89話 慰労会をしたよ
カレー。
別世界での国民食の一つ。
私の場合、外で食べるカレーはいわゆる「昔ながらのカレー」が多かったのだが、作るのはスパイスから調合していろいろ入れた変なカレーばっかりだった。
そういう、調剤のようなことが好きだったんだろう。
薬効を調べることも好きだったし。
で、その別世界での経験を活かし、匂いを嗅いで掛け合わせて作った
『発酵トマトと発酵オレンジで煮込んだオーク肉カレー』 だ。
字面がすごいな、おいしくなさそうだ。
ちなみにオーク肉は、ソードのためだ。
皮に近い部分を使った。
そう!
コラーゲンだ‼
オークは人に近い肌をしてるから、しかも結構美肌なので、さぞかしコラーゲンやセラミドが豊富だろう、そう思って作った。
これでスキンケアオイルも作った。
内から外から美肌になっていくがいい。
後は、お決まりのヨーグルトと刻んだピクルスの付け合わせや、揚げ豆スパイス塗し、タンドリーコカトリス、等。
私はお決まりのラッシーぽい飲み物を作って飲んだ。
皆は酒だな。
うん、女性すら酒か。
だが、皆、うまいうまいと食べてくれている。
「はぁ~。インドラ様と結婚出来たら、人生薔薇色ですねぇ~」
って、女性メンバー(テロールとか名乗られた)にうっとり顔で言われた。
シーン。
と、静まる。
「いや、私は生涯独身主義だ。男とも女とも結婚するつもりはないな」
と言ったら男共がホッとしたぞ?
ん? 皆、テロール狙いか?
くそう、乳か! 乳がいいのか!
「え? インドラ様って、男もアリなの?」
ってリーダーのシャインに言われたし。
「だから、男も女もナシ、と言っただろうが」
何を聞いている。
「インドラ様って、元女、なんスよ」
「「「「えーーーーっ⁉」」」」
ベン君がとんでもないこと言い出したぞ?
〝元〟ってなんだよ。
私は今でも女だ。
「だから、拠点のお屋敷じゃ、メイドさんたちが、『インドラお嬢様』って呼んでるんスよねぇ。たまに女装してるし」
「ベン君? もしかして君は、私に殺されたいのか?」
途端にブルブル首を振った。
ソードがゲラゲラ笑ってる。
皆の視線がソードに集まり、笑いを収めたソードが今度は苦笑した。
「いや、女だって。そのこと忘れるけど」
「「「「えーーーーっ⁉」」」」
「悲劇の伯爵令嬢ッスからね」
あぁ……そのネタか。
一度パーティで広めたからなぁ。
もう忘れ去られたかと思ってた。
「その髪は……」
テロールがプルプル指を差した。
「あぁ……これはな、悲劇の伯爵令嬢らしい話だぞ? 昔、貴族令嬢だった私は、母親が死んでから乗り込んできた男に冷遇され、金もビタ一銅貨すら出してもらえなかった。髪は、当然伸びるだろう? 本来なら、専門の整髪師に切ってもらわねばならんのだが、当然呼んでもらえず、自力で呼ぼうにも金がない。それで、男と一緒にやってきた娘に頼んで、切ってもらったのだ。幼い手でガタガタに切られても目立たぬよう、短くな」
シーン。
「俺と会ったときは、頭洗うのが楽、とか抜かしたけどな」
「そう、それもある」
うなずいた。
「いやー、インドラ様って、結構苦労してたんスねー」
君が言うと全く苦労してる風に聞こえないな。
皆、綺麗に平らげ、慰労会終了。
魔術を使って一気に食器洗浄。
ついでに清掃。
魔術師のリーダー、目をむいてます。
「…………。なんだろ? あり得ないものを見た気が?」
「大丈夫、自信を持てよ。俺だって出来ないし、【血みどろ魔女】にも出来ない。アレは、やつだけのオリジナルだ」
「…………あ、そうなんですね」
ソードが慰めてる。
「そうだ。私はむしろ、お前たちの使う魔法が使えない。だから、お相子だ」
と私も慰めたら、目をパチクリさせた後、笑った。
全員お泊まり。
部屋はあった。
明け方の薄月メンバーは「うーん、久しぶりに固いベッドかー」と言ってたが。
私とソードは、低反発マットレスを敷いて、羽毛の掛け布団で寝るんだけどね。
だって固いんだもん。
カレーのライスはバターナッツライスです。
米が手に入ってないので使えないのが残念。




