教会へ
住処の森をたってしばらくした頃、レダが探していたらしき薬の材料となる[ナオレ草]を幸運にも道中で見つけたので、一度足を止め片手を使って調達していく。
手に余りそうになったら収納していくので、塞がることはない。
もう片手には、二人を入れた圧縮された空間があるから下手に激しく動かせない……今は、前世で聞く忍者走りのように静かに走るよう意識している。
「ナルガスにいちゃんすごいー!」
「知らないうちにここまでできるようになってたなんて……逆に私が教わらなければならないかもね。」
レダと母さんそれぞれから、俺を誉めてくれている。思わず歯を見せるように笑いながら移動していた俺。
このまま森の出口を抜けて町に出ようとした時、前方の茂みから現れてきた青みのかかった大きな熊型のモンスター[アッシラー]が行く手を塞ぐかのように後ろ足で立ち上がり、威嚇してきた。
思わず立ち止まってしまったが、武器さえ振るえばこいつ程度なら簡単に倒せるだろう。
ただ今は二人がいる空間を持っている上、森の外は目の前。二人にはこの熊を倒すまでの間、更に空間圧縮してポケットの中にでも入っててもらう。
「二人とも、ちょっとあのアッシラーを倒すから更に小さくしてポケットに入ってもらうけど良い?激しく揺れるけど」
「「えっ…」」
一方的に告げてから空間圧縮を更にかけ、二人の入った空間をポケットへと突っ込む。
両手が空いたおかげで存分に爪攻撃ができる!
俺が不敵な笑みを浮かべながらアッシラーへと対峙すると、相手はびびって尻尾巻いて逃げ出した。
「…えぇ~~?」
まさかの不戦勝で終わってしまった……思いっきり戦おうとせっかく準備したのが無駄に終わってしまい、大きくへこんでしまう。
結果的に危機は去ったけど、どうもモヤモヤした気持ちが収まらなくなって仕方ない。
とりあえず二人の入ってる空間を出そう。
小さくしていた空間を片手で持てる大きさまで戻してから、移動を再開した。
「…えっとナルガス?アッシラーと戦うんじゃなかったの?」
「……逃げられた」
膨れっ面を隠すこともできないくらいの不満顔で、俺は答えた。
「えっ?あの凶暴なアッシラーが逃げる?そんな怖がるような事をあなたはしてたの?」
「ナルガスお兄ちゃん、おこる顔こわいもんね」
レダ、笑ってただけで逃げられたんだよって正直言いたいけど尚更怖がられそうだよなぁ……また泣きかけてるし。
とりあえず逃げたアッシラーはいつかきっちり倒して、肉料理の材料にしてやるぞ。
そろそろ森の木々を抜けると、その先には辺り一面がまるで黄色いじゅうたんのような草が広がっており、前方に小高い丘が見え始めた。
「お兄ちゃんたち、あのおかの向こうが私のすんでる町[ゼンドラン]だよ!」
レダが中から嬉しそうに話しかけてきた。
見渡してみるがもう脅威は無さそうなので、二人の入っていた空間を地面に置き、拡張した。
「…んん~!良い空気の所ね。」
「えへへ…早くいこっ!」
レダが母さんの手をひいて小走りにかけていく姿を見てると、もうこのまま家族になっても良いんじゃないかとさえ思えてくる。
二人を乗せていたイカダ(?)を収納してから、後に続くように俺もついていく。
だが万が一に備えて町に入るまではサーチをかけておこう。
いざとなったら、二人をまた空間に入れて逃げれば良いからね。
小高い丘を登ると、その先に見えるのは大きな風車を中心にして大きな道の左右に大小様々な建物が建っていた。
「でっかい町だなぁ~!」
思わず声を出してしまうほどの迫力だった。
ここなら、教会も小説マンガみたいに冒険者ギルドってのもきっとあるはず!
