フェレ(しんじて)12
すると、視界の中心で何かが激しい光を放った。真昼の星が降ってきたのかと思った。
咄嗟に瞑った眼を開くと、フェレの前に金色の星が浮いていた。それは眩く光り、金の糸を吐き出した。それはフェレ、ベラ、アリス三人の胸を繋ぎ、一層強く輝いた。
「綺麗だ……」
ロゼが小さく呟いた。
「美しすぎて、怖いよ、わたしは」
手の平で目を覆い、ノキノは言った。
その時、胸が苦しくなるほどの絶叫が響いた。
「絆を切りなさい!」
額から血を流しながら、キュカが瓦礫から立ち上がっていた。その声音に圧されたのか、金色の光が急速に薄くなっていく。
「何度過ちを繰り返せば気が済むのですか!」
枯れた声で叫び、ふらついた彼女の体を支える影があった。それは屈強な男だった。逞しい筋肉を小麦色に日焼けさせた、短髪の男が煙のように現れた。魔導師だと、直観的に分かった。男はキュカに声を掛けた。
「お師さん! 無理すんなよ」
それを見ていたロゼが、呆然と独りごちた。
「アトル……」
男が、はしばみ色の瞳をこちらに向ける。そして、彼の視線がロゼを捉えると、目を見開いた。低い声で男は言う。
「ああ……、お前は悪魔と一緒にいたガキじゃねえか。……大きくなったな」
アトルは眉を下げ、薄く笑って目線を外した。
「お前達には可哀想なことをしちまった。許してもらおうなんて思ってないが、俺はずっとあの日を後悔して生きてきたんだ」
男に肩を支えられていたキュカが、呻いた。
「離せ、アトル。悠長なことを言っていられる時ではないんだ」
その言葉に、アトルが顔を歪めた。躊躇いがちに声を吐く。
「なあ尊師様、ずっと考えてたんだけどよ、俺らが二人を引き剥がしたことが、悪魔を生んじまったんじゃないのか?」
「馬鹿な! お前までそんな世迷言を言うのか」
フェレはキュカに向かって歩み出した。苦しげにキュカは顔を背ける。けれどフェレは傷だらけの姉弟子を見つめ、真っ直ぐに言った。
「キュカ=ベルトラン、私たちの決断は、間違っていたのではないでしょうか…?」
言葉にしてしまうと、悲しみが濁流のように溢れ出した。一筋の涙が頬を伝う。キュカは唇を噛み締め、俯いた。その灰色の髪が額に垂れるのを見ても、心が欠片も動かないことが、殊更に虚しかった。




