アヴァロンの賢者
---アヴァロン 王宮 とある部屋
「じゃ、みんな!俺、現代に帰るよ!」
暁 祝二は床に魔方陣を描く作業を終え、振り返りそう言った。
「シュウ君、本当に行っちゃうの?」
この国の王妃であるセラフィアは祝二に問う。
「そりゃあ、死んだじいちゃんとの約束だしね・・・」
「さみしくなりますね。私は現代社会についてはわかりませんけど、頑張ってくださいね」
「あはは、セラ姉向こうは魔物なんていないし、そもそも日本でそんなに危険はないから大丈夫だよ」
「まあ、確かに日本で危険は余程無いとは思いますが・・・恐らく私の見立てでは現代にも魔術師はいると考えたほうが良いと思いますよ」
祝二の言葉に、セラフィアの隣にいるメガネの白い髪の男性は優しく諭した。
彼の名は黒井 海祝二と共に異世界からアヴァロンに召喚され、共に旅し、当時まだ12歳であった祝二に現代の勉強を教えた。祝二にとって良き兄であり、良き教師の様な存在である。
また、その白い髪と優しい見た目から祝二は彼をシロ兄と呼んでいる。
「シロ兄の言う通り、現代にも魔術師は残っている可能性はあるよ。大賢者マーリンの手記からもそれは読み取れる。でも、戻ってそこらの魔術師にこのアヴァロンの賢者と呼ばれる俺がやられると思う?」
「シュウ、そうゆうすぐ調子に乗る悪いところが出ています。調子に乗って痛い目にあったこともあるでしょう?」
「わーわー、旅立ちを前にお説教なんて聞きたくない。ルーク兄も何とか言ってやって」
祝二は耳を手で押さえながら、セラフィアの隣にいるもう一人の豪華な装いの男性に声を掛けた。
彼はルーク・エスペランザ。勇者であり、世界を救った後にセラフィアと結婚したことで現国王となった。
「はぁーまったく。シロ、その辺にしておけ。シュウの言う通りシュウに実際に敵う奴などほぼいないだろう。それにシュウももう15歳だ。アヴァロンで言えば成人になる、いくら現代の日本の成人は18歳だと言っても少し過保護が過ぎるというものだぞ」
「ですが、ルーク!・・・いえ、そうですね。シュウも、もう高校生になるんですもんね。頑張るんですよ、シュウ」
「シュウ、辛くなったら何時でも帰ってきていいんだからな、ここがお前の家なんだからな」
諭された海とルークがそれぞれシュウに激励の言葉を掛ける。
「シロ兄、ルーク兄、俺頑張ってくるよ。そこまで、気軽に行き来は難しいと思うけど、長期休暇の時なんかはこっちに来るよ。っと、そろそろ行くよ3人とも、またね!!」
祝二は潤む目をごまかす様に元気な声で別れを告げ、先程書き上げた魔方陣の中に飛び込み---
【空間よ】
---魔方陣の起動言語を口にし、その場から姿を消したのであった。