メアリ(きずな)06
ようやく出来上がった芋のスープは薄く透明で、ほとんど味がしなかったが、柔らかな甘さが全身に染み渡り、今まで食べたどんな物よりも美味しく感じた。それは、大勢で円になって同じものを口に運び、「温かくて、美味しいね」「いまいちだろ」「シュン、文句言わないの」「あー、ヨウちゃんが零しちゃった」「俺、拭くわ」「ほら泣かない、泣かない」などと賑やかなお喋りに溢れているからだということは、メアリにも重々分かっていた。
食事を終えると、エリーゼがメアを呼んだ。
「どうしたの?」
「ここ、座って」
メアリを前に座らせ、エリーゼはメアリの癖毛を櫛で梳かし始めた。メアリは慌てて振り向いた。
「待って、しばらく洗ってないの」
「いいから。ほら、じっとして」
エリーゼに肩を押され、しぶしぶメアリは前を向いた。考えてみれば、彼女は長い髪を綺麗に三つ編みに結わっていた。それと比べて、自分の無頓着さが恥ずかしく、惨めに思えた。けれど、エリーゼは優しい声で言った。
「綺麗な髪だから、結んでみたくなったの」
褒められたことなんて、初めてだった。
「見事な朱色。珍しくて、美しい」
「変じゃない?」
「まさか。羨ましいくらい」
一通り梳かされた髪を、後ろ手に高く束ねていく。穏やかに、エリーゼは語った。
「この櫛ね、親の形見なの」
「そっか。私は全部燃えちゃった」
「良い思い出ばっかりじゃないんだけどね。捨てられなくて。……ほら、できたよ」
結われた髪に触れると、いつもよりさらりと指の間を滑った。
「ありがとう、エリ」
振り向いて笑うと、エリーゼも柔らかく微笑んだ。
「可愛いよ、メア」
すると、双子がひょっこりと現れ、メアリの髪を仰ぎ見た。ヒマワリが明るく言う。
「似合ってるー」
アサガオがはにかんで言った。
「いい感じー」
足元でヨウが手を伸ばした。
「しっぽ」
シュンが近寄り、ヨウを抱え上げた。ヨウの小さな指先が、髪にぺちぺちと触れる。
「そうだな、馬のしっぽいたいだよな」
「もう、シュンも正直に可愛いって言いなよ」
エリーゼの言葉に、シュンが眉を吊り上げた。双子が囃し立てる。
「シュンちゃん、照れてるー」
「分かりやすいぞー、シュン」
「調子に乗り過ぎんなよ、お前ら!」
声を張り上げたシュンの腕の中で、ヨウが「あいー」と返事をしたので、一気に笑い声が弾けた。




