メアリ(きずな)04
シュンの後ろ姿が小屋に消えると、中からは笑い声や乱暴な足音、そして「もう、ヨウちゃんが起きちゃうから、静かにしなさい」と嗜める娘の声が聞こえてきた。
騒動の合間に、ひょいと先ほどの少女が入口から顔を出した。悪戯っぽく笑って言う。
「あたし、ヒマワリ。あんたは?」
「わたしは、メア……」
言い終わる前にヒマワリは引っ込み、しばらくもしない内に、ヒマワリと瓜二つの少年が現れた。
「おれ、アサガオ。あんたは?」
「わたしは、メア……」
瞬間、シュンが入口から勢いよく現れると、その隙を突くようにアサガオは身を屈め、小屋の中にぱっと姿を隠した。シュンは悔しげに舌打ちをし、メアリを見てにやりと笑った。
「この場所を知ったからには、生きては帰せねえな」
「めっ!」
高く愛らしい声に視線を向けると、シュンの足元に三歳くらいの幼児が立っていた。「め!」と繰り返しながら、小さな手でシュンの足をぺちぺちと叩いている。
控えめな笑い声と共に、三つ編みの娘が姿を見せ、ひょいと幼子を抱き上げた。
「シュンが野蛮なことばかり言うから、ヨウちゃんが怒ってるのよ」
「め、め、め」
「そんなことないよな?ヨウはそんな小さい奴じゃねえ」
「めーっ!」
ヨウと呼ばれた幼児の細い髪を撫でながら、娘はメアリに視線を向け、にこりと微笑んだ。
「こんにちは。わたし、エリーゼ」
「あ、わたしはメアリです」
照れながら応えると、ヒマワリとアサガオが入口から身を乗り出し、「メアだよー!」と叫び、くすくす笑った。
「メアって呼ばれているの?」
エリーゼに尋ねられ、メアリは困ったように首を傾げた。
「あの二人にだけ」
「お調子者だから。あの双子は」
「この短時間で、嫌ってほど分かった」
目が合うと、自然と笑いが溢れた。目尻を拭いながら、エリーゼは言う。
「シュンは自分勝手で我がままでしょう?」
「そう、勝手にわたしをここまで引っ張ってきたくせに、誰だ?って。酷くない?」
「酷い、酷い。わたしと初めて会った時もそうだった。俺について来い、って。何様なの?って感じ」
「えーっ、そんなの言う人、本当にいるんだ」
「お前ら、いい加減にしろよ」
苛立った声でシュンが割り入るが、意気投合したメアリとエリーゼは止まらない。
「いつも思うけど、人に向かってお前って呼ぶのも良くないよね」
「何だか見下していて、感じ悪い」
「うんうん、偉そう」
言い募っていると、ヨウが「めーっ!」と高く叫んだ。エリーゼが苦笑する。
「あら、ヨウちゃんに怒られちゃった。調子に乗って、日頃の不満を言い過ぎたね。ごめん、シュン」
「会ったばかりなのに、ごめんね」
興奮してエリーゼの腕の中で暴れて出したヨウを引き取り、小さな背をあやしながらシュンは言った。
「お前らが俺のことをどういう風に思っているか、よーく分かった」
シュンの肩に顎を乗せ、ヨウがきゃっきゃと笑う。得意げにシュンが口の端を引き上げた。
「だが、俺は心が広いから許してやる」
メアリとエリーゼは顔を見合わせ、「そういう所だよね」と肩を竦めた。




