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メアリ(きずな)01

 暗く静まり返った教会の地下で、フェレは指先の動きで青い炎を宙に宿し、古い書物をベラとアリスの前で開いた。覗き込むと、黄ばんだ今にも破れそうな紙に、褪せたインクで細い文字が綴られている。揺れる明かりに硬い表情を照らされ、フェレは言った。

「伝説の魔導師、メアリ=ルノアールとオズワルド=ディクソールの師である、コルネリエ=ルーベンス聖導師の手記です。ここに、彼女の知る全てが書き記されています」

 弟子の視線が文字列を追う前に、しかしフェレは本を閉じる。

「けれど、あなたたちはルノアールとディクソールの生まれ変わりです。これを読むよりも、彼らの記憶を辿る方が、より真実に近いものを感じ取れるでしょう」

「そんなことが、できるんですか」

 身を乗り出したベラに、フェレは神妙に頷く。

「ええ。二人の体に流れる魔力は、ルノアール、ディクソールと同一のもの。記憶も溶け込んでいるでしょう。彼らの師の手記を触媒に、その記憶を活性化させれば、あなた達も追体験できます」

「でも、危険なことなんですよね」

 アリスが重い口を開くと、僅かにフェレは眉根に皺を寄せた。

「キュカも言っていましたね、ヴィクイーンは記憶に飲み込まれて自我を失くしたと。前世の記憶を追いながらも、自分が何者なのかを魂に強く結びつけていないと、戻ってこれないかもしれません」

 炎が部屋の隅に払った暗闇が、ぐっとベラを飲み込もうとする。強く首を振り、胸元を握り締めてベラは口を開いた。

「大丈夫です。あたし達は、一人じゃないから。立ち竦んでも、手を引いてくれる人がいます」

 手を伸ばすと、アリスの手の平が力強く応える。

「前世を知っても、わたしはわたしにしかなれません。例え迷っても、ベラが繋ぎ止めてくれます」

 堂々とした宣言に、フェレは頬を緩め、緊張を解いた。二人に向け、手記を差し出す。

「良いでしょう、あなた達を信じます。さあ、これを両手で掴んでください」

 指示に従う弟子を見届けると、フェレは炎を消し去った。自分の輪郭さえ溶けそうな完全な闇に浸りながら、師は歌うように朗々と過去へいざなう。

「目を閉じて、本の感触に集中して。手触り、匂い、重量、その歴史。魔力が腹の底で疼くように感じるはずです。自分を飲み込もうとするその力に、身を委ねて。けれど、自分を手放してはいけません。良いですね、他者の記憶に自分を重ねても、決して自己を見失ってなってはいけないのです……」

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