ロンディスティーヌ姉妹(かこい)
姉は妹を抱き締めた。妹の手には、温かい液体が伝った。姉は言う。
「いいの、いいのよ。あなたは何も知らなくていいの。知らないままで、わたしの側にいて。どこにも行かないで。わたしが守ってあげる」
今にも泣き出しそうな、悲痛な声だった。
食器が、果実が床に散らばっていた。白のテーブルクロスには、紅茶が大きな染みを作った。
背丈ほどもある大きな窓から差し込んだ陽光が、二人を照らした。細微な刺繍が施されたカーテンは厚く、優雅な曲線を描いてたわんでいる。
妹は強く目を瞑り、意を決して姉の肩を押した。姉は小さく痛みに呻き、数歩よろめいて床に膝をついた。
「ごめんなさい、姉さま」
妹は押し殺した声で言った。
「私は、知りたい。もう、知らないままでいたくない」
最後に、妹は胸のあたりの空気を掴んだ。それを姉の頭上にそっと離す。
頭を振り、妹は歩き出した。紺碧のドレスの裾が揺れる。己を置き去ろうとするヒールの音に、姉は力なく手を伸ばした。
「行かないで。ここにいて」
妹は振り返らなかった。力強いその背中は金色の光に包まれ、その輝きが増すごとに妹の姿は薄れてゆき、終いには光に飲み込まれた。
妹の消えた世界で姉は一人、妹に待ち構える苦難を嘆いた。




