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最後の鈴売り

作者: さのまる よかみち

●鈴売り...人間の欲望を叶える鈴を売る者、鈴を買った者は不幸になるがそれは等価交換の法則に基づいている。願いにはそれなりの代価がひつようなのだ


●1


公園のベンチでごろりとした高校生がいる。名は柏木かしわぎ たもつ画家のたまごである。


この公園にいる人達はその高校生の名前を誰も知らない。ベンチの前には片づけられてない、真っ白なキャンパスがある。柏木はこの公園の常連で絵を描き続けている。真っ昼間、がーごーと、いびきをかきながら柏木は昼寝をしている。


そんな日が朝から夜まで毎日毎日続いていた。


彼は自分の良いイメージで自分で自分を導いていった。狭い見解しか持たない柏木であるが悪い事をしてる訳ではない。自分の分身を絵という舞台で作り上げていきたいだけだった。


柏木は起きあがり愚痴を言った。『みんなどんな絵が好きなんだろう...売れる絵を描かねば食っていけない...夢中になって描いたとしても...波長の合うひとしかその絵を喜ばない....人の心は何を欲しているんだろう?』


●2


すると『お兄さん、絵描き屋さん?』と太極図の描かれたヘアバンドをした女の子が声をかけた。

『いや、まだ絵描きを名乗るほど絵の事をつかんではいない。そういう君は?』と柏木。


『笑うセールスマン『鈴売りです』』と女の子(以降鈴売り)。

『?...おかしな人だなぁ...』と柏木。


『願いを叶える鈴を売ってます。今なら1つ500円!お買い得ですよ』と鈴売り

『...(うさんくさい)...今、お金ないんだ』と柏木。


『ああ、この鈴売らないとえんまさまに怒られちゃうんですよ、お願いです。買ってください』と鈴売り


『そんなこと、言われても...そうだ!こうしよう。えんまさまという正邪の判断を下すお偉い霊からの命令なのだよな?(そんな神さんが1コ500円で願いを叶える商売しているのもおかしいが...)ならこの僕の絵を持っていって貰おう。一応画家のたまごの絵だ。500円ぐらいにはなるだろう...』と柏木。


スケッチブックを取り出していろいろな絵を見せる柏木。鈴売りは柏木の絵を見て褒めちぎり借金させてしまってもお金をふんだくろうとしていた。もちろん最初は500円だがあとからあとから難癖付けて、どんどん請求しようともくろんでいた。


だが柏木の絵を見ているうちに一つの絵に捕らわれた。鈴売りは急に泣きたくなった...。その絵は神の光の絵だった。そこには冷たく悲しく人間達が神様の光の届かない遠く遠くに行こうとしている...その嘆きが描かれていた。


でもそこには確かに神の光があった。


自分の汚れた心が恥ずかしくなる...いや柏木の絵は全てをこころや体の垢を綺麗に洗い流してくれる...素晴らしい絵だった。神様と同じ悲しみと哀愁を持って自らを振り返らせてくれる。


●3


『お兄さん、凄い絵です。』と鈴売り。

『えんまさまも500円の価値を認めてくれるかな?』と柏木。

『500円なんてそんな...私だったら千円出します。』と鈴売り。

『じゃ、君を描こう。モデルになってくれる?』と柏木。

『ええー???本当???嬉しい』と鈴売り。

『君から感じる光を描くから!』と柏木。


即座に描いてしまった。スケッチブックには綺麗なお姉さんが描かれていた。その絵を見て鈴売りはまた泣いてしまった。悲しくて泣いてるんじゃない。汚れた自分をここまでかみさまと同じように綺麗に描いてくれた事に嬉しくなって泣いてしまった。

『お兄さん、私はこんな綺麗な人間ではありません。人の願望をエサに多くの人を不幸にしてしまった鈴売りです。』と鈴売り。

『君の光を描いただけだよ。そうそう鈴貰えるかな? 』と柏木。

『???人の願望を叶える鈴が欲しいんですか???こんな神さんみたいな絵を描いていながら、人を感動させる力を持ったあなたが?』と鈴売り。

『ぼくはこう思う...人が自分の幸せだけを考えて自分を幸せにしても一人分の幸せしかできない。でもみんなのことを優先に考えている人はどうだろう。みんなを幸せにするとその人数分の幸せが10人幸せ、100人幸せとどんどん膨らんでいく。大きな幸せを産む。そんな幸せを描ける人間になりたい。だから今以上に神と仏と人を知り、人を勇気立たせたり、幸せになることを躊躇している人を後ろからトンと背中を押してあげたり、乱れた心の波長を神さんのチャンネルに合わせたり、そんな絵が描きたい...だから一人でも多くの人を幸せにする、願いを叶えたい。その為に大きな人間になるんだ。』と柏木。


鈴売りはますます自分の心がなんて自分勝手なんだと泣いてしまった。


●4


柏木は即興で太陽とひまわりの絵を描いて鈴売りに渡した。

『泣いてる人は星に似ている。笑う人は太陽に似ている。どちらも同じ恒星。光なんだ。泣いていようと笑っていようと君は君として堂々としてればいい。かみさまと同じ光を人間は忘れているだけだから』と柏木。


太陽とひまわりの絵を見た鈴売りはさらにぼろぼろぼろぼろ泣いてしまった。


『おにいさん、あなたを鈴売りの鈴で願望を叶えて不幸にしたくありません...だから私が自分でお兄さんの願いを叶えようと思います。』と鈴売り。


赤と青の組み紐についた鈴を三回鳴らした。


りーん、りーん、りーん。


鈴売りは言った。

『このお兄さんが大きな人間になれるように』


また3回、


りーん、りーん、りーん


鈴売りは消えた。公園も消えた。キャンパスもスケッチブックも何もかも...