でもまずはレダを家に送り届けるのが先かな。
「お母さん、教会へ行く前にレダを家に送った方がいいかな?」
「その方が良いわね。レダちゃんもそれで良い?」
「えーっ?もっと一緒にいたいよー」
ダダをこねてしまった。
「うーん、そうは言っても私たちは教会にも行きたいんだけど……退屈でも一緒に来る?」
「いく!それにわたしの家、教会のとなりだもん。」
なるほど、それはかえって都合が良いな。
それなら用事がすみ次第レダの父親に会えるかも知れない。
だったら今のうちに、レダにナオレ草を渡しとこう。
「レダ、これはレダがお父さんに渡してあげなよ。」
「うん。ありがとう!」
いよいよ町に入ろうとするところで、二人の門番が急に行く手を阻む。
「おっと待ちな?この町に入りたいなら金を払ってからにしろ。」
「そうだそうだ!それとレダ、勝手に外に出やがって。金を払えねぇやつの癖に良い度胸だな?」
「だって、おとうさんを助けたいから薬のざいりょーが欲しくっていったんだもん……悪くないもん!」
なんだ、この感じの悪い門番たちは。子供相手にたかって泣かせるなんて最低だろ。
「あなたたち‼︎子供相手に何いってるのよ!」
お母さんも当然怒りはじめた。
「ああ~?文句言うならあんたが払ってくれても良いんだぞ?ここではそれが決まりなんだから、大人しく従っておいた方が良いぜぇ~」
「どうしてもって言うんなら、俺たちと裸の遊びに付き合ってくれよ。そうすりゃあんただけは通してやらなくもないぜ?ぎゃははは‼︎」
「~~~‼︎」
母さんが真っ赤な顔をして怒りをあらわにしている。
レダも俺の隣で泣いていたので、俺は無言でレダの手をひいて母さんの手を繋がせてからクソ門番二人の前に立った。
二人は突然の俺の行動にふと目を見開いて、何が起きるのか分からずにいた。
「んお?なんだぼーず、俺たちに文句か。」
「おもしれ~、遠慮なく言ってみてくだちゃーい!ギャハハは‼︎」
フザケンナヨ
「……れ」
「「お?」」
「うるさい、だまれ」
「「「「⁉︎」」」」
怒りで我を忘れそうなほど深く低い声が、5歳児である俺の口からもれ出た。
レダも母さんも、目の前にいた門番二人すらも恐怖で震え上がってしまっている。
そんなことはお構いなしで、俺は門番達の前に一歩ずつ進んでいくと彼らは恐怖にひきつった顔で後ずさりし、ついには逃げ腰になった。
「お母さんとレダをいじめるのなら、俺が相手をする。」
殺気を込めた発言を聞くと、今度こそ門番たちは町の奥へと逃げ出してしまった。
しばらくして冷静さを取り戻した俺は、ゆっくりと後ろにいる二人を見やると……
「「ひッ!」」
めっちゃビビってるし。
まあ俺も誰かにあんなムカついた事はないから、自分でも今更ながら驚いてる。
でも、大人の男二人が怯えるほどの事なのかな?
とりあえず二人がこれ以上怖がらないように、普段通りに笑いかけて語ってみた。
「ごめんね母さん、レダ。突然怖がらせちゃったみたいで」
「えっ……あ、ううん!ありがとうナルガス」
「…お兄ちゃん、もう怖くない?」
「ああ、もう大丈夫だ。」
「うん…ありがと」
危ない危ない、危うく理性が飛びかけていたわ。
流石に相手を殺してしまうと町にいづらくなるから控えないといけない。
なんかこっちの世界に来てから感情が強く現れてるような気がするけど、前世では逆に大人しすぎた方た方なのか?
