりスライディングでの足払い!
― ズザザザザ!
砂ぼこりが濛々と立ち昇る中で、バークは不安定な姿勢からバックステップで足払いを躱す!
「ちっ、奇襲失敗か」
まあ、そうだろうな。こんなので一撃与えられるような相手じゃねぇわ。
「ギャハハハハハハ!なんだよ今のわ!」
「ケンツの野郎、技を出す瞬間に勝手に転びやがったぜ!」
「さすがケンツだ、いつだって俺達に笑いを提供してくれる!」
どっと湧き上がるギャラリー達。
へっ、勝手に笑ってろ。
それよりバークは思った通り打ってはこなかったな。
それにしても今のスタビングはかなり鋭かった。やはり剣が軽くなった分、剣速がかなり上がっている。
バークの野郎も少し驚いてやがるぜ。
俺はすぐ立ち上がり構え直す。
「こぉぉぉぉぉぉ……」
そして長い呼吸で気を練り直す。
これは剣士や魔法剣士にはない呼吸法。愛するシャロンから教えてもらった武闘家の呼吸法だ。
昔はこれで格上の魔獣と渡り合ったもんだ。いつの頃からか全く使わなくなってしまったが。
ミチミチと身体がはち切れんばかりに気が充実したところで、
― ドンッ!
俺は弾かれたように再びバークに突撃する。
「オーラブレード!」
真横一文字に気が満ちた、亜音速の斬撃が走る!
バークはそれを当たり前のように躱す。
そうだろうよ、わかってるよ、これくらい躱すヤツでなけりゃシャロンを預けたりしねーよ!
「こんちくしょうめ!」
そこからは俺の一方的な乱撃が続く!
― ザンッ! バシュッ! ギュリリリ……ガキンッ!
しかしバークは俺の繰り出した斬撃を、涼しい顔して全て躱す。
それが俺を余計に苛たたせる!
ちくしょう、俺の思っていた以上に、バークとの実力差は大きいのかもしれねぇ。
「ひゃははは、見ろよアレ。全然かすりもしないぜ!」
「ゴミムシがバークさんに叶うわけないだろ、身の程を知れや!」
「バーカ!バーカ!」
「バークさん、なるべく惨めにやっちゃってください!」
相変わらず俺を揶揄するギャラリーたち。
全くイライラするぜ!……ん?
「おい……ケンツの奴、あんなにやれるヤツだったか?」
「認めたく無くないが、ありゃ俺より強いかも」
「元とはいえ《国家認定勇者に最も近い男》と噂された男だからな」
「ゴミムシとバカにして忘れていたが、あいつも俺達と同じ三級冒険者なんだよな。それにしてもヤツの斬撃のスピード……ありゃ三級レベルじゃないぞ!?」
俺の評価が二分されている?
俺を相変わらずバカにしているのは、概ね四級以下の低ランク冒険者。
しかし、ある程度経験を重ね、実力が伸び悩む三級以上の冒険者達は違う。
神妙な顔で俺の戦いを観戦……いや、観察している。
ふん、実力が近いが故に、改めて俺の実力に気付いたようだな。
とは言え、まだ低レベルな次元だけどな……
「じゃあケンツさん、今度はこちらから行きますよ!」
― ヒュンッ!
「っ…………!?」
くっ、バークが反撃に転じやがった!
わかってたよ、全然本気じゃなかったってことくらいな!だって全然攻撃してこなかったもん。
バークの攻撃は、最初は三級下位の攻撃程度から始まり、三級中位、三級上位へと徐々に力加減を上げていく。
昇級試験だから、受験者の技量を計る模範的な試合運びなんだが、俺には遊ばれてるような気がしてイライラが溜まって行く。
― ギュンッ! ザンッ! ギュリリリ……ビュンッ!
「ぐっ、この野郎!」
俺は必死でバークの斬撃を躱すか受け流す!
「くっ、耐えてくれよ、俺の剣!」
前の剣と違って今の剣は軽量で斬撃スピードは遥かに向上し、手数が多くなった。
しかしだ。
反面、一撃一撃の重さは少し軽くなり、剣自体の耐久性もそれほど強くない為に、バークの斬撃に剣を合わせるような使い方が出来ねぇ。
イチイチ剣を合わせて防御すれば、そのうちこちらの剣が砕けちまう。
必殺の一撃を与える為、なんとしても温存させねば!
「こぉぉぉぉぉぉ……」
俺は呼吸を整えてピリピリするほど全神経を集中させ、バークの動きを予測する!
最小の動きでバークの乱撃を躱す!受け流す!
今のバークは二級中位程度の力加減ってところか、まだまだ本気には程遠いな。
― ビシッ! ギュリリィ…… ザシュッ!
ギルドの昇級試験では、試験官と受験者は特殊な保護結界により守られている。
小さな怪我はしても、致命傷を負う事はまず無い。
結界を超えて致命傷を与えるなど一級上位クラス以上でないと無理だ。
しかし俺は気づいている。こいつの実力は、恐らく最低でも一級中位だ!
今は一見互角のように見えてもこっちは必死、バークは汗もかかずに涼しい顔をしてやがる。
もしかすると完全に本気になれば保護結界を破り、俺なんか消し飛んじまうのかも知れねぇ。
「ああ、本当に腹が立つ!」
バークの涼しい顔を見て改めて思った。今の俺じゃ絶対に勝てねぇ。
だったらどうせ勝てないにしろ、テメーの真の力を引きずり出してやるぜ!
そんなイライラしている俺に対して、バークは十分試験評価を下せたと思ったのか、俺はヤツの僅かに弛緩した空気を感じ取った。
「待っていたぜ、テメーが気を緩めるのをよう!」