●5


柏木保だけの意識を残して、全てが真っ白な世界にとけ込んで何の境もなく、高も低もなく大きく、いや大きいか小さいかわからない。目の前の白が10センチ先なのか1億メートル先なのか意識不明の状態によく似ている。これが大きいと言うことか?神や仏や人の真実なのか?いや違うこれは目隠しした状態となにも変わらない。


それに気づくと白い世界からTVの様な画像が前に表れ柏木の一生がみえた。


『柏木保...絵画大賞受賞』『柏木保...アニメーションコンテ大賞受賞』

『...人間国宝認定』

次から次へと賞を取っていく柏木保が現れていた。だがそこの絵には今の柏木保には満足できる物ではなかった...スピーチも人目を引く物ではあるが、中身がない。心なしか老人になった自分が幸せそうには見えなかった。


柏木は気づいてしまった。自分は人のためではなく自分の好きを追求したいだけだった。神も仏も人も関係ない。何の賞も関係ない。自分の好きをいつまでも追求したいだけだったのだ。また好きなあの娘と心を交わしたいだけだった。


白い世界が消え、黒い闇の世界となった。今度はえんま大王にしぼらる鈴売りがいた。そして地獄にいく鈴売り、追いかけようとしても自分の実体が宙に浮いてうまく動けない。声も出ない。ただ鈴売りの嘆き声が地獄の門の向こうから聴こえてくる。


悲しい


一度とはいえ鈴売りから神の光を感じとった。あんな娘が地獄に行くなんて耐えられない。えんまさまに掛け合おう。たとえ自分が地獄に堕ちても鈴売りを苦しめたくない、いや世界のみんなが地獄の苦しみから解放されて欲しい。そんな願いがどんどん出てきた...その時だったえんま大王の目から涙が出ていた。


あの涙は誰のために...


ただ一つ言えることはあの轟々しいいでたちのえんま大王から神の光を感じた。もしかすると、神や仏や人はみんな同じ心を持っているのかも知れない。みんなの事が好きなのにみんなが離れていく、そんな哀愁をみんなが感じていたのかも知れない...


あのえんまさまの涙をこんどはキャンパスに叩きつけよう。


●6


りーん、りーん、りーん


いつのまにか公園に帰ってきていた。夢?鈴売りはいない。夕方で日も暮れて公園の人は柏木だけのこり鈴売りの鈴がひとつ残っていた。えんまさまの絵を描きたくなりキャンパスに向かった。


絵を描いてるとき


鈴売りの地獄の苦しみを思い出し柏木は泣いていた。キャンパスのえんまさまも泣いていた。堪えられなくなった柏木は鈴を三回ならした。


りーん、りーん、りーん


『鈴売りがこの世界に戻るように』と柏木


りーん、りーん、りーん


鳴った。えんま様の涙の絵が消え、鈴売りが現れた。


『私は幸せをエサにして人を陥れる詐欺師です。あなたは知らないかもしれませんが、人を騙して生きるしか能のない者です。またこの世界に帰って来ては人に苦しみを与えてしまう...しかもお兄さんの大きな人間になりたい願いは取り消され...』

と鈴売り。

『...いいんだ...どんな生き物だって神の光を背負って生きている。君からは光を感じる。そんな人に苦しんで欲しくない...いろいろ言っているけど、僕は君のことを好きになった。それだけの事だよ...』と涙を拭きながら柏木。

『...う、うわーん』と鈴売りは泣きながら柏木に抱きついた。

『ありがとう、ありがとう、ありがとう...私も大好きよ...』と鈴売り。


風がびゅうっと吹いてもみじが舞った。

二人は赤いもみじの様に燃え上がりながら...。


●エピローグ


この後、鈴によって柏木保は不幸になる予定だったが、今回はえんまさまが不幸を帳消しにした。


えんまさまの泣いた絵はえんま様の元に届いていた。えんまさまの神々しい、そして悲しい心がシンクロしてぼろぼろぼろぼろ泣いてしまった。


鈴売りはその後、柏木保と結婚し小さい幸せに陶酔した。これは後の世の話だが、2人の息子はアメリカの大統領になって、ドラッグや銃犯罪、戦争破棄や官僚による不正を一新し英雄になった。


そして英雄の末路、暗殺される。


えんまさまは、またぼろぼろぼろぼろ泣いてしまうのであった。


-最後の鈴売り・終わり-


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