ひとまず町に入れるようになったんだから最初の目的地、教会に行って神様に会わなくちゃ!多分また小言言われるのだろうけど。
俺たち三人は、そこからは問題なく教会の前にまでたどり着く事ができた。
何故か通りをすれ違うと通行人達からさりげなく道を譲られていく形だったので、誰かともめる事なく進めたのだ。
やっぱ、門番をビビらせたのが原因なんだろうなと思う。
だってあまりにもムカついたんだから仕方ないだろう?と心の中で弁解しながら、三人揃って教会に入って行った。
中に見えるのは、正面に猫族の綺麗な女性像が大きく存在していて、その手前には赤いカーテンのような幕がひかれている。
そこから一人ずつくぐって、礼拝を済ませている人達がいた。
周りには木製でできた長机と長い椅子が所狭しとたくさんの列が並べられている。
外からは少しみすぼらしい印象があったけど、中はまるっきり別世界みたいな雰囲気が漂っていた。
前世では全く興味は無かったから知らないけど、あの猫族の女性像後ろにある十字架みたいなやつは見覚えがある。よく結婚式のCMに映ってた。
二人が俺の前で順番を待っていて、先の人が出てきたらレダが最初に入っていく。
少し時間がたってからレダが出てくると、次に母さんが入って行った。
俺は祈りの作法とかさっぱり分からないから、今のうちにレダに聞いてみた。
「んー?特に決まったことはしてないよ。
えっと、目をつむってりょうてを組んで心の中でお祈りするの。」
分かりやすく教えてくれたので、それくらいなら俺でもできそうだと思った。
ちょうど今、お母さんがお祈りから戻ってきたようなのでどんなお祈りをしたのか聞いてみた。
「そうね、お父さんが無事に見つかる事とできたらレダちゃんが家族になってくれたらいいなって!」
「えへへ〜」
母さんの言葉に、レダが照れ臭そうに反応する。
俺もその意見には賛成だけど、時折レダがこちらに熱い視線を度々送っては、真っ赤にした顔を両手で隠して恥ずかしそうに身悶えている。
いったい二人はあの家で何を話してたのか無性に気になってきた。
とにかく俺も神様にお祈りをしてこよう。二人は少し離れた所に立って待っててもらう……
祈りに入ると、まるで今いる場所が夢のように揺らいで転生前の神様の間にいた。
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「おー、なるか久しぶりだな。どうだ?この世界の感想は」
「こんなこと言いたくありませんが、畜生だらけで気分悪いです!家族とレダって子だけは別ですが。」
「はっはっは、素直な意見で結構だ!」
「笑い事じゃないですよ!魔物を従えてまで侵略を進めるひどい連中も癒せと言うんですか?正直いやですよ」
「……そうだな、やってることはまさに人間と変わらん。故に救いようのない愚か者に対しては俺が裁こう!だができれば、そうでないものを一人でも多く見つけて欲しい。」
「俺はあなたみたいに誰かを許せるほど、心は広くないんですよ?さっきも危うく憎ったらしい門番どもを殺そうと考えてたんですから。」
「無論そんなときは心の中で俺に文句を言っても構わん。
おまえは元々人だったのだから、ひどい人間の考え方をするやつを知っている分過ちを見逃す事はないだろう?」
「ケンカはするかもしれませんよ?良いんですか。」
「ケンカはおおいに結構だ。まあ中には誰かを人質にとる真似をするやつもいると思うが、そんな時こそおまえが持ってるもうひとつのスキル……
[神々の智恵]が必ず役立つから、絶えず使うがいい。」
「分かりました。あと、この世界での私の父親が行方不明なんで探してくれませんか?」
「ああーその事なら多分大丈夫だ。今はお前の母親とレダの前にいるが……驚くなよ?」
「えっと、それはどういう事ですか?」
「それは自分の目で見た方が良い。あと、今から渡すのは赤ん坊だったので渡せなかったこの国のお金だ。稼ぎながら大事に使え」
「は、はい。ありがとうございます」
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祈りが終わり幕をくぐってみると、目の前には確かに間違いなくお父さんがお母さんとレダの前に立っていた。
久しぶりの再開を喜んで俺はみんなの元に行く……が、なにやら様子がおかしいぞ?
レダがオロオロしててお母さんはお父さんに向けて怒り狂い、父さんは説得しようとなだめている。
俺が皆の近くに来たとき、レダが泣きついてきた。
「ナルガスにいちゃん!どうしよう、にいちゃんのお母さんとうちのお父さんがー!」
「え?え?」
「ナルガス……」
お父さんは俺の姿をまじまじと見ている。母さんは苦い顔をしてこちらを見ていた。
よくみるとレダに渡していたナオリ草は今、お父さんが持ってる…って事はひょっとして?
「あのね、お父さんも教会で私がぶじに帰るよう祈ってたんだって。
ナオリ草をわたして心配かけてごめんなさいしてたんだけど、二人が会ったらきゅうにケンカしちゃったの?」
「???」
「とりあえず、ちゃんと説明はするからみんな家にきて話を聞いてくれないか?」
「う、うん…」
「……分かったわ」
確かに、いつまでも教会の中で言い争ってると周りに迷惑だよな。
そんなわけで、教会の隣にあるお父さんと レダの家は俺とお母さんが暮らしていた所よりは少し広く、生活に必要な道具が十分に整っていた。
そして、他の部屋より少し広いキッチンで、四人でテーブルを囲み椅子に座る。
もちろんレダは背が届かないから、お父さんが抱き上げて乗せる形だ。
「じゃあ、早速聞かせてくれるかしら?正直生きていてくれたことはすごく嬉しいし、あなたの姿を見れて安心もしてる。でも何でレダのお父さんがあなたなの?」
「えっ?そうなの、お父さん」
「にいちゃん、怖いよぉ」
レダは訳が分からず怖がっている。そりゃそうだ、まだ3歳児なんだから。
俺は転生者だから気持ちは大人のつもりだけど、こんな修羅場を間近で見るとは思わなかったから、レダの手を優しく握って安心させていた。
「お前達の姿が見えなくなった後、俺も逃げようとしてゴブリンの目に砂をかけて怯んだ隙に近くにある森の木陰で身を潜め、大群がキョロキョロとこちらを探してる間、見つからないようじっとしていた。
すると、諦めたのか多くのモンスターが北の国に向かっていったのを確認して反対側にある南の町、この[ゼンドラン]を目指して旅をしていたんだ。」
「「………」」
俺とお母さんは黙って聞いている。
「お父さん?」
レダがお父さんを心配しているようだ。
「大丈夫だレダ。恐くないからな」
「うん」
「…そして長い間、森の中で動物型のモンスター達を狩りながら生きてきたんだが、避難して来たのがちょうど3年前。
目の前に一人の赤子を抱えた母親が俺と同じ方向に進んでいたのを見て、てっきり母さんとナルガスかと思って声をかけたんだが、相手は別人だった。」
「…って事は、あなたはその人と子作りした訳じゃないのね?」
「ああ、その女性がレダのお母さんだ。」
「お父さんは、ほんとーのお父さんじゃないの?」
「……今まで黙っててゴメンなレダ。もう少し大きくなってから言いたかったんだ」
「じゃあわたしのお母さんは?前に遠くに行ったってはなしてたよね?」
「それは間違ってはいない……だが」
父さんがやけにしゃべりにくそうにしている?
「あなた?」
「……レダ、それにナルガスと母さんも一緒に来て欲しい所がある。ついてきてもらって良いか?」
「え、ええ」
「わかった…」
「うん…」
向かった先は、教会の裏手にある広い墓地の端にある小さなお墓。
「「………」」
「お、お父さん?」
「ここに、レダの母さんは眠っている。遠い世界に旅だったんだ」
「……亡くなったのね」
「ああ」
「何で?お母さんはひどいびょうきだから、とおくに行って治してくるって言ってたのに!」
「もちろんはじめはそうだった。でも、馬車で移動している間静かに眠るかのように息をひきとってしまった……間に合わなかったんだ」
正直、父さんがこんな幼い子にこの事実をしゃべりたくなかった気持ちが強く伝わって来ると同時に、俺はレダにどんな言葉を伝えば良いか分からないまま隣でぎゅっと手を握る。
無言で手を少し強く握っていると、ポロポロと隣でレダが涙を流し泣きはじめた。
「…ひっ、ひっく!えぐっ!」
「レダ…」
俺はそっと正面に向けて抱き締める
「……うわああああん‼︎」
押し殺していた泣き声が辺りに響き渡る。
母さんは何も言えなくなって涙をこぼし、父さんも後悔の念を込めてかたく握り拳をつくっていた。
「レダ、お父さんは…」
「待ってあなた。今はそっとしてあげて」
「……分かった」
「ナルガス、しばらくレダちゃんをお願い。」
「うん…」
「う、うえええん」
気持ちが落ち着くまで、俺はレダを抱き締め続けていた。
彼女がだいぶ落ち着いて来たのを見計らってレダの顔にある涙を拭ってあげると、レダはこう言ってくる。
「お兄ちゃんは、ずっといっしょにいてよ…」
「ああ、一緒にいるから安心しろ。」
そう言うと、弱々しくも笑ってくれたレダ。
お母さんがお墓の中に戻ってきて、「家に一緒に入りましょう?」と言ってきたので、二人して頷いた。
これからはレダも家族だ…お母さんとお父さんも、きっとそう言ってくれるはず。
強い思いを胸に抱いて、レダと父さんが住む家に向かう。
何があっても、レダを守りたいと心の中で俺は誓った。
なんと、レダの父親とは東の国から逃げ延びていたナルガスの父親だった!
だが、彼女の母親は既に他界していた事を知りナルガスは彼女を慰める。
これからはレダを家族として迎え、共に暮らすことを固く心に誓ったナルガスであった